【5時から作家塾】食べるだけでなく作ってみたい 外国人旅行者に大人気の料理体験サービス

 

 埼玉県草加市で英語講師を務める楠川美江さんは、ある副業で人気を集めている。それは日本を訪れる外国人観光客への料理レッスンである。

 人気メニューは、キャラクターを再現した弁当。いわゆる「キャラ弁」だ。世界でも人気の高い日本のキャラクターを弁当にできるとあって、予約はひっきりなしの状態である。

エアキッチンでホストを務める楠川美江さん。キャラクター弁当で人気を集めている

 「一番人気があるのはトトロですね。それと海外に熱狂的なファンが多いピカチュウ。ハローキティも人気ですが、シンプルに見えて意外と表情を作るのが難しいのです。キャラ弁は、どちらかというと料理よりも工作に近いので、外国の方が簡単に作れるように工夫をしています」(楠川さん)

 楠川さんはレッスン前にメールでゲストとやりとりをして、相手の希望をていねいに聞いている。子どもにキャラ弁を作ってあげたいお母さんには、いろいろなスキルを教え、親子連れには日本の風習や暮らしにまつわることを話してあげるという。

 「いつもゲストの方に100%満足してもらうよう工夫をしています。教えてもらうことも多くて勉強になりますし、とても楽しいです」

 彼女が登録をしているのが、エアキッチンというサービスである。これは料理を体験したい外国人旅行者(ゲスト)と、教えてあげたい日本人(ホスト)をつなぐ、食のマッチングサービスである。2017年に始まり、これまでに2万人以上(ゲスト、ホスト含む)が利用している。現在は47都道府県すべてにホストがいて、地方ならではの料理体験も可能だ。海外からの旅行客数が伸びるにつれて、人気が高まっている。

 ゲストは、オンライン上で希望の料理体験を選び、リクエストを送る。ホストからOKがでれば、予約が成立。後は個別に連絡をとりあって、料理体験をするという流れになっている。

 ホストには、プロの料理人も

 エアキッチンのホストには、プロの料理人も多い。その一人、多田安伸さんは東京・中目黒で寿司割烹を営んでいる。お店のアイドルタイムを利用して、外国人に寿司の作り方を体験してもらっている。

 「昨年の10月に登録したのですが、その2日後には予約がありまして驚きました。ただ、私は英語があまり得意ではないので、最初は不安があったのですが、始めてみると外国の方は流暢な英語は期待していないことが分かり、ホッとしました」(多田さん)

 多田さんは翻訳アプリを使うこともあるが、ジェスチャーで十分に伝わるという。

 「始める前にゲストが何に興味があるのかをお聞きします。最近は日本の包丁に関心のある方が結構いまして、寿司職人が使う包丁を説明することが多いですね。また、わさびは外国にないので大丈夫だろうかと思っていたのですが、おいしいという方が多くて驚いています」

フレンドリーな人柄とていねいな教え方に定評がある寿司職人の多田安伸さん

 事前のレクチャーに始まり、実際にネタを切り分け、寿司を握って味わってもらう。この体験にみそ汁と食後のデザートがついたコースとなっており、ゲストからは高い評価を受けている。

 「外国の方はとてもフレンドリーで一緒にいるだけでこちらも楽しくなります。今まで気づかなかったことを教えてくれます。どうやったら日本の良いところを伝えられるか、いつも考えています」

 立ち上げたのは、26歳の若き男性起業家

 このサービス、料理好きの女性が始めたのかと思いきや、立ち上げたのは、26歳の若き男性起業家である。その一人、エアキッチンを運営するZAZA株式会社COO・村瀬裕太さんに話を聞いた。

 「アメリカに留学していた時、友人のお宅で一緒に料理を作って食べたことがあるのですが、それが非常に印象的でした。旅先でもっと気軽に日常の料理を体験できたら面白いのではないかとひらめいて、事業化を考えるようになったのです」(村瀬さん、以下同)

 村瀬さんと共同経営者である永津豪さんは、ともに名古屋大学の出身。在学中にエアキッチンを企画して、キャンパスベンチャーグランプリに参加した。そこで見事優勝に輝いたのである。その後、会社を設立し、本格的にビジネスに乗り出すことになった。

 「現在までに世界80カ国以上のゲストの方が料理を体験しています。中でもメインになるのが欧米からの旅行者です。日本文化に興味を持ち、実際に体験してみたいという方が多いです。体験を通して日本人と仲良くなった、普段の生活を体験できて良かった、母国に帰ってぜひ作ってみたい、こんな声をたくさんいただいています」

 訪日旅行者は様々なバックグラウンドを持っている。宗教やポリシーによって食事の内容も変わる。そういった人にもエアキッチンは人気を集めている。

 「イスラム教の方ですと、戒律で豚肉やアルコールが禁止されています。また、ベジタリアン、ビーガンといった食事制限のある方も多い。日本にはこれらの料理を出すレストランはあるものの、数はまだ多くありません。そのため、細かく対応してくれるホストをエアキッチンで見つけて、食事をとるという旅行者も増えているのです」

 ゲストの要望で、今年から茶道も体験できるようになった。食事から伝統文化へとサービスを拡大している。また、日本で料理体験をして母国に帰ったゲストが、今度はホストとして提供する側になりたいというリクエストも多かったため、海外での体験プランも始めている。

 「国籍や年齢、性別などあらゆる障壁をこえて、世界中の人がつながっていく。料理にはその力があると思います。キッチン発の輪を目指して活動を続けていきたい」という村瀬さん。今後の展開がますます楽しみである。(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

【プロフィール】5時から作家塾(R)

編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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