新時代のマネー戦略

マイホーム購入は、オリンピック後か今か

畠中雅子

 地価は自分の欲しい地域だけに注目する

 ファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子です。生活設計のご相談を受けていると、マイホーム購入については「東京オリンピックが終わったら、住宅価格が下がるはずなので、下がってから買いたい」という声をよく耳にします。オリンピック後に価格が下落する地域はあるかもしれませんが、大切なのは、自分が購入しようと思うエリアの地価や住宅価格の動向です。オリンピックが延期になったこともあり、住宅価格や地価の動向はより不透明になったと感じています。

 ここ数年の公示地価をチェックしてみると、人気のエリアでも、地価が上下していますし、駅からの距離によっても地価の動き方が異なります。要するに、「オリンピック後」などというあやふやな計画は、購入リスクを伴う可能性があるということです。加えて、自分が欲しいタイミングで、気に入った場所のマイホームを手にできる保証はどこにもありません。世の中全体の動きをなんとなく感じとって、できるだけ有利なときに購入しようと考えるよりも、「自分自身の生活設計の中では、マイホーム購入はいつがよいのか」という視点で考えるべきだと思います。

 新型コロナウイルスの影響で残業代が出なくなったり、仕事そのものがキャンセルになった方もいるはずで、マイホームを購入しようとするモチベーションは上がらないかもしれません。

 また、マイホームを買うか、賃貸で過ごすかは、個人の自由です。ただし、購入の方向で検討しているご家庭は、早めの実行をおすすめします。購入年齢が上がるほど、定年退職時に住宅ローン残高が多く残ってしまい、老後の生活を厳しくするからです。

 「マイホームVS賃貸暮らし」に一律の答えはない

 ちなみに、ご相談の中で「マイホーム購入が得か、賃貸暮らしが得か」を問われる機会がありますが、その比較に意味はありません。たとえば、「マイホームには長期の住宅ローンを払い終えなければならないリスク」があり、「賃貸住まいには老後の家賃分も現役時代に貯めなければならないリスク」があるからです。性質の異なるリスクを比較して損得を語っても意味がないと、個人的には考えています。

 実際のところ、マイホーム購入が得か、賃貸住まいが得かといったシミュレーションをしても、前提条件を少し変えるだけで、有利不利が変わります。損得に決定打はないと考えるのが適切ではないでしょうか。

 「ずっと、賃貸住まいが良い」と考える方は、損得で住まいを考えるよりも、老後の家賃分を貯めることに注力しましょう。マイホームが欲しいと思っている方は、オリンピックといった、個々の家計にとっては外的要因ともいえる要素に目を向けすぎず、早めに購入計画を立て、物件探しに着手することをおすすめします。

 マイホームを早く買ったほうが良い理由

 マイホーム購入が早い方が良い理由について、具体的な数字を用いて説明していきたいと思います。

 ここでは、3000万円のマイホーム購入を検討しているAさんとBさんの2人がいるとします。AさんもBさんも35歳で、今の時点で出せる頭金は1割の300万円です。住宅ローンは「フラット35」(※1)を採用します。今月(2020年4月)のフラット35の標準的な金利*である1.30%を用い、返済期間は35年で借りるとします。(*「フラットS」〈※2〉などは適用せず、多くの金融機関が採用している金利を用います。)

 Aさんは慎重なので、あと5年かけて、もう300万円ほど貯めて、頭金を2割に増やしたのちマイホームを購入するとします。Aさんがマイホームを購入する年齢は40歳になりますので、住宅ローンを見直さなかったとすれば、完済年齢は75歳のときです。

 いっぽうのBさんは、頭金は1割しか出せないけれど、今の年齢で購入に踏み切るとします。住宅ローンを見直さなければ、Bさんの完済年齢は70歳になります。ただしBさんは、頭金を増やさなかった代わりに、繰り上げ返済用の貯蓄に励み、40歳時点で物件価格の1割に当たる300万円の繰り上げ返済をすることにします。

 さて、両者の場合、住宅ローンの返済状況はどのようになるでしょうか。

 まずは5年間、頭金づくりに励んだAさんですが、60歳時点における住宅ローン残高は800万円ほど残ってしまう計算になります。いっぽう、頭金は1割しか準備できなかったものの、物件価格のもう1割分を繰り上げ返済に充てたBさんの60歳時点の住宅ローン残高は、473万円まで減っています。60歳時点の住宅ローン残高の差は、300万円を超えることになるのです。

 頭金を増やすのは正しい行動とはいえ、頭金の準備に時間がかかり購入年齢が遅くなると、定年退職時の住宅ローン残高が多く残ってしまうリスクが生じます。さらに返済総額で見ても、AさんのほうがBさんより65万円も多く、返済する計算になります。

 購入年齢が上がれば、お子さんの学年も上がります。学年が上がれば、教育資金の負担も増えるのが一般的です。繰り上げ返済がしやすいのは、「小学校の低学年まで」という現実を考えますと、Aさんのように慎重な方ほど、繰り上げ返済がしづらくなる悪循環に陥るリスクも抱えてしまうことになるわけです。

 今回、オリンピックが延期されたことで、マイホーム購入を「当初の予定よりも先」にしようと考えるご家庭が出てくるでしょう。マイホームを購入する時期は各家庭の自由とはいえ、購入時期の先送りにはリスクがあることを理解し、老後にできるだけ借金を残さないプランを立てることが重要だと思います。

※1 民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する最長35年の全期間固定金利の住宅ローン

※2 耐震性や省エネルギー性など、建物の構造によって優遇金利が適用される制度

畠中雅子(はたなか・まさこ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
新聞・雑誌・ウエブに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などを手がける。高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」、ひきこもりのお子さんがいるご家庭向けに生活設計アドバイスをおこなう「働けない子どものお金を考える会」なども主宰。著書・監修著は、『病気にかかるお金がわかる本』(主婦の友社・黒田尚子氏との共著)ほか、70冊を超える。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら