【新時代のマネー戦略】資産形成、成功の秘訣は夫にあり? 貯蓄の多い家庭の共通点
家計は「家計管理表」で劇的に改善できる
家計管理の相談には、女性(妻)がいらっしゃることが比較的多いです。ところが、企業の従業員向けに行っている相談現場では、男性(夫)からの相談も多いのが特徴です。
貯蓄を増やしたいのは誰もが一緒ですが、同じような年収、家族構成にもかかわらず、貯蓄額に大きな差が生じていることが少なくありません。実は比較的貯蓄が多い方たちには共通点がありました。参考資料として、家計管理表を持ってくるのです。フォーマットはまちまちですが、月単位の収入と費目別の支出、年に何回かの特別支出、それらを合計した年単位の収支が記入されています。さらに現在の貯蓄明細なども記載されています。
家計管理表 3つのメリット
この家計管理表の素晴らしいところは主に3つあります。
1つめは、年単位の収支にも目を向けていることです。毎月のやりくりだけをチェックしても見えてこないものが、見えてきます。
・自動車保険や車検など車の維持費
・固定資産税
・夏休みなどまとまった旅行費用
・子どもの塾の夏期講座など毎月の月謝と別枠の教育費
こうした、年に数回のまとまった特別支出は毎月の生活費には現れませんが、家計に占める割合はかなり大きいのです。
次に、口座引き落としの支出も管理できていることです。生命保険料や通信費などは自動的に引き落とされているので支払っている実感が少ないのですが、いざ数字に現れると払込保険料の多さに驚く方も少なくありません。またクレジットカードも利用と引き落としのタイミングが違うため管理がしづらいのですが、これらもきちんと把握できているのです。このことは管理の精度を高めます。
3つめは家計の実態に気づきやすいということです。ある共働き夫婦のケースですが、妻が毎日夕食を作るのは難しいため、いわゆる食材を購入する意味での「食費」は少ないのですが、その分「外食費」は多いのです。それらは各自の小遣いから支出しているため、自由裁量分として使い方を顧みることがない部分でした。そのため、外食費も年額にするとかなりの額になっていることに驚いていました。
一歩踏み込んだ相談が効率的にできる
家計管理表には各費目の家計に占める割合だけでなく、実際の金額も記載されていますが、動かしようのない事実として現れる数字はインパクトがあります。
家計管理表を持参する相談者には「すでにある程度家計の見直しをして毎月貯蓄はできているものの、もう一歩貯蓄を増やしたい」という方が多いです。ファイナンシャルプランナーにとって家計管理表をもとにした相談は、必要な材料が揃っており、問題点や課題が一目瞭然です。そのため、家計の見直しポイントを指摘できるだけでなく、勤務先の制度、社会保障など周辺知識まで話を膨らませた上で、特別支出や保険の見直しなどの具体的な提案もできます。
固定費や特別支出の見直しは、時に劇的に家計を改善させることもあり、次のアクションにつなげるために具体的な対策を見つけられるこのようなツールを作るか否かで、将来大きな差となるはずです。
家計管理表は資産形成にも生かせる
家計改善をして預貯金を積み上げることはできますが、ペイオフ(預金保険制度)やインフレなどの対策にはなりません。また30代、40代の若い世代は、教育費や住宅費に加え、老後資金も早くから時間をかけて準備する必要があります。しかしそれをすべて預貯金で用意するのは難しく、資産運用も検討しないといけないでしょう。
この場合も、家計管理表に資産の記載があると、ポートフォリオ(保有する資産の組み合わせ)のアンバランスに気づくことができます。分散投資や長期投資の説明をしても必要性の理解が早く、社内預金や従業員持株会など勤務先の制度、確定拠出年金やつみたてNISAなど具体的な話に進めることもできます。家計管理表は家計のフローの改善のみならず、資産運用においてもストックの質の改善に有効なツールだと実感しています。フローとストックを管理することで、単なる家計の見直しにとどまらず、資産形成への一歩を踏み出すことができます。
資産形成の成功に不可欠 夫の参加でスピードUP
「夫が家計管理に非協力的」という発言はよく聞きますが、それだと何が困るのでしょう。家計の見直しから始まり、各種契約等の見直し、資産運用など、家計の大きな意思決定は妻だけではできないことが一般的で、やはり世帯主が最終判断を下すことが多いからです。夫が家計管理に参加していない世帯と、夫が家計管理に参加して夫婦で家計に向き合えている世帯とで最も差を感じるのは、次のアクションへのスピード感です。アクションが早いほど資産形成の成功率は高まります。ぜひ夫として家計管理に参加していただきたいと思います。
とはいうものの、家計管理表なんて自分には作れないと思った方も多いのではないでしょうか。でも、家計管理表を持参して筆者のもとに相談に来た夫たちも、始まりはちょっとしたきっかけでした。
管理上手な人は家計簿アプリを使っていた
家計管理表に感心した筆者が褒めたところ、「これがありますから」と言って見せてくれたのはスマートフォンの家計簿アプリの画面でした。「とりあえず何かしてみようかな」という程度の気持ちで家計簿アプリを使い、データをエクセルで加工していたら、危ない家計を目の当たりにし、そこから家計と向き合う気持ちになったとのことです。
家計簿アプリは課金される追加サービスもありますが、アプリによっては無料サービスでも十分機能が充実していると思います。銀行口座やクレジットカードとの連携も可能なため、口座引き落とし、カード利用分など管理の煩雑さから“家計簿挫折”の要因になる部分もカバーしてくれますし、費目も細かく分類できるので、支出の実態もつかみやすくなっています。
したがって、あとは管理しやすいように加工すれば良いのですが、仕事でレポートを作成するのと同じような感覚で苦にならないそうです。男女の差があるのかわかりませんが、課題を見つけると何とかしたくなる、結果については数字にこだわるというのは、これまでの相談で多くの男性から感じたことです。家計管理表作成は案外男性に向いている作業かもしれません。
家計管理表づくりは家計簿アプリから
筆者が考える家計管理表の必須項目は6つです。
・月単位の費目別収入と費目別支出
・月単位の収支
・年に数回の特別支出
・年単位の費目別収入と費目別支出
・年単位の収支
・貯蓄残高
支出の費目が細かいキャッシュフロー表のイメージです。
使用するデータ自体は家計簿アプリからのダウンロードで済みますが、家計管理表にするには加工が必要です。家計簿アプリからエクセルへ出力すると、収入や支出のデータは時系列で書き出されます。それらを費目ごとにソートして合計すれば費目ごとの収入と支出が作れます。どの程度細目化するかで気になる支出をクローズアップしやすくなりますが、あまり細かすぎても木を見て森を見ずになってしまいます。そのためには家計簿アプリのそもそもの設定の工夫(費目の登録など)がカギになります。
家計簿アプリをまずは試してみましょう。家計管理は継続することが重要ですので、アプリ選びのポイントは使い勝手が良いこと。レシート撮影入力、固定支出登録、データの出力、複数端末共有、金融機関やクレジットカードとの連携まで無料だと、充実しているといえます。夫婦で異なるアプリを使って比較してみるのも良いでしょう。
筆者の周囲では「Zaim」や「マネーフォワードME」の利用者が多いようです。機能的にはほぼ同程度と感じていますが、資産運用も含めて管理、把握したいということであれば、現時点で証券口座との連携もできるのはマネーフォワードMEです。いずれもスマートフォンで手軽にできますが、PCより手薄になりやすいスマートフォンのセキュリティには十分な注意が必要です。
【プロフィール】鈴木暁子(すずき・あきこ)
多様化するライフスタイルに応じた生活設計や資産形成を重要視し、セミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・ウェブなどで記事・コラムを執筆。家計管理や資産形成相談を多数手がける。シニアマネー相談も得意とし、リタイアメントプラン、セカンドライフの生活設計アドバイス、高齢期の住み替え支援も行う。共著に「100歳まで安心して暮らす生活設計」(実業之日本社)がある。FPで構成する「高齢期のお金を考える会」のメンバー。
【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら
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