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新型コロナ誤情報が瞬時にSNS拡散 善意のデマ否定で逆効果も

 新型コロナウイルスの感染拡大に絡みインターネット上で誤情報やデマが広がっている。科学的な根拠がないウイルス撃退法がツイッターやフェイスブックといった会員制交流サイト(SNS)を通じて瞬時に拡散し、日用品買い占めなどの騒動を引き起こす事態に。デマのパンデミック(世界的大流行)はなぜ起きるのか。実態と対処法を探った。

 不安を増幅の可能性

 全国で2月、トイレットペーパーの買い占めが相次いだ。発端とされたのは、同月27日午前に投稿された「中国から輸入できず品薄になる」とのツイート。鳥取県の米子医療生活協同組合は3月3日、職員が不適切な投稿をしたとホームページに謝罪文を掲載した。だが、この投稿が本当に騒動の原因なのだろうか。

 2月下旬~3月上旬のトイレットペーパーに関するツイッターへの投稿約462万件を分析した東大大学院の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)は「これが買い占めの原因とは考えにくい」と指摘。問題の投稿をリツイート(転載)したのは2件だけだったからだ。

 注目したのは、デマを打ち消そうとする、その後の投稿だ。2月27日午後には九州地方の自治体首長が「買い占めしなくても大丈夫」と投稿し数万人に拡散。呼応するような注意喚起の投稿が続き、安倍晋三首相が「在庫が確保されている」と言及する事態になった。

 鳥海准教授は「『デマを信じるな』という投稿がかえって偽情報の存在を拡散させ、品不足の不安を増幅させた可能性がある」と説明する。さらに商品が売り切れた棚の写真が投稿されたインスタグラムや、やり取りが外部から見えないLINE(ライン)など複数経路を通じて偽情報は広がったとみられる。

 食料品や日用品の買い占めは欧米でも発生。ウイルスの発生源をめぐる根拠のない情報が国境を越えて流布し、人種差別の被害を生んでいる。正体不明のウイルスへの不安が過剰な反応を引き起こしているとみられるが、これに拍車を掛けているのがSNSの台頭だ。

 情報、SARS時の68倍

 SNSでは、誰もが情報の受信者であると同時に発信者となる。投稿や情報共有のハードルが低く、衝動的な発信が起こりやすい。法政大の坂本旬教授(情報教育論)は「親密さを媒介に広がるSNSでは、真偽不明な情報が受け入れられやすい」と分析、自分が望む情報しか見えなくなる現象が生じ得るとする。

 過去の感染症流行時と比較しても情報量は爆発的に増加した。コンサルティング大手デロイトトーマツグループによれば、SNSの普及を背景に情報伝達力(より多くの情報を速く詳細に伝える力)は2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時から68倍に急伸。情報の渦を制御するのは、困難になる一方だ。

 世界保健機関(WHO)は、情報(インフォメーション)と感染症の急激な拡散を示す「インフォデミック」の造語を挙げ、感染症への恐怖とともにデマが拡大し「信頼できる情報にたどり着けない危機」が発生する恐れがあると警鐘を鳴らしている。