【5時から作家塾】英会話豆知識 年賀状に「A Happy New Year」と書いた人は来年からやめよう

 

 英語を話す時、我々にとって厄介な「冠詞と名詞の単複」

 The や a、anといった冠詞(もしくは無冠詞)や名詞の単複は、筆者を含めて日本人が最も苦手な部類の英語のグラマー分野だろう。

 なにせ日本語の名詞は常に同じだ。

 特定のみかんがほしい時に「ざみかんをください」といったり、複数のミカンを腐らせてしまった時に「みかんずがダメになっちゃった…」と言ったりしない。ましてや「ざみかん」と「あみかん」で指すものが変わってきたりは、絶対にしない。

 3種類ある文字を何千も覚えねばならず、TPOに合わせて様々な敬語を使い分けねばならない日本語は、外国語としての学習者には「難解だ」と不評だが、名詞が活用も冠詞もなく絶対的に不変な点は一つの大きな安心材料ではないだろうか。

画像:SozaiGood

 実は超重要なaとtheと無冠詞の違い

 所詮多くてアルファベット3文字の冠詞や複数形のsなど、つけ忘れようが間違えて付けようが大した問題ではあるまい…そもそもネイティブだってグラマー通りにしゃべっているわけではないし、と思いがちだが、実はスペリングが日本人の受験生より怪しいようなネイティブでも、これを間違えることはほぼない。彼らは言及したい対象を特定した時点でaかtheかは明確で、私たちが習うようにまず名詞が先にあって、それに冠詞をつけよっかなーどうしよっかなーという考え方ではないからだ。

 冠詞によって文の意味が全く違ってくる場合

 特に要注意なのは、複数形・単数形と冠詞の組み合わせで名詞が指す対象自体が違ってくる点。

 ネイティブの英語話者を捕まえて、「I=私」は「cat=ネコ」が「like=好き」を、何の脈絡もなしに言ってみたらどんな意味に取られるのか? 実験してみた結果をまとめたい。

 もちろん言語なので、「この場合はその限りではない」「いつもそうではない」ということを言い始めたらきりがないが、冠詞と名詞の単複の使い分けの基本的な部分をざっくり分かりやすく描写できれば幸いだ。

 ◆その1 a+単数形

 私「I like a cat.」

 英語話者「Ye…s? What kind of cat? (はあ?で、どんなネコなの?)」

 コメント:そもそも変な文で、私たちが人生の中で「I like a cat.」という文章を使う場面はまず思い浮かびません。a catということは、複数いるネコのうちの一匹、もしくは任意の一匹のネコですから、「不特定の一匹のネコが好き」というヘンな意味になります。「I saw a cat sleeping on the roof.(屋根の上に知らんネコが一匹寝ているのが見えた)」みたいな文脈ならa catもありです。

 結果: a cat=「私は不特定の一匹のネコが好き」

 ◆その2 the+単数形

 私「I like the cat.」

 英語話者「Which cat? (どのネコ?)」

 コメント:今までネコの話なんかしていなかったのに、いきなりなんだよと思いました。The catは、既に話題に上った特定のネコがいる場合に使います。「I got a cat!」なら「ネコ飼ったの!」ですが、「I got the cat!」だと「前から話していたあのネコ(ついに)飼ったの!」です。他には、「I like the cat Mami has.(マミが飼っているネコが好きなの)」と、すぐに関係代名詞で特定する場合も可です。

 結果: the cat =「その(今まで話題に上っていた、もしくは今特定するところの)一匹のネコが好き」 ※the catsと、the+複数形にした場合も、ネコが複数になるだけで他はこれと同様

 ◆その3 無冠詞+複数形

 私「I like cats.」

 英語話者「oh ok, I know you do. (はいはい、あなたはネコ好きだよね)」

 コメント: っていうか、最初から普通に「ネコが好き」と言いたかっただけでしょ?どうしてこれを最初に言わないんですか?

 結果: 無冠詞+cats = 「ネコ一般が好き」

 ◆おまけ 無冠詞+単数形

 私「I like cat.」

 英語話者「…オイシイですか…?!(どん引き)」

 コメント: ネコ食べるのが好きって言いましたよ今!

 結果:無冠詞+ cat = 「食材としてのネ〇肉が好き」(ネコ好きとしてあまりに不快な表現となるため伏字にすることをお許しください)

画像:Pixabay

 さらに厄介な可算名詞・不可算名詞どちらもある名詞

 「ネ〇肉」つながりでもう一つ付け加えると、意味によってa- や ~sを付けて複数形にしていい加算名詞と、そうしてはいけない不可算名詞と両方に使える名詞がある。

 「chicken」は複数形にできない「不可算名詞」として扱えば食材の「鶏肉」だが、a- や ~sを付けて「可算名詞」として扱えば「ニワトリ」だ。

 「I like chicken.」は「私は鶏肉が好き」な私のお仲間だが、「I like chickens.」は「私はニワトリが(動物として)好き」な少々珍しい人である。

 「A chicken chased me at the farm yesterday!」は「昨日牧場でニワトリ(一羽)に追いかけられたんだけど!」であり、「鶏肉が追いかけてきた」という怖い話では絶対にない。

 実際、鶏肉はどれだけ多くても複数形にはならない。肉屋で「300 gram of chickens please.」と言えば、「生きたニワトリを合計でちょうど300グラムになる組み合わせで複数下さい」という変わった(そもそも店を間違えている)注文だし、カーネルおじさんのお店で何ピースのフライドチキンを食べようが「I ate many fried chickens.」などと言ってはいけない。あなたは「丸ごと(なんなら生きたまま)揚げたニワトリを何羽も食べたよ」と言っているのだ。

「食材」か「動物」か迷う例だが(画像:Unsplash)

 light(不可算名詞)は「光」だが、a light, lightsは「照明器具」だ。「Let there be light」は「光あれ」だが、「Let there be a light」は「そこに照明器具一つ置いとけよ」だ(神っぽい言い方になるが)。

 iron(不可算名詞)は「素材としての鉄」だが、「an iron, irons」は家電の「アイロン」だ。「The alchemist tried to change iron into gold.」なら、鉄を金に変えようとしたごく普通の錬金術師だが、「The alchemist tried to change irons into gold.」だと「(家電の)アイロンを片っ端から金に変えようとした」若干変わった錬金術師だ。

 今年の年賀状、大丈夫?

 たかがアルファベット1文字や3文字の冠詞、名詞の単複がここまで文章の意味を左右するなんて、学校では警告してくれなかった。「a」は「ひとつの」、以上! ではなかったのか。しかし、知ってしまったからには気を付けるしかない。

 そしてちょっと遅めだが、もしも今年の年賀状に書いてしまった人がいたら来年からやめたいのが、「A Happy New Year!」。

 非常によくある間違いで、それを見たネイティブがその違和感に身もだえしている場面によく遭遇した。お祝いの言葉として「A happy birthday!」という人も、「A merry christmas!」と言う人もいないだろう。もちろん「I wish you a merry Christmas!」などと文章の中ではaが要る。何回も来るクリスマスのうちの一つに言及しているのだから。しかしなぜHappy new yearだけ挨拶文でもaがついたまま定着してしまったのかは分かっていない。わざわざ「ハッピーニューイヤー」に名詞感を強めて「とある良い新年!」と言っているような感じだとのこと。

 同様に挨拶の言葉として「Congratulations!!」もよく使うが、これは「Congratulations!!」と可算名詞+複数形で初めて「たくさんのお祝いの気持ちを込めたおめでとうのメッセージ」になるのであって、不可算名詞扱いでは単なる「祝賀」という概念だ。最後のsなんて付けても付けなくても大した変わりはないでしょ、と「Congratulation!!」と投げかけると、「満面の笑みで『祝賀!!』と叫んでいる人」になる。「Thanks(ありがとう)!」とは言っても、「Thank(謝意)!」とは言わないのと同じだ。

 墓穴にはまるときりがない冠詞と単複の世界だが、最後の例として筆者と夫(英語話者)が今さっきした会話を、恥を忍んで晒そうと思う。

 私「How do you choose the shirt you wear that day?(その日に着るシャツはどうやって決めているの? → 彼は日本のアニメものやご当地物のTシャツを100枚近く持っていて、毎日かわるがわる仕事に着ていく)」

 夫「I pick A shirt.(適当に1枚着るんだよ)」

 使いこなせると、たった一文字でここまでの怠惰さとファッションへのこだわりのなさを表現できる冠詞。毎日英語で生活している筆者もまだまだだが、こんな筆者にも分かりやすい使い分け法を他にも仕入れたらまたお話したい。ではではみなさん、Enjoy THE rest of your day!(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

【プロフィール】5時から作家塾(R)

編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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