死後の手続き(5)年金 大黒柱失った時の「頼みの綱」
連れ添ってきた配偶者を亡くしたら、ショックは大きいだろう。だが、新生活を支えるためにしっかりと理解したいのが「遺族年金」だ。申請期限は5年以内(死亡一時金は2年以内)。ここでは受給資格の2つの基本ポイントを説明する。
受給のための大前提は「故人によって生計が維持されていた」ことだ。具体的には、(1)同居していた(別居でも仕送りや健康保険の扶養親族などは含む)(2)遺族の前年の年収が850万円未満(または所得が655万5000円未満)-の2つを指す。
ただし、「生計を維持」とは扶養・被扶養のことではないので、共働き夫婦の夫が亡くなった場合、妻の方が高収入でも、要件さえ満たせば対象となる。(2)は5年以内に該当する見込みがあれば対象になる。例えば、共働きの夫を亡くした58歳の妻が、前年年収1000万円でも、60歳で定年退職して年収850万未満になる見込みなら、対象となる。
「うちは関係ない」と思い込まず、受給できる可能性があるか、しっかりチェックした方がよい。
ポイントは受給資格
現役世代は故人が年金加入者なら対象となるが、シニア世代の場合、故人の「資格」でポイントになるのが、「老齢年金の受給資格期間」だ。これには、失業中など所得が少ない場合の「免除期間」、国民年金加入が任意だった1986年3月までの主婦や1991年3月以前の学生など、任意加入していなかった「合算対象期間」も含まれる。
ただし、遺族厚生年金の場合は、受給資格期間が25年以上ないと“門前払い”だ。2017年8月、老齢年金の受給資格期間が「25年以上」から「10年以上」に緩和され、10年以上払えば受給が可能になったが、長期要件の遺族年金は従来の「25年」のままだ。
遺族基礎年金も同様の要件が必要になる。また、遺族基礎年金の受給は18歳未満の子供がいることが条件となるので、受給できるのは「保険料を25年支払った受給中の夫(68)が亡くなり、妻(50)と娘(15)が残された」といったケースだろう。
ただ、国民年金には他の年金に加入していない第1号被保険者の独自の制度である「寡婦年金」「死亡一時金」がある。寡婦年金の場合、故人の国民年金の納付済期間(免除期間を含む)が10年以上、死亡一時金の場合には3年以上という受給要件がある。
マイナンバーを活用
親や高齢の配偶者など、年金受給者が亡くなった場合、厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内に「受給停止」の手続きをする。遺族や代理人が故人の年金手帳、死亡届の写しや死亡を示す戸籍謄本を持参し、年金事務所や街角の年金相談センターに行き、「年金受給者死亡届(報告書)」を提出するのが基本ルール。支給停止が遅れて「死後年金」が支給されると、返還しなければならない。
ところが、日本年金機構(年金機構)によると、近年は状況が変わってきている。加入者・受給者のマイナンバー(個人番号)と基礎年金番号を結びつける作業が進み、「99%以上が収録されている」という。収録済みの人は受給停止の手続きが不要だ。マイナンバーカードの普及は遅れているが全国民の番号が公的に活用されているのだ。
遺族は「年金事務所に行く必要がなくなり、便利になったな」と思いがちだが、ここで忘れてはならないのが、「未支給年金」の存在だ。未支給年金は、支給停止中の在職老齢年金の人など、ごく一部を除き、すべての受給者に生じる。これを理解するには、現役世代にはなじみの薄い年金の支給ルールをおさらいする必要がある。
年金の支給は2カ月に一度、偶数月15日。前月と前々月の2カ月分が支給される。例えば2月15日に支給されるのは、1月分と前年の12月分。次に、年金は死亡した月分まで支払われる。このため亡くなったのが偶数月なら1カ月分、奇数月なら2カ月分が、受給停止手続きによって未支給となるのだ。
未支給年金をもらうには、故人と「生計を一にしていた親族」などが年金事務所などへ請求書を提出する。時効は5年だ。年金機構は「死亡から1カ月半~2カ月を経ても請求がない場合、手続きの案内を郵送している」という。だが、見落としてしまったら、もらえないままだ。制度を理解し、早めに請求したい。(『終活読本ソナエ』2020年新春号から随時掲載)
「三親等以内」まで 未支給年金の請求
「死後の手続き」でよく出てくるのが、「故人と生計を一にしていた」という表現だ。日常感覚では「同じ屋根の下」だが、厚生労働省などによると、故人の死亡日に住民票上の住所が異なっていても、単身赴任や就学、病気療養が理由で、故人との間で経済的な援助をしたり、されたりしていた親族も指す。
未支給年金では、故人と生計を一にしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹に加え、「三親等以内の親族」まで、この順番で請求できる。三親等とは、ひ孫、甥(おい)・姪(めい)、おじ・おばと、それぞれの配偶者、そして曾祖父などだ。