【お金で損する人・得する人】家計も緊急事態 住宅ローン、学費、奨学金返還のやりくり術
前回は、コロナ禍における家計の見直しを5ステップでお伝えしました。緊急事態の対応ですから、従来の支出見直しとは少し異なり違和感を覚えた人もいるかもしれません。今回はさらに踏み込んで、大きな支出の見直しややりくりをお伝えします。
住宅ローン返済
多くの人が「為すすべ無し」と恐れているのではないか、と筆者が考えているのが住宅ローンの支払いです。住宅ローンを借りるときは、年収をもとに返済できるかどうかが審査されます。住宅ローン審査の前提は、収入が同程度継続すること。住宅ローンを借りる人も、収入が継続することを念頭に申込みます。
しかし、住宅ローン審査において新型コロナウイルス感染症の影響は想定外です。住居費は毎月の支払いの中でも最も大きくなる項目ですから、収入が減ると支払いの負担感が他より大きくなります。さらに住宅ローンは借金ですから、節約するわけにもいかず毎月の支払いを最長35年間継続して払い続けます。住宅ローンを払えなければ、家を売ることになり、大切な住まいを失うのです。生活基盤を失わないように直ちに動きましょう。
新型コロナウイルス感染症の影響で勤務先が倒産するなどして失業した場合や、休業に伴い収入が減少した人は、住宅ローンを借りている金融機関にすぐに相談をお勧めします。金融機関の対応は実際に相談してみないとわからないのですが、参照例はあります。フラット35という全期間固定金利の住宅ローンを銀行に提供している住宅金融支援機構(以下、機構)では、新型コロナウイルス感染症の影響で住宅ローン返済が困難になっている人に対して、返済方法の変更メニューを提供しています。(参照URL:https://www.jhf.go.jp/files/400352693.pdf )
<返済方法の変更メニュー利用条件>
条件は以下の通りで、(1)、(2)、(3)のすべてに該当している必要があります。
(1)経済事情(※A)や病気等(※B)の事情により返済が困難な人
※A 倒産による解雇、リストラによる転職・退職・出向による減収、業績悪化による給与・賞与の減収や残業減による減収など。自営業の場合は、倒産・廃業、受注減や売上減による減収のこと。
※B 病気、事故によるケガや後遺症、高度障害、家族の発症による介護などによる減収、支出増など。
(2)以下の収入基準のいずれかを満たす人
・年収が機構への年間返済額の4倍以下
(年収に対する返済負担率が25%超)
・月収が世帯人数×64,000円以下
(3人世帯19.2万円、4人世帯25.6万円等)
・住宅ローン(機構に加え民間の住宅ローン含む)の年間返済額が機構の定める返済負担率を超えており、かつ収入が20%以上減少した人
(3)返済方法の変更メニューを利用することで今後の返済を継続できる人
(1)は本人であれば、自分が該当しているかわかるでしょう。(2)については年収が年間返済額の4倍以下など、比較的該当者がいるのではないかと思われます。(3)については返済方法を変更しても支払いができない場合は応じないという解釈でいいでしょう。
つまり、収入のある人に対して支払額を減額するなどの措置がある一方で、対策しても返済できないと判断された場合には変更メニューを使うことができません。
<返済方法変更メニューの内容>
(1)返済特例
住宅ローンの返済期間を延長することで、毎月の返済額を減らす方法です。一般的には住宅ローンの返済期間は最長で35年ですが、さらにプラス15年とすることができます。つまり、50年返済の住宅ローンと考えるといいでしょう。ただし、完済時の年齢は80歳までとなりますから、30歳の人が住宅ローンを借りた直後に、今回のケースに該当すれば、80歳まで払い続ける返済スケジュールに変更できるということです。
なお、借入金額3,000万円(元利均等返済、毎月均等払い、金利1.0%)の場合、35年返済では毎月84,685円の支払いが、50年返済の場合63,557円になります。毎月2万円強減額となり、返済額としては25%程度減少しています。
(2)中ゆとり
一定期間に限り返済額を減らす方法です。一定期間終了後に、減額した分の返済額を従来の住宅ローン返済額に上乗せして支払いを継続する方法です。
例えば、子どもが大学生の場合あと数年で学費の納付が完了する場合などに有効であると考えられます。あるいは、子どもが高校生、大学生になりアルバイトができるようになれば、家にお金を入れられる。そのようなケースでの一時的な対策としても利用が考えられるでしょう。
(3)ボーナス返済の見直し
ボーナス返済月の変更、毎月払いとボーナス払いの返済額の内訳変更、ボーナス返済のとりやめなどがあります。
ただ、ボーナス返済の見直しについては、そもそも返済余力があればボーナス払いを選択するケースは少ないと思います。ボーナス返済の見直しだけでなく、(1)返済特例と(2)中ゆとりを同時に活用して、ボーナス返済分を一時的に先送りしたり、ボーナス返済分を毎月返済に加える代わりに、返済期間を延長することで、毎月の返済額を増やすことなく、住宅ローンを返すことができるようになるでしょう。
機構以外の銀行、信金・信組などで住宅ローンを借りている人は、機構の例に準じた対応が個別対応で実施できる可能性があります。返済に不安を感じたら、金融機関に相談してみましょう。
返済条件の変更に伴うリスクとしては、優遇金利が消滅したり、返済総額が増えることが考えられますが、家を失うリスクの方が大きいはずですので、今をいかに耐えるかを重視しましょう。住宅ローンの優遇金利がなくなってしまっても、改めてコロナ禍が過ぎ去った後に住宅ローンを借り換えるという方法もあります。
学費の支払い
新型コロナウイルス感染症により家計が急変し、お子さんの学費や教育関連支出が困難になった場合、奨学金を利用するという方法があります。
奨学金というと、事前に準備しておくものと思われるかもしれませんが、日本学生支援機構(以下、JASSO)では家計が急変した場合の奨学金を案内しています。今回の奨学金は給付型と呼ばれる仕組みで、従来の貸与型とは異なります。返す前提の借金ではなく、もらうタイプの奨学金です。
<利用条件>
以下に該当することが必要です。
(1)生計維持者が死亡
(2)生計維持者の自己または病気により半年以上の就労が困難
(3)生計維持者が失職(自発的な失業を除く)
(4)被災による生計維持者の生死不明、行方不明、就労困難など
どの事由による利用にせよ、証明書が必要になります。いわゆるコロナ離婚による収入減少などは対象になりませんのでご注意ください。今回は(3)のケースでの申請が大半となるでしょう。
子どもの教育を新型コロナウイルス感染症の影響で制限しないためにも、まずは条件に当てはまるかどうか確認し、該当する場合はJASSOに申請しましょう。
奨学金の返還
御自身が過去に貸与型奨学金を利用しており、現在奨学金の返還中の人は、奨学金返還に関する対応策があります。
<奨学金返済の対応策>
(1)減額返還
毎月の奨学金の返還を減らすことのできる制度です。一定期間返還額を減らし、併せて返還期間を延長することができます。1回の申し出で12カ月延長でき、最長15年延長することができます。
(2)返還期限猶予
奨学金の返還期限を猶予する制度です。承認されると一定期間の奨学金返還が猶予されます。返還を先延ばしする制度であり、免除されるわけではありません。猶予期間は通常は10年までとなりますが、事情によっては制限がなくなる場合もあります。
いかがでしょうか。住宅ローン、学費・教育資金、奨学金返還と3つの大きな支出をやりくりする方法をお伝えいたしました。公共料金などは比較的スムーズに支払い猶予ができると考えられますが、今回の3つは公的な証明書が必要であったり、条件が細かく定められるなど希望する人全員が利用できるわけではありません。
しかし、このような制度はそもそも知らなければ使うことができません。ですから、まずはいろいろな制度があるのだということを覚えておいてください。もし、お知り合いに今回の制度が利用できそうな人がいたら、教えて差し上げてください。新型コロナウイルス感染症は情報の共有も大切な対策となりえるのです。
【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら
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