【IT風土記】富山発 寄り道先をアプリでレコメンド 市街地活性化の原動力に
持続可能なコンパクトシティの形成を推進する富山市で、交通や観光をテーマにスマートフォンのアプリを活用した実証実験が2020年1月に行われた。街歩きしている地元市民に商店や飲食店のイベントやサービス、交通機関の運行状況などのリアルタイム情報を発信。公共交通機関を活用して活発に市内を回遊してもらうという取り組みだ。
アプリと共に街歩き
このアプリは、オススメの飲食店を紹介する「食べる・飲む」や、ショップや観光スポットなどを紹介する「観る・遊ぶ・買う」、公共交通機関のリアルタイムな運行状況を地図上に表示する「公共交通位置情報」や「レンタサイクル情報」などのアイコンが並ぶ。「食べる・飲む」「観る・遊ぶ・買う」のアイコンをタップすると、店舗や観光施設のリストが表示され、さらにそれぞれの店舗や施設の情報が入手できる。また、現在位置からバスや路面電車などの交通機関を利用したルートを教えてくれる。
公共交通機関のリアルタイムの情報が表示されるので、路面電車の到着時間に合わせてタイミングよく移動できるほか、移動のスケジュールも組みやすい。レンタサイクルを利用すれば、行動範囲はさらに広げることもできる。そんな便利なアプリだ。
このアプリの使い勝手を調べるため、1月17日~数日間にわたって、大学生や勤労者、シニアなどの各層の市民、観光客、出張者らにこのアプリを搭載したスマホを貸与。モニターになってもらい、実際に街歩きをしてもらった。シニア層を対象にした20日の調査には、筆者も参加し、富山市内を散策した。
オススメのサービスをプッシュ通知
調査の大まかなルールは自家用の車やバイクは使用しない、公共交通機関かレンタルサイクルを最低1回は使用し、飲食店か観光スポットに立ち寄るというもの。事前に目的地をアプリに設定。今回、観光がてら富山城と東岩瀬を入力して街歩きをスタートした。
富山城など市内を散策し、その後、富山駅に戻って駅北側にある「富山ライトレール」で東岩瀬へ。木造の建物が立ち並ぶエリアで、富山の地酒・満寿泉の酒蔵がある。昭和初期にタイムスリップしたような気分で散策していると、スマホのプッシュ通知が鳴った。
「無濾過生搾りのお酒三種を無料で飲み比べできます」
アプリをみると、現在地からすぐ近くにあるお店からの通知。立ち寄ってみると、当日、前日、前々日に絞られたお酒をそれぞれおちょこで1杯ずつ無料で試飲させてくれた。満寿泉を醸造する桝田酒造所が運営するお店で、有料でさまざまな日本酒も試飲できる。
このほか、プッシュ通知では、市内の人気のラーメン店が味付け玉子をサービスしたり、国産ワインを希少な価格で提供したり、つい立ち寄りたくなるようなさまざまなサービスが表示されていた。市街地への「寄り道」を働きかけているのだ。
コンパクトシティ推進のエンジンに
この実証実験はITを活用して、市民や観光客が利用する公共交通機関の利便性・回遊性を向上させることを目指している。
「車で目的地に行って用が終わったらすぐに家に帰るのではなく、もっと路面電車やバスなどの公共交通機関を使って街に出歩いてもらいたい。街に出ていろいろなところに立ち寄って消費をしてもらう。そうすることで、市街地は賑わいを取り戻し、元気になります。このアプリが街を回遊するきっかけになることを期待しています」
こう語るは、この実証実験に参画する富山市民プラザの本社事業部資産管理活用グループ/総務・経理グループの中屋州策チーフだ。富山市民プラザは官民が連携して市街地の活性化事業に取り組むために設立された会社で、公共交通を軸にしたコンパクトな街づくりによって中心市街地の活性化を目指した「コンパクトシティ戦略」の推進にこのアプリを役立てる考えだ。
アプリをみれば、公共交通機関を使った目的地への行き方が案内されるので、公共交通機関が利用しやすくなる。また、お得で便利なプッシュ通知の案内を見て、「ちょっと寄り道」を促す。市街地のいろいろな施設に立ち寄ってもらえば、街はにぎわう。店や施設で消費をしてもらえば経済も活性化する。コンパクトシティが目指す公共交通機関の利用促進と、市街地活性化の2つの課題を解決することができる。
さらに富山市は、日常生活の中での「歩くライフスタイル」を推進し、将来市民が健康で幸福に暮らす活力ある都市の創造に取り組んでいる。このアプリを活用することによる「歩くライフスタイル」が定着すれば、市が掲げる「健康都市」実現にもつながる。
アプリ利用のカギを握るのは…
街づくりに詳しい富山大学人文学部の大西宏治教授は「例えば、富山大学の学生は70~80%は県外から入学する。県外からの転勤者も多く、あまり富山市の情報を知らない市民も多い。情報の発信の仕方によっては、店にとっては新たな顧客獲得のチャンスになる」とアプリのメリットを強調する。
実証実験に参加したモニターに話を聞くと、「便利に活用した」という声がある半面、「知っている情報ばかりだった」との声もあった。実証実験であるため、協力してくれた店舗が少なかったことも背景にある。アプリ普及のカギは、市民が「便利だ」と思う情報をいかに提供できるかがポイントになる。
実証実験に協力した桝田酒造店の桝田隆一郎社長は「中国や東南アジアをみると、どんどん新しいチャレンジをしている。日本ではネガティブな反応が出て、うまくいかないことが多いが、失敗を恐れず新しいチャレンジをすることが必要だ」と語り、新しいものを積極的に取り入れる地元の店舗や施設の意識改革の必要性を指摘した。
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