「最低7割、極力8割」「夜の街」…政府、改定対処方針の表現に苦慮
安倍晋三首相が7日に緊急事態宣言を発令してから初の週末を迎えた。宣言に合わせて政府が改定したのは、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針。この1回目の改定過程をつぶさに見ると、接触機会の低減目標をめぐり、政府が表現ぶりに苦慮したことが分かる。「夜の街クラスター(感染者集団)」を押さえ込む重要性を訴えることにも心を砕いたことがうかがえる。(坂井広志)
ぎりぎりの表現
政府が対処方針を策定したのは3月28日。その後わずか10日間で感染拡大に拍車がかかった。改定を決めた対策本部を開いたのは7日午後5時半。官邸サイドは専門家の意見を聞きながら修文に修文を重ねた。
改定方針に盛り込まれた数値目標は、実は前日の原案には入っていない。調整は難航したようだ。その目標とは「最低7割、極力8割程度の接触機会の低減」。これを踏まえ、首相は7日の対策本部会合後の記者会見で「7割から8割削減を目指し、外出自粛をお願いする」と呼びかけた。
目標値はクラスター対策班のメンバーで北海道大の西浦博教授(理論疫学)の試算に基づくもので、発令期間の1カ月程度で感染を収束に向かわせるためには8割減らす必要があるとされる。西浦氏はツイッターでも「8割は絶対必要」と書き込んでいる。
しかし、「国民が自粛を耐えられる限度はせいぜい1カ月」(自民党厚労族)との声も上がる中、1カ月であっても、国民が「8割」を受け入れられることができるのか-。理想と現実の間で首相は逡巡(しゅんじゅん)(しゅんじゅん)したに違いない。「7割」だと1カ月では済まないとされるからだ。
ぎりぎりの判断の中で打ち出した表現こそが「最低7割、極力8割」だった。そのことを裏付けるかのように、西浦氏は「7割は政治側が勝手に言っていることで、私は一切言及したことがありません」とツイートしている。
厚い壁「夜の街」
7日に決めた改定方針には冒頭部分、原案になかった「夜の街を極力避けること」との文言が加わった。
厚生労働省のクラスター対策班は感染者や濃厚接触者の追跡調査を行っているが、実態把握の厚い壁となっているのが、いわゆる「夜の街クラスター」だ。厚労省幹部は「夜の街をどう過ごしたかについては、なかなか本当のことを言ってくれない」と渋い表情を浮かべる。
原案の段階から「キャバレー、ナイトクラブなどの遊興施設については、クラスター発生の状況を踏まえ外出自粛の周知を行う」と明記していたが、「夜の街…」の下りをあえて冒頭に挿入することで、政府のメッセージを明確にさせた。
妊産婦にも配慮
改定方針は緊急事態宣言とセットで出されるとあって、国民が混乱しないようきめ細かさも求められた。
妊産婦への感染防止の観点から、医療機関での動線分離などの対策の徹底や、感染が疑われる妊産婦への早めの相談の呼びかけ、妊娠中の労働者に配慮した休みやすい環境整備など進めるよう厚労省に求めることも原案から追加した。
感染を防ぐために人と人が距離をあける「ソーシャル・ディスタンス」という言葉が定着しつつあるが、このほか原案にはなかった「Social distancing 社会的距離」という語句も挿入された。言葉による国民への意識付けを図ったといえる。