【お金で損する人・得する人】知らないと損 サラリーマンを襲う所得税増税の防衛策を伝授
2020年1月からひっそりと所得税が増税になっているのをご存じでしょうか。万人が反対する消費税と比べると盛り上がらず、表現を変えればこっそりと増税になったのが所得税です。
給与所得控除を引き下げ
少し前ですが、平成30年度の税制改正で2020年(令和2年)1月1日から所得税が増税されることが決まっていました。具体的に変化したのは下記の項目です。
1.給与所得控除と公的年金控除から基礎控除への10万円分の振替
2.給与所得控除の引き下げ
3.高所得者高齢者の公的年金控除の引き下げ
4.超高所得者の基礎控除消滅
まず、所得控除について説明します。所得税には複数の所得控除という枠があります。所得控除を利用すると、所得税の計算をする際に必要となる所得の額を減らすことになります。所得と収入は異なり、いわゆる年収が収入にあたります。
会社員や公務員は収入から所得控除をマイナスした金額が所得になります。税金の計算の際は、この所得を課税所得と言ったりします。漢字からも分かるように課税するための計算のもととなる所得ですから、単純化すると所得×所得税率=所得税額となります。
実際の所得税計算は少し複雑ですので、興味のある方は国税庁HPを参照ください(国税庁 タックスアンサー 所得税の税率)。
所得控除の種類はたくさんあります。社会保険料控除、給与所得控除、小規模企業共済等掛金控除、医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除、雑損控除、基礎控除、障害者控除、寡婦控除、寡夫控除、勤労学生控除、扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除。覚えきれないほどですが、一度は聞いたことのある所得控除もあるでしょう。
この中の最も大きな金額になる所得控除の一つが給与所得控除です。給与所得控除は、会社員の経費とも呼ばれている所得控除です。経費が減るので、利益に相当する所得が増えることで、所得税額が増えることになります。
自営業、フリーランス、請負業者は控除枠増
上記4つを改めて考えてみましょう。
・給与所得控除と公的年金控除から基礎控除への10万円分の振替
給与所得控除は会社員、公務員限定の控除ですが、基礎控除は一人一人に等しく与えられた控除です。ということは、自営業、フリーランス、請負業者は控除枠が増えます。つまり、所得税が下がるということにつながります。将来的に副業を本業にしたい人にとってはいいニュースなのかもしれません。一部の人には減税の効果があります。
・給与所得控除の引き下げ
年収が850万円以上のひとは、給与所得控除の金額が下がります。これは、税金の計算上の所得を増やす効果を生むため、所得税の納税額が増えます。給与所得控除の上限が220万円から195万円になるため、控除が25万円減少しています。
実際は、基礎控除が10万円増えていますので、マイナス25万円+10万円となり、所得控除の増減はトータルでマイナス15万円となります。ややこしいのですが、増税です。税金を増やすと知っていたら、反対しそうな内容ですが、一般的に所得税の知識が豊富な人はほぼいませんので、説明しても理解してもらえないかもしれません。知っていたとしても、高所得の人限定なので賛成の人もいるでしょう。消費税のような大問題にならずに、スムーズに増税になった印象です。財務省では給与所得控除の適正化と表現しています。ただし、子育て世帯では増税負担がなくなる仕組みです。
・高所得者高齢者の公的年金控除の引き下げ
年金収入が1000万円以上ある人(全国で3000人程度)、年金以外の収入が1000万円以上ある人(全国で20万人程度)となります。後者は賃貸収入や事業収入がある人を想定しているのかもしれません。シニアで収入の多い人から税金を納めてもらおうという趣旨でしょう。そもそもの対象者が少ないですから、反対者は少ないでしょう。年金収入だけで1000万円以上ある人は、筆者も出会ったことがないくらい珍しい方々です。財務省では公的年金等控除の適正化と表現しています。
・超高所得者の基礎控除消滅
年収2400万円以上の人は、基礎控除が段階的に減ります。年収2500万円を超えると基礎控除が0円になり消滅します。この所得帯の人たちは、給与所得控除の減少に加えて、基礎控除が消滅することで、増税の影響を最も受けます。財務省では、基礎控除の適正化と表現しています。
得した人、損した人
恩恵にあずかり納税額が減る人
・自営業、フリーランス
基礎控除が増えるため、減税の効果があります。
損も得もしない人
・年収850万円以上の子育て世帯
※結果として減税と同じ効果
増税で納税額が増える人
・年収850万円以上の人
・年収2400万円以上の人
・年金収入1000万円以上の人
・年金以外の収入が1000万円以上ある人
今後、損する可能性のある人
ご自身の年収が850万円未満の方は他人事だと思うでしょう。しかし、実は今後さらなる増税が導入される恐れがあります。
日本の給与所得控除は諸外国に比べて多く、税金を適正に徴収できないと考えられているのです。例えば、アメリカ並みになると、給与所得控除は68.6万円になります。この数字は、年収180万円未満の人とほぼ同額。すなわち、今後850万円未満の人たちにも増税される可能性が高いということです。その時期は未定ですが、まず間違いないでしょう。
増税に備える方法
所得税の増税に備える方法はいくつか考えられます。
1.未利用所得控除の活用
例えば、iDeCoに加入すると、小規模企業共済等掛金控除が活用できます。一度加入すると解約できませんが、所得増税に対抗する手段として有効です。まだ加入していない人は、検討の余地ありと言えます。
2.稼ぐ人を分散させる
1人で年収1000万円よりも、夫婦がそれぞれ年収500万円の方がそれぞれに給与所得控除、社会保険料控除が使えるなど所得控除の枠を倍増させる効果があります。
3.子どもを育てる
子どもを育てている家庭を支援することを明確にした税制ですから、子供がいる人は増税の影響がないという仕組みになっています。子供が欲しいと思っていた人には、朗報と言えるでしょう。
これから益々の増税が控えている日本。お金の知識で損をしないためにも、しっかり考えておきましょう。
【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら
関連記事
-
【お金で損する人・得する人】「親と会話が噛み合わない?まさか認知症?」となる前にできること(後編)
-
【お金で損する人・得する人】「親と会話が噛み合わない?まさか認知症?」となる前にできること(前編)
-
【お金で損する人・得する人】あおり運転に備える自動車保険のドラレコ特約 年末年始のトラブル対策に
-
【お金で損する人・得する人】台風被害でも火災保険がおりない 「知らぬ間に契約切れ」「水害補償なし」
-
【お金で損する人・得する人】老後資産形成へ税制優遇でも「iDeCo」が広まらない本当の理由
-
【お金で損する人・得する人】豪雨で自動車が水没 保険金は受け取れるのか 自宅はどうなる?
- その他の最新ニュースはこちら