【受験指導の現場から】「うちの子は家では勉強しない」 休校中にフリーの講師が地域でやれること

 

 梅雨入りまでは我慢の日々か?

 本稿の執筆を始めようとしていた頃、筆者に残念な報せが届いた。5月18日週からの予定となっていた某校での授業スケジュールが、早くても6月15日週からに延期になるという。筆者が、この4月から新任として勤めることが決まっていた学校である。

 同校の授業は、もともと4月20日週の開始予定だったのであるが、緊急事態宣言とその後の各知事からの「5月31日までの休校要請」を受け、約1カ月間の後ろ倒しを2度余儀なくされたことになる。

 緊急事態宣言が発出された時点で、早くても梅雨入りまでは落ち着かないのではないかと考えていたため、さしたる意外感はなかったのだが(後出しのように感じられたら申し訳ない)、結果、筆者にとっては着任が2カ月遅れ、給与の支給も2カ月間の空白が生じることと相成った。他校の仕事にも同様の影響が出ており、正直なところ、休校期間のこれ以上の延長は厳しい。

 一方、学校関係者に目を向けると、東京都多摩地区の公立中の校長が「5月中旬までに学校を再開できれば、夏休みの短縮や土曜日の補習で何とか遅れを取り戻せるが、それ以上は厳しい」と、自治体ごとの教育格差拡大に懸念を示している(4月27日付の産経新聞)。

 休校の長期化で、「9月入学」を巡る議論も活発化し始めた。一部の知事や野党から入学や新学期の開始の時期を9月に変更するよう求める声が出たのを受け、政府も必要な対応を幅広く検討するとしている。筆者も、総論としては9月入学制への移行には賛成であるが、事は教育制度で閉じるものではなく、それこそ「ありき」で議論を進めない限り、早期の決断は難しいだろう。

 休校延長でとくに苦しむのは「孤独」な親たち

 子どものいる家庭に目を向けると、休校要請や緊急事態宣言の延長によって、経済面で最も(さらに)苦しくなるのは、保育園や小学校の閉鎖で働きに出ることができなくなっているシングルマザー(シングルファーザー)家庭だろう。

 「シングルマザーには医療や介護に従事する人が比較的多い」というネットのアンケート調査もある。経済面だけでなく体力的にも精神的にもきつい。であるにも関わらず、ある看護師が帰宅のためにバスに乗ろうとした際、「コロナがうつるから乗るな!」と罵られたり、とある保護者が「親が新型コロナ感染者の病棟で働いている生徒を登校させるな」と学校に筋違いなクレームを入れたり、といった出来事が起こっている。関係者の方々には、こういった理不尽な乗客や保護者に対して、毅然とした態度で臨んでもらいたいと切に願う。

 一方、高校生以下の子どもを複数抱える家庭の母親、とくに父親がテレワークで一日中自宅にいる家庭の母親もメンタル的にしんどい。筆者は、集団授業(講義)だけでなく、家庭訪問型の個別指導も数件、請け負っているのであるが、このケースに当てはまるお母さんは、たしかに消耗している感がある。赤の他人でもそれとなく分かるくらいであるから、夫との間、子どもとの間だと、気持ちを安定させるのにかなりの気苦労をされていることだろう。父親が普段から家庭内のことに無関心で、テレワーク(仕事)と称して、自室に篭ってしまっているようだとなおさらである。

 家庭内自習の限界

 そして、そういったお母さん方からほぼ間違いなく聞かされるのは、「うちの子、家ではちっとも勉強しなくって…」「勉強するように言っても言うことを聞かないし、しつこく言うと喧嘩になるし…」といった話だ。

 通常の状況であれば、「1日に1回、塾の自習室に行って(場所を変えて)その時間だけ集中して勉強する(疑問点は質問して解決して帰る)」ことを勧めるのであるが(実際、自宅を出て別の場所に移ると、その場所では集中できるという生徒は少なくない)、現下の状況では、それもできなくなっている。ほとんどの塾は正社員だけの出社となっていて、それ以外の者の出入りは極力抑えているからだ。

家庭での自習が想定される休校中は、「うちの子は、家ではちっとも勉強しない」といった悩みや不安を抱える親たちも多いだろう(Getty Images)

 新型コロナ禍下の即席「寺子屋」

 ならば、ということでもないが、筆者は4月の中旬から以下の試みを行っている。

 東京都の自粛要請を請けて、いきつけの飲食店が営業開始時間を17時から15時からに繰り上げることになった。そのタイミングで店主から、「営業開始時間に合わせて、前に言っていた“寺子屋”やってみる?」と持ち掛けられた。

 じつは、新型コロナの影響が表面化する何カ月か前に、「営業開始時間の直前に、週に2~3回、奥のテーブル席で近所の小・中学生の勉強の面倒を見るよ。常連さんの子どもとか」と、筆者から水を向けたことが事の発端である。

 目論見としては、(1)子どもが勉強に集中する時間をつくる、(2)その時間をお母さんの休憩時間にする、(3)子どもの親の来店頻度が上がることでお店の売上が少し増える、(4)筆者自身も最低時給くらいにはなる、という四方よしを狙ってのことだ。

 大型のテーブル二脚に対して4~5人まで、学校の課題を持ち込んでもらって90分間の自習、質問のとき以外は話さない、苦手と聞いている単元については時折プリントを用意する、お互いにマスク着用、というかたちをとっている。もちろん、賛否両論あることは承知している。

 現時点では、高2&中3の兄弟と中2の男子が週に2~3回やって来るのであるが、「うちの子たち、家ではちっとも勉強しなくって…」と聞いていたのとは裏腹に、これがじつによく集中できている。子ども自身にもどこかしら、「やらなきゃいけないけど、やる気が出ない」という自覚があるのだろう。

 当初は5月15日(金)までの予定であったのだが、休校要請が延長されたことで、現時点では、早くても5月29日(金)までは続けようと考えているところだ。

 「うちの子は家では勉強しない」と、同じような悩みを抱えられているのなら、同様の環境をつくれないか、一度、大人どうしで情報交換してみるとよいかもしれない。また、筆者と似たような境遇の人が近所にいれば、マンションの集会室を使わせてもらうといったことも考えられるだろう。

 「窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通ず」ということも、あながち無くはない。

【プロフィール】吉田克己(よしだ・かつみ)

講師

京都大学工学部卒。株式会社リクルートを経て2002年3月に独立。産業能率大学通信講座「『週刊ダイヤモンド』でビジネストレンドを読む」(小論文)講師、近畿大学工学部非常勤講師。日頃は小~高校生の受験指導(理数系科目)に携わっている。「ダイヤモンド・オンライン」でも記事の企画編集・執筆に携わるほか、各種活字メディアの編集・制作ディレクターを務める。編・著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』『元素変換現代版<錬金術>のフロンティア』ほか。

受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら