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野生のイルカに魅せられて 御蔵島(東京・御蔵島村)

 東京に、野生のイルカが暮らす島がある。

 夜、東京湾の竹芝桟橋から東海汽船の大型客船「橘丸」に乗り、太平洋を南方へ約200キロ移動すると、伊豆諸島の御蔵島(みくらじま)に着く。7時間におよぶ長い船旅の末に降り立つ島は、断崖絶壁の岩肌が海からそそりたち、ここは東京かと不思議に思うほど、太古の自然が広がっている。浄化された清涼な空気がおいしい。

 海流の早い黒潮の通る周辺海域では、昔から漁業が難しく、そのため豊富な魚を食べる野生のミナミハンドウイルカが棲(す)みつき、島の人たちと共生がかなってきた。

 江戸時代にはツゲの出荷やツゲ細工の生産が盛んだった。しかし、時代とともに衰退し、やがてドルフィンスイムやドルフィンウォッチングの観光業が始まった。毎年春から秋にかけ、イルカを一目見たいという観光客が多く訪れ、今では宿の予約が取れないほど人気だ。

 私のドルフィンスイム初体験は、夢見心地極まりないものだった。港で漁船に乗り、ぐらんぐらんと揺れる波をすべるように出航した。ものの5分だ。「イルカが来るから、海へ入って!」と船長に言われ、水中マスクを着用する。

 青い世界はどこまでも透明に思えた。ゆらーんと揺れる水面を漂っていると、やがてピーピーという甲高い音が聞こえ、背後から突如イルカが現れ、2頭、3頭、10頭と続いた。水面に顔を出しにきたイルカの目のかわいさ。親子のイルカもいて、くるりと子供が振り返った。

 現在、島では約150頭の個体識別を行い、その暮らしを尊重し、大切に保護している。一方で、御山(おやま)をはじめ高峰が連なる山の中では、近年野生化したイエネコが増え続け、島のオオミズナギドリを捕食するという問題も起きている。世界有数のオオミズナギドリの営巣地である島の生態系が崩れれば、いずれイルカが棲みにくい環境となる可能性もある。

 今、危機感を募らせた有志の人たちが島と一緒に動き、ネコを捕獲して、里親捜しをしている。私も昨年、2匹を引き取った。

 島の魅力や自然環境を守っていくのは、島に魅せられた旅人も同じなのだ。

《アクセス》竹芝桟橋(東京・港区)からの航路のほか、羽田空港から空路で八丈島を経由するルートなどがある。

【プロフィル】小林希

 こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後に帰国して、『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆およびフォトグラファーとして活動している。これまで世界60カ国、日本の離島は100島をめぐった。令和元年、日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。著書は『週末島旅』(幻冬舎)など多数。