【終活の経済学】死後の手続き(3)葬儀の後・お墓の検討
故人の「デジタル遺品」に注意
葬儀は全て業者が手配し、滞りなく進行してくれる。しかし、葬儀後は基本的に業者の手が離れ、自分たちで決め、手続きをしていかなければならない。
親戚の助けもなくなり、会社の忌引休暇を終えて日常に戻った遺族は、年金や保険の手続き、預貯金などの解約や名義変更といった事務手続きをこなしながら、法要の準備を進める必要がある。「亡くなった直後より、葬儀後の方が数倍も大変だった」という遺族も多い。
遺品は思わぬ場所に
まず「保存」「捨てる」「あげる」の分別からスタートする。「遺品には四十九日を過ぎるまで手をつけない」という慣習も一部であるようだが、思わぬ場所から遺言、証券、通帳など相続に関するものが出てくることもある。早い段階から着手する方が賢明だ。中には高級品や危険物もあり、分別には手間と時間がかかる。また、遺品は自宅だけだとは限らない。病院や介護施設からの荷物の引き取りは早めに行おう。
最近では、「デジタル遺品」の扱いも注意が必要だ。70代の2人に1人がインターネットを使っているといわれる時代。パソコンやスマートフォンでネット銀行やネット証券、外国為替証拠金取引(FX)などをやっている人も多く、放置しておくと思わぬ問題を引き起こしかねない。
故人が利用していたサイトやサービスは、家族でも知ることが難しい状況にある。デジタル遺品については後回しにせず、専門家に相談するなど早めに着手しよう。できれば、IDやパスワードなどを含め、生前に把握しておくことが大切だ。
位牌の注文は早めに
位牌(いはい)は、故人の霊を祭る象徴として仏壇に安置するもの。葬儀の際に祭った「白木の位牌」は四十九日法要まで。それまでに新たに「本位牌」を準備しておく必要がある。注文してから受け取るまで、通常1週間程度見ておいた方がいい。仏壇がない場合は、位牌と一緒に仏壇も購入しておく。
四十九日法要では、白木の位牌から魂抜きをし、本位牌に魂入れを寺院にしてもらう。浄土真宗では位牌を祭らず、過去帳に法名や没年月日を記入して仏壇に納める。
四十九日法要の準備
仏教では死後7日ごとに法要を営み、四十九日をもって忌明けとなる。ここで行われるのが「四十九日法要」。満中陰法要といわれる法要だ。
法要は、関係者が出席しやすい休日に行うことが多く、寺院と日時の調整、会食場所の調整などを早めに着手しなければならない。人数が多くなる場合は、返信用はがきを同封した封書で案内状を送り、出欠を確認する。その日数も考慮する必要がある。「家族葬だったが、法要には多くの親戚を呼ぶ」「法要は家族だけでやりたい」など家庭によってさまざまだ。
納骨時期に規定なし
納骨をする時期に法律の規定はないが、墓が既にある場合は、四十九日や一周忌などを目安に行う人が多いようだ。カロート(お墓に遺骨・骨壺を入れる空間)の蓋を開けてもらうので、あらかじめ石材店に連絡をしておく。費用は2万~3万円ほど。寺院に墓前法要をお願いする場合は、それも伝えておく。
故人が墓の名義人の場合は、早めに名義変更をしておく必要がある。墓は「祭祀(さいし)財産」といい、預貯金などの現金とは区別されている。この祭祀財産は、慣例に従って承継者が単独で引き継ぐもの。遺言で指定されていればそちらが優先する。
新たに墓を建てる場合は、墓地情報の収集から納骨場所の選定まで時間がかかるので、一周忌から三回忌ごろを目安に考えるといいだろう。
墓地や納骨方法については、故人の遺志も大切だが、残された家族の意向がポイントになってくる。子孫が後世に引き継いでいく前提なら、場所や宗教・宗旨・宗派などを確認し、親戚間で話し合っておく。
墓は土地(墓地)を買うのではなく、土地を使用する権利を得る。管理者と契約を交わし、墓地使用料(永代使用料)を支払う。値段は立地や区画の大きさ、使用する石材などで異なるが、中心価格帯は100万~250万円くらいだ。
経営母体による違い
墓地は経営・事業母体により、大きく「公営墓地」「寺院境内墓地」「民間墓地」に分けられる。公営の経営主体は地方自治体。申し込み資格や募集時期が限られるなど制約はあるが、宗教・宗旨・宗派の制限がなく比較的低価格で求めやすい。寺院境内墓地は、寺院の檀家(だんか)になることを前提として購入することになり、檀家として寺院を支えていく義務が生じるが、日常的に供養の空間が完成されているという安心感がある。
民間墓地は開発や販売に民間業者が関わっている霊園のこと。経営主体は宗教法人が多い(公益法人もある)が、宗教・宗旨・宗派不問として販売しているところが多くなる。
また、墓石は墓地によって決められている規約に沿って区画内に建てる。墓地によっては石材店が指定される場合もあり、これも墓地を決める判断材料になる。
永代なら承継者不要
承継者がいないなどの理由から、「永代供養(管理)墓」に注目が集まっている。永代供養とは、永い代(年月)にわたって供養(管理)することを指し、寺院や墓地管理者が永代にわたって供養(管理)してくれる。最初から共同納骨する「合葬タイプ」と一定期間は個別に管理する「個別タイプ」がある。
近年、特に都市部で増えているのが、屋内墓所の納骨堂。ロッカー式や仏壇式、機械式など納骨システムもさまざま。また墓石の代わりに樹木を墓標とする樹木葬墓地も人気だ。
また、死後は自然に還りたいというニーズから海洋散骨も葬送の一つとして広く認知されるようになった。しかし、最近は自然に還りたいというよりも、「墓石は不要」「遺骨の管理が面倒」という理由で選ぶ人も少なくない。散骨はあくまで、葬送を目的として行うなら違法とはいえない、という見解(非公式)のもと行われているものであって、遺骨を破棄する場ではないことを念頭に入れておくべきだろう。
「改葬」の手続き
故人の死は、いまある墓を考える機会にもなる。例えば、遠方の故郷の墓に納骨されている先祖の遺骨を取り出して、新しく建てる墓に移動して一緒に納める、といったことだ。一連の流れを「改葬」という。
改葬は、墓地使用権者の意思で行えるが、親戚の理解を得ておくことが大切だ。寺院にお墓がある場合は、檀家としての付き合いがなくなることも考えられる。早い段階で改葬の相談をしておき、檀家を辞める場合は、別称「離檀料」といわれるお布施を包む。
改葬は、新しい納骨先が決まらないと手続きができない。家族や親戚が納得できる新しい納骨先が決まるまでには、相当の年月を要するという覚悟も必要になる。(『終活読本ソナエ』2020年新春号から随時掲載)
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