ライフ

「おうちで美術鑑賞」 休館相次ぐ美術館、異例のウェブ発信

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国で美術館・博物館の臨時休館が相次ぐ中、広く観客に見てもらうはずだった展覧会の様子やおすすめの作品などを、ソーシャルメディアを通して発信する館が増えている。休校や休業などで自宅にこもる人も多いことから、「ありがたい」「癒される」といった好意的反応が目立つ。事態の収束が見えない中で、“おうちで美術鑑賞”の動きが広がっている。(黒沢綾子)

「江戸ものづくり列伝」展の会場で、ニコニコ美術館が生配信する様子=3月10日、東京都墨田区の江戸東京博物館
十二支が合体し家内安全に?! 太田記念美術館のツイート「おうちで浮世絵」が話題だ

 「無観客展示」を生中継

 〈中止になった展覧会をネットで開催しませんか? 費用はドワンゴが負担します〉

 2月28日、動画配信サービス「ニコニコ動画(ニコ動)」を運営するドワンゴは、政府の大型イベント自粛要請を受けてやむを得ず休館を決めた全国の美術館・博物館へ、こう呼びかけた。

 「展示を維持しながらも現状を見てもらう機会がない状況にあること、また、オンライン上でなら多くの人が安心して楽しめるのではないかと企画した」と広報担当者。これまでもニコ動は「ニコニコ美術館(ニコ美)」という枠で展覧会紹介番組を生配信してきたが、休館中の展示を取り上げるのはもちろん異例。現在まで約40館の問い合わせがあり、3月10日の夜には第1弾として、最初に連絡したという江戸東京博物館(東京都墨田区、16日まで休館予定)から生配信が行われた。

 「目玉の一つ、虎徹(こてつ)ですね」「虎徹の薙刀(なぎなた)は現在2例しか確認されてなくて、その一つを今回展示しています」

 案内役を務める永青文庫副館長の橋本麻里さんと、江戸東京博物館学芸員の杉山哲司さんの軽妙なやりとりに、「すげーキレイ」「行きたい~!!!」などと視聴者から続々とコメントが書き込まれてゆく。

 この日紹介したのは特別展「江戸ものづくり列伝」(4月5日まで)。稀代の刀工、虎徹や蒔絵師(まきえし)の柴田是真(ぜしん)ら、江戸で花開いた精緻な職人仕事に光を当てた好企画だ。学芸員3人がかりで数年かけて準備してきただけに、「(休館は)残念。再開後はぜひ足を運んで、細部までじっくり見てほしい」と杉山さんは話す。

 番組は会期終了の4月5日まで、ニコ美で視聴できる。また3月12日には三菱一号館美術館の「画家が見たこども展」を、15日には大阪市立東洋陶磁美術館の「竹工芸名品展」を、いずれも午後7時から生中継する予定。今後も“無観客展示”を「できる限り紹介したい」(ドワンゴ担当者)という。

 研究員がYouTuberに?!

 動画共有サービス「YouTube」を通じて発信を続けているのは東京国立博物館(東京都台東区、16日まで休館予定)だ。桃の節句にあたる3日には、臨時休館のため1日しか公開できなかった特集展示「おひなさまと日本の人形」(22日まで)を約20分の解説動画にまとめてアップロードした。

 「こちらへどうぞ。すっごい大きいおひなさまでしょ? これは享保雛というものです」

 がらんとした展示室で、同館の三田覚之研究員が、すぐそこにいる観客に語りかけるように、ひな人形の歴史や特徴などを熱く解説してゆく。「今年は見ることができないのかと残念に思っていたのでとてもありがたいです」。視聴者からは、こんな感謝の気持ちを伝えるコメントも。

 広報活動の一環として同館は以前からYouTubeを活用してきたが、詳細な展示の解説動画を上げるのは初の試み。「急な休館に伴い、より多くの人に展示を届けたいと考えた。短期間で9千回超の再生回数になったのは経験のないこと」(広報室)と反響の大きさに驚く。

 病封じの浮世絵も

 動画だけではない。浮世絵専門の太田記念美術館(東京都渋谷区、16日まで休館予定)は2月末から、自宅で過ごす人々に向けて、ツイッターのハッシュタグ「#おうちで浮世絵」で、心がなごむ作品を中心に発信を続けている。「大変なときにありがとう」「お家の中で心が潤う」などと好評で、リツイートも相次いでいる。

 「小中学校の臨時休校などがきっかけですね。なかなか外に出られず気分が滅入りがちな時だから、見て楽しい、なごむ作品を選んでいます」と同館主席学芸員の日野原健司さん。自身が担当した「鏑木清方(かぶらき・きよかた)と鰭崎英朋(ひれざき・えいほう)」展(3月22日まで)が“無観客”にある悔しさもあり、展示作品と所蔵品を合わせて紹介している。

 ニュースのキーワードに引っかけた作品解説が楽しい。例えば、歌や踊りに興じる猫たち。〈ライブが行われているようです。私たちの世界でも、一日も早く再開できることを願っています〉

 無観客の大相撲春場所に連動し、ウサギやネズミたちの熱い取り組みが続く。〈みんな目つきが真剣ですね〉

 手ぬぐいを口にくわえて美女が手を洗う月岡芳年「風俗三十二相 つめたさう」。〈まだ水が冷たい時期ですが、しっかりと手を洗いましょう〉

 妖怪化した病気たちを薬たちがやっつける歌川芳虎「諸病諸薬の戦ひ」など、病封じや家内安全を願う図像も多く紹介している。

 ツイッター上ではこのほか、ハッシュタグ「#自宅でミュージアム」「#エア美術館」など、休館中の美術館・博物館の発信が広がっている。橋本麻里・永青文庫副館長は「SNSはデマを広げることもあるけれど、これはSNSの良い部分が出た事例といえる。教育コンテンツとしても活用できるのでは」と話している。