人生を豊かにするのは「やり抜く力」
グローバル基準の人材を育てる「STEAM(スティーム)教育」。構成要素のひとつである「Arts(アート)教育」は、創造性を育むのが主な目的です。ただ、創造性といっても、図工やお絵描きなどのいわゆる芸術に限らず、例えば、コミュニケーション能力や人間力などの非認知能力も含まれます。
その非認知能力の中でも重要とされているのが「やり抜く力」です。それを理解するのに多くのヒントを与えてくれる書籍があります。数年前に世界的にヒットした『やり抜く力GRIT―人生のあらゆる成功を決める究極の能力』です。「GRIT(グリット)」とは、度胸(Guts)、復元力(Resilience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)の4語の頭文字を並べた言葉です。日本語版ではその4語を総称して「やり抜く力」と訳しています。
著者は心理学者で、ペンシルベニア大学教授のアンジェラ・ダックワース氏。彼女は、世界中の著名人たちが素晴らしいアイデアをプレゼンテーションする「TED Talks」でこう結論づけています。
「人生の成功を約束しているのは、IQではなく、やり抜く力です。やり抜く力とは長期目標に対して情熱や忍耐力で、スタミナがあることでもあります。明けても暮れても、自分の将来にこだわることです」
本の副題が明言しているように、大きな成果を出すのに必要なのは、先天的に与えられた才能やIQではなく、後天的に獲得できる「やり抜く力」だということです。(※日本語字幕付き動画はhttps://www.ted.com/talks/?language=jaでご覧になれます)
とはいっても、毎日断続的に続く日常のなかで、子どもも大人も、意識高くモチベーションを持ち続けることは容易なことではありません。やり抜くための「モチベーション」はどのように維持したら良いのでしょうか。
情報操作もテクニックのうち
モチベーション、やる気、やり抜く力…。私も、頭では理解できます。ただ、一母親としては、「歯磨きしなさい!」「お風呂から上がったら早く着替えなさい!」「○○やめなさい!」といった、我が子に対する毎日の言動の隙間のどこに「モチベーション」という意識の高い、かっこいい言葉が差し込めるのだろうと疑問に思います。
そこで、“教育のプロ”に現場の生の声を聴いてみました。「GG International School(以下、GGIS)」でキンダー部カリキュラムコーディネーターを務めるMr. Jesus(ヘスース先生)に子どもの「モチベーション」についてたずねてみたのです。すると、意外な言葉が返ってきました。
「情報操作…というと大げさだけど、クリエイティブな見せ方を常に心がればよいのだよ」
ん? 情報操作とモチベーションがどうつながるのでしょうか。例えば、下の2つの選択肢を与えられた子どもの反応を想像してみてください。
- (1)デザートにアイスクリーム食べる?
- (2)夕飯にアイスクリーム食べる?
どちらのほうがリアクションが大きく、テンションが上がると思いますか? もちろん「(2)夕飯にアイスクリーム」です。夕飯にアイスクリームを食べることなんて「ありえない!」。この「ありえないこと」の裏にある「希少性」を子どもたちは見抜き、そこに飛びつきます。もちろん親として夕飯にアイスクリームだけを食べさせることは栄養学上できませんが、夕飯を2回設けてはいけないルールはどこにもありません。「夕飯」の定義をすこーし広義に捉えているだけです。
屁理屈のようですが、子どものモチベーションを上げる効果は抜群。親として子どもに対して、魅力的なものに見えるようプレゼンし、表現の仕方を変えて引き込む。「切り口」を変える。Mr. Jesusはこれらを「情報操作」と呼んでいるのです。これはビジネスマンも常に学ばなければならない姿勢です。
「希少性」でやる気に結びつける
GGISでは、おもちゃも全部が同じように並んでいるわけではありません。たまにしか遊べない“ランクが高いおもちゃ”というのを意図的に用意しています。現在、その王座に君臨するのがドミノです。子どもたちに大人気のドミノですが、普段遊べないから、より神々しく見える。遊べると嬉しいし、学ぶモチベーションや意欲になるようです。普段はできない・やらない、こうした非日常性も「希少性」といえます。
希少性は、環境を変えることによっても演出できます。例えば、普段は大人から「書いてはいけない」と言われている鏡に数字の練習をさせてみます。いつもはワークブックやボードで練習しているのに、「鏡に書けるの!?」と目をキラキラさせます。数字の「4」を書いているという意味では紙の上と同じですが、普段と違う環境に、とてつもない意欲と集中力を発揮してくれます。
こうした工夫は家庭でも取り入れられそうですね。普段、洗面所で歯磨きをしているならば、玄関での歯磨きを提案してみましょう。賢い子は「なんで?」という質問を返すかもしれません。この議論に持ち込めれば、こちらの“勝ち”です。「歯磨きをしなさい!」から、「どこで歯磨きをすべきか」の議論に変われば、ママ・パパも少し楽しくなるのではないでしょうか。
「褒める」は年齢別に使い分け
GGISでは、年齢によってモチベーションの上げ方は異なります。ベビー(乳幼児)に対しては、とにかく褒めまくります。「靴が履けたの! お祝いしよう!」「ご飯、全部食べられたの! スーパーヒーローより強くなっちゃうね!」などなど褒めちぎります。
褒めて育てるのは効果的ですが、3歳ごろになってくると褒めているこちらの意図を理解するようになります。小学生になると、先生に褒められることだけでは満足いかず、競争で同級生に勝つことや自分や自分のアイデアが受け入れられたことに、より価値を置くようになります。
子どもは希少性をしっかり測っています。あとはバランスとの戦いです。普段から褒めていると、“褒められ慣れ”してしまいます。そういうときは、少し手法を変えて、試練を与える、競争にしてみる…と切り口を変えてみてくださいね。
子どもとの「競争」を楽しむ
これまでお話ししたように、切り口を変え、モチベーションを保ち、一つのことを学びぬくことが長期的には「やり抜く力」につながると考えています。これを小さい頃から繰り返すことで、やり抜く力が養われます。
子どもは正直なので、つまらないものはつまらないと言ってくれます。飽きたら、言うことを聞いてくれません。そのため、先生もクリエイティブであることが求められます。飽きやすい子どもと一緒に考えながら、楽しく学び続ける。楽しく教え続ける。大変ですが、「完成形がないからこそやめられない」と先生たちは口を揃えて言います。
家庭でも同じ。私もひとりの母として、我が子との「クリエイティブ競争だ!」と思えば、今夜を楽しく乗り越えられそうです(笑)
【グローバルリーダーの育て方】は、100%英語環境の保育園やアフタースクールを経営する女性社長・龍芳乃さんが、子供が世界で通じる「人間力」「国際競争力」をどう養っていくべきかを説く連載コラムです。アーカイブはこちら