【お金で損する人・得する人】失業、感染…コロナ禍に見舞われた人が受け取れるのは 社会保障制度の活用法

 
緊急事態宣言発令後の巣鴨の様子=4月8日午前、東京都豊島区

 前回に続いて、新型コロナウイルスに関係しそうな社会保障を解説します。実は日本の社会保障制度は非常に充実しています。特に会社員の方への補償が手厚い印象です。ベーシックインカムはすでに存在していると言っても過言ではありません。一方個人事業者に対する補償が重視されていないため、今後何らかの制度が必要になると考えられます。

 失業した場合にもらえるお金=失業保険(雇用保険の基本手当)

 もし新型コロナウイルスの影響で、仕事を失った人がいる場合は収入を補填する仕組みがあります。20代や30代など若い人は聞きなれない制度かもしれませんが、会社員として働いている人が失業した場合は、失業保険という制度からお金がもらえます。

 一定の条件があります。雇用保険の被保険者であることが大前提。短期雇用や、1週間当たりの労働時間が短いなど一部の例外に該当しないこと。フルタイムで働いている人は基本的に加入対象となります。社長など経営陣は対象とはならないのですが、会社の役員であっても部長、支店長、工場長など従業員と同様と考えられる人は雇用保険の対象となります。個人事業者の人は自身が代表者であるため雇用保険料を支払っておらず、失業保険の対象外となります。雇用保険に加入しているかどうか知りたい人は勤務先に確認してください。雇用保険の保険料は、労働者の負担がなく会社負担のため、給料から天引きされることもありません。通常は雇用保険の加入者証が発行されるのですが、退職するまで本人に渡さない会社も多いのです。

 パート社員やアルバイト社員の人は、1週間の労働時間が20時間以上ある場合に雇用保険の加入対象となっています。例えば子育てしながら、週3日、1日5時間勤務ですと週15時間労働となり対象外です。

 失業保険はいくらもらえるのでしょうか。

 失業保険でもらえる1日あたりの金額を基本手当日額といいます。基本手当日額は過去6カ月の給料(ボーナス除く)の合計を180で割った金額の50~80%となっています。加えて、年齢帯ごとに日額の上限が設定されており、30歳未満6815円、30~45歳未満7570円、45~60歳未満8330円、60~65歳未満7150円となります(参照はこちら)。

 読者の皆さんの日給と比べていただくといいでしょう。ご自身の日給が2割~5割カットされて支給されるイメージです。生活するには厳しい水準でしょう。

 失業保険を受け取るには、就職活動を実施する必要があります。家でのんびりしているだけでお金がもらえるわけではないのです。ハローワークに通って、就職活動の経過を報告しないと失業保険の給付対象となりません。

 失業保険を受け取れる期間は雇用保険の加入期間と年齢によって異なります(参照はこちら)。

 ご自身のあてはまる箇所を確認していただくと頭の中でイメージしやすいでしょう。

 失業保険を受け取るタイミングは、失業する理由によります。(1)自己都合による退職、(2)会社都合による退職、の2つに分けられます。新型コロナウイルスの影響で会社による人員整理が行われる場合は会社都合ですし、子どものお世話ができないため退職を余儀なくされるような場合は自己都合になると考えられます。個々の事情は一律の判断が難しいので、詳しくはハローワークにご相談されることをお勧めいたします。

 自己都合退職の場合は、7日間+3カ月経過しないと失業保険を受け取ることができません。一方会社都合の退職であれば、7日間を経過すれば受給することができるようになります。

 失業保険は個人事業を営んでいると利用できません。

 万が一自分が感染したらもらえるお金=傷病手当金

 新型コロナウイルスに感染したらどうなるのでしょう。隔離措置のため強制的に入院となり、あるいは隔離施設に滞在することになります。その間もちろん仕事はできないでしょう。

 会社員の場合、健康保険に加入しているはずですので、傷病手当金という制度の対象になると考えられます。傷病手当金とは、業務外の病気やケガで仕事ができない状態で仕事を休み、かつ給料が支払われないときに支払われるお金です。

 いわゆる有給休暇を利用する場合は対象になりません。長期療養を有給休業で対応しようと考えている人は、傷病手当金の活用を検討するとよいでしょう。有給休暇との違いは、支払われる金額です。条件を整理します。

 (1)業務外の理由での病気やケガの療養のための休業

 (2)仕事に就くことができないこと

 (3)連続する3日(待期期間)の休み、その後の休業であること

 (4)休業期間中に給料が払われていないこと

 支払われる金額は、前述の失業保険の計算と異なります。1日当たりの支給額は、直近12カ月間の標準報酬月額の平均(※勤務先の人事や給与担当に確認してください)÷30日×2/3となります。

 支払われる期間は最長1年6カ月となり、それ以降は障害等が残るような場合は、障害年金の受給可能性を検討することになります。現時点では、新型コロナウイルス感染で長期療養に該当する事例は話題になりませんが、知っておいて損はありません。

 なお、個人事業者は、国民健康保険の加入が前提となり、傷病手当金自体がありません。ただし、制度自体は自治体などが任意で条例で制定することができます。新型コロナウイルス感染症に感染した人、感染が疑われる人については、すでに制度として導入した自治体が傷病手当金を支払う場合、国が財政支援を行うことになりました(該当する自治体は多くありません)。

 会社や通勤途中で感染したらもらえるお金=労災保険の休業補償

 前述の傷病手当金のところで、業務外とあったので勘のいい人はピンと来たかもしれません。実は、職場や通勤で新型コロナウイルスに感染した場合、労災扱いと認定される可能性があります。職場であればすぐに確認できますが、通勤途上での感染ですと立証が難しいかもしれません。ただ、感染者は直近の生活状況をヒアリングされますので、職場か通勤以外に感染可能性のある経路がなければ労災と認定されることもありそうです。

 労災認定されるといくらもらえるのでしょうか。

 新型コロナウイルス感染が労災認定された場合、労災保険から休業補償を受けることができます。まずは条件を整理します。

 (1)業務上の事由、または通勤による疾病の療養であること

 (2)労働することができないこと

 (3)給料が発生していないこと

となります。従って、有給休暇での対応は対象外となります。傷病手当金との違いは、業務外は傷病手当金、業務上の場合は労災での補償となります。

 支払われる金額の算出方法ですが、まず給付基礎日額といって、賃金を日割りに直します。給付基礎日額=直近3カ月の給料(ボーナス除く)の総額÷暦日数です。この給付基礎日額の60%を休業補償給付として、20%を休業特別支給金として受け取ることができます。

 休業補償給付の支払いは、休業4日目からとなります。傷病手当金と似たイメージですね。

 いかがでしょうか。政府から勤務先への助成金とすでに制度化されている社会保険を知っておくと、ご自身や周りの人が感染した場合などにどのようなお金が受け取れるのか、いくらくらい足りないのかなど考えておくことができるでしょう。

 改めて、日本の社会保障は充実しているとともに、国民に情報が行き届いていないと感じます。今後は、全国の自治体が傷病手当金を導入することで、個人事業の人たちも安心して生活ができるようになるでしょう。

【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)

ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役

1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら