検索サイトでがん患者に症状別レシピを 医療機関が取り組む「支持療法」
がんの手術や抗がん剤の使用によって食が細くなることがある。食べられない原因はさまざまだが、栄養が足りないと体力の回復が遅れ、治療にも影響がある。そうした状況でもおいしく食べられる食事を研究し、料理教室で普及を図ってきた国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)は、その成果を基に症状別レシピ検索サイトを公開、活用を勧めている。
料理教室から発展
昨年12月。東病院にほど近い駅前にあるキッチンスタジオで、がん患者とその家族向けの「柏の葉料理教室」が開かれた。2008年から開催している。
この日のテーマは「貧血がある方の食事」。薬や放射線治療によって血液をつくる作用が低下したり、食事量の減少や消化吸収の阻害で鉄分が不足したりした場合が当てはまる。立ちくらみや息切れ、疲れやすいなどの症状があるが、自覚症状がない場合も多い。
司会役の東病院管理栄養士、林賢悟さんが紹介したメニューは「アサリと小松菜のチャーハン風」「肉巻きソテー」「カブと菜のごま煮」など5品。動物性と植物性の鉄分の豊富な食材を組み合わせ、入手しやすさや調理の容易さも考えた。
参加者と並んで調理を進めながら林さんは「植物性の鉄分はビタミンCと組み合わせると吸収が良い」「緑茶やコーヒー等のタンニンは鉄分の吸収を阻害しやすい」など、栄養の知識や調理のこつを解説する。
参加者には“常連”も多く、できた料理を囲んだ試食会では体調のことや家で実際につくってみた経験などを和やかに話し合う。会話の中からレシピの改善点、修正点が見つかることも多い。
東病院がんサポーティブケアセンターの全田貞幹副室長(放射線科)によると、がん治療には食事で体力を維持することがとても大切だ。「体力がないと、抗がん剤の副作用が強くなり治療を中断せざるを得なくなる場合がある」という。
同時に、「食べられないことで生活の質が制限される」と全田さん。何が食べられるのか、食べていいのかが分からないと、例えば知人とのランチに行けなくなったり、仕事の会合に出られなかったりする。外見では分からないため、患者は一層悩むという。
管理栄養士が工夫
料理教室の目的は栄養摂取や調理のノウハウを教えることだけではない。「食卓での会話やコミュニケーションの楽しみを取り戻してもらう。こうしたら食べられますよ、と最初の一口をお手伝いしたい」と東病院の千歳はるか栄養管理室長。
病院の管理栄養士が提案し、試作しては改良を重ねてきたレシピは1300品を超えたという。
千歳さんによると、がん症状別レシピ検索サイト「CHEER!(チアー)」は、症状、主菜・副菜などの料理区分、食材、フリー語句の4種類の検索が可能だ。例えば症状は、食欲不振、吐き気・嘔吐、味覚変化、口内炎・食道炎、下痢、便秘、消化器手術後、貧血の八つから調べられる。
検索結果の料理のページでは詳しい作り方のほか「一度に2品、体調が優れないときでもつくりやすい」「味が薄く感じる方向けの1品」「酸味が効いて、吐き気があってもさっぱり」などのコメントがある。
現在は100品目だが、今後の反響や寄せられた意見に応じて追加、充実させていく方針だ。
全田さんは「こうした取り組みをほかの医療機関にも広げていきたい。患者にどのような食事が望ましいかというテーマは(がん患者の生活の質を改善するために行われる)『支持療法』の一つとして研究されるべき分野だ」と強調した。
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