【今どきワークスタイル】新型肺炎に対応、在宅勤務で感染リスクから守る GMOインターネット

 

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大する中、IT大手のGMOインターネット(東京都渋谷区、以下GMO)が先月27日から、渋谷、大阪、福岡の3拠点で働くグループ社員約4000人を在宅勤務に切り替えた。在宅勤務は大規模災害や新たな感染症の発生などの非常時に有効な事業継続策の一つとされ、専門家は「今後も在宅勤務に切り替える企業は出てくるだろう」と話す。GMOの場合、平時から在宅勤務訓練などに取り組んできたことも、早い対応につながったようだ。(津川綾子)

 「新型肺炎」に対応

 1月最後の日曜日となる26日の午後8時すぎ。GMOでグループ会社の総務業務を担当する桜井康志さん(33)の携帯に、会社から1通のメールが届いた。会社が自然災害などの非常時に運用する安否確認システムからのメールで、「在宅勤務体制について」と記されていた。

 「地震の時に来る安否確認メールとは違う、非常時の温度感だった」と桜井さん。メールの文面には、1月27日(月)から2月7日(金)までの2週間、東京・渋谷、大阪、福岡の3拠点を在宅勤務に切り替えると記されていた。続いて届いた別のメールには、自宅のパソコン(PC)から会社のネットワークに接続する手順とともに、翌日やむを得ず出勤する場合はラッシュを避けるようにとの内容が記されていた。

 1月27日。渋谷で来客対応があった桜井さんは混雑を避け1時間早く出勤。受付閉鎖の段取りや、電話の転送設定、出社した社員が使うマスクの出庫作業などを済ませ、28日から在宅勤務を開始した。

 「違和感なく業務」

 28日は通常と同じ、午前9時から自宅のPCで勤務を開始。電話転送の作業や請求書の処理などを行った。その日の作業は社内チャットに書き込み、上司や同僚に伝えた。

 「非常時の対応に追われたことを除けば、自宅のPCから会社のシステムが利用できるため違和感なく業務が進められそう」と桜井さんは話した。

 GMOが在宅勤務の検討を始めたのは24日。渋谷、大阪、福岡のオフィスは観光客も多く集まるエリアに立地する。中国で春節(旧正月)の大型連休が始まる日で、観光客の来日が増えることが見込まれた。

 検討や決定を行ったのは、社長や副社長らからなる「災害対策本部」だ。

 国内で感染1例目が発表された16日に招集し、25日には全従業員に「人混みの多い場所への外出はなるべく控える」「手洗いは30秒以上かけて手のひら、甲、指の間、爪の先、手首をしっかりせっけんで洗う」など注意喚起情報を出した。

 平時にも取り組み

 26日、在宅勤務の決定は、在宅のオンライン会議で実施。午後8時すぎ、安否確認のシステムを通じ、全従業員に連絡した。

 同社は在宅勤務を実施した理由を「インターネットの社会基盤をサービス提供する会社として、安定して事業継続できるよう体制を取った」(広報)とする。

 やむを得ず出社する場合も、公共交通機関の利用は控え、タクシーや自家用車での出勤を許可。社員に気密性の高いマスクを配布し、できる限りの対策をとった。

 こうした取り組みを可能にしたのは、非常時の事業継続を経営課題ととらえる姿勢だ。東日本大震災が発生した平成23年、「災害対策本部」を発足。以降、平時から年に1度、一斉在宅勤務訓練を実施。昨年10月からは必ず毎月最低1日のリモートワークに取り組む試行を一部で始めた。

 効率下がる懸念も

 在宅勤務の導入支援を行う「テレワークマネジメント」の田澤由利代表は、GMOの取り組みについて、「ウイルスの潜伏期間が長くて14日といわれる中、早めに在宅勤務に舵(かじ)を切った判断は適切だ」とし、「今後も在宅勤務に切り替える企業は出てくるだろう」との見通しを示す。

 「ただ、何週かにわたり行う場合、在宅勤務に慣れていない企業だと、業務効率が下がる懸念もある。年に1度の訓練だけでなく、平時の勤務に在宅を積極的に取り入れることが、非常時の事業継続にも役立つ」とも話している。