新時代のマネー戦略

知らない会社員は損をする 税と社会保険と会社の制度

鈴木暁子

 源泉徴収票を捨ててしまう会社員

 毎年年初に送られてくる源泉徴収票。企業内での相談で、参考資料として源泉徴収票があれば持参してほしいと依頼すると、捨ててしまったという方が意外と多いのですが、皆さんはいかがですか?

 実は筆者にも会社員時代があり、当時はちらっと見て捨てていました。そもそも使うことがなかったので用途もわからず、せいぜい年収と源泉所得税額を確認し、「こんなに税金を納めていたのか」としか思わなかったからです。ちなみに源泉徴収税額が納めた税額ではなく、年末調整で過不足を調整した税額であることもしばらくしてから知ったくらいです。

 初めてじっくり源泉徴収票と向き合ったのは、夫の不動産所得の申告のためでした。マンションを購入したもののほどなく転勤となり、やむなく賃貸に出して得た不動産所得ですが、会社の同僚に「所得が増えると税金が増えるから申告しないほうが良い」と言われ、申告していなかったとのこと。結婚後にそのことを聞いた私が、それはマズイだろうと申告をしたところ、所得税が増えるどころか還付になったのです。還付が嬉しかったのはもちろんですが、所得税が決まるしくみを理解したことで源泉徴収票の中身も意義も納得できたのです。

 税のしくみがわからなければ節税などできない

 企業内での相談でも、何か良い節税の方法があるかとよく質問されますが、実はけっこう難しいと思っています。ご存知のように、所得税は給与収入すべてではなく、課税所得(税がかかる対象となる所得)に対してかかるものです。所得が圧縮されれば当然所得税も少なくなりますが、さまざまな経費を計上できる自営業者と違い、会社員は社内処理で精算するので、基本的には個人の経費計上という概念がほとんどありません。つまり圧縮しづらいのです。会社員の場合、所得税が決まるまでの概要は以下のような流れです。

 まず「給与収入」から、自営業者の経費にあたるものの代わりに、会社員の経費ともいわれる給与所得控除が一定額差し引かれます。これは収入に応じて決まった計算式で算出されます。この段階が「給与所得」です。次にここから各種所得控除を差し引きます。社会保険料控除のほか、よく使われる控除として、生命保険など保険料の支払いがある場合に使える生命保険料控除、ふるさと納税をした際に使える寄附金控除、医療費が一定額を超えた場合に使える医療費控除、扶養配偶者がいれば配偶者控除などがあります。これらを差し引いたものが「課税所得」であり、これに所得税率を乗じて所得税額を算出します。つまり会社員が誰でもできる節税というと、所得控除の活用くらいしかないのですが、今一つ使いこなせていない方も多いようです。

 保険の契約者を妻に変更してみると…

 保険の見直しの相談にみえた従業員の方の保険証券を拝見したところ、すべて契約者は本人(夫)でした。扶養配偶者がいればよくあるケースです。ところが妻の収入は200万円ちょっと(所得ベースでは200万円未満)。子どもも手を離れ時間もできたので、一昨年前から働きに出るようになったとのこと。つまり妻も納税者になったわけですが、妻が被保険者(保障の対象者)の医療保険とがん保険を、妻を契約者に変更すればこのケースでは所得控除が4万円増えます。夫の保険料控除枠の上限いっぱいまでしか活用できないところ、妻の枠を活用することで世帯での所得控除枠が増えるからです。

 同様に、この世帯では医療費は8万4000円程度だったので医療費控除の申請をしなかったそうですが、10万円の基準は総所得が200万円以上の場合。200万円未満であれば、総所得金額×5%を超えた分について申告できます。これも妻が申告すればこのケースでは約5万2000円所得控除できます。

 よくあるケースを列挙してみました。病院まで公共交通機関を利用した交通費、人間ドックで治療が必要な疾病が見つかり、治療した場合は人間ドック費用も医療費控除の対象にできることを知らない人も多いようです。また、病院に支払う食事代やインプラントの治療費など、高額療養費の対象にはなりませんが、医療費控除の対象にできるものもあるのです。領収書、レシートはしっかり保管しておきましょう。ただし、拡大解釈は危険なので、迷った場合は国税庁のホームページで確認したり、最寄りの税務署に問い合わせると安心です。

 社会保障と会社の制度でもっと節約できるかも

 会社の制度。これは自営業者にはない会社員ならではの特権です。特にリスクへの備えは国の社会保障や会社の制度を活用しても不足する分を自助努力でカバーするという考え方なので、ここはしっかり押さえましょう。

 企業内で保険に関する相談では、病気などで働けなくなった場合の補償、医療や死亡時の保障の大きさなどが多いのですが、会社員が加入している健康保険には、病気やけがで働けなくなった場合に一定額を給付してくれる「傷病手当金」があります。これは自営業者が加入する国民健康保険にはない給付です。

 また、「高額療養費制度(1カ月の医療費が自己負担額上限を超えた場合、超えた分については払い戻してもらえる制度)」に加え、会社独自の付加給付があるとか、従業員の死亡時に会社からの弔慰金や遺族年金を設定しているところもあります。社会保障を理解するだけでなく、ぜひ会社の規程も一度確認してほしいとアドバイスしています。

 それ以外にも、世帯主は夫でも、妻のほうが所得が高い場合あるいは妻の会社のほうが福利厚生が手厚い場合、 子どもは妻の扶養にするほうがオトクになるケースもあることなど、調べたりちょっとした工夫で所得控除を増やせることもあります。

 

 会社に任せ切りでは損をしかねない

 自営業者は自身で確定申告をするので、税や社会保険に非常に敏感です。一方、会社員は年末調整があるので、このような計算や税の精算まで会社がやってくれます。会社任せは楽な反面、鈍感になってしまいがち。ガラス張りといわれる会社員の所得でも、少しでも節税、節約につなげられる賢い納税者になっていただきたいです。

鈴木暁子(すずき・あきこ) ファイナンシャル・プランナー CFP(R)認定者
FPオフィスNext Yourself 代表
多様化するライフスタイルに応じた生活設計や資産形成を重要視し、セミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・ウェブなどで記事・コラムを執筆。家計管理や資産形成相談を多数手がける。シニアマネー相談も得意とし、リタイアメントプラン、セカンドライフの生活設計アドバイス、高齢期の住み替え支援も行う。共著に「100歳まで安心して暮らす生活設計」(実業之日本社)がある。FPで構成する「高齢期のお金を考える会」のメンバー。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら