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「未来券」が経営者の「今」を救う コロナ休業明け利用で支援

 新型コロナウイルスの感染拡大により各自治体から休業を要請され、苦境に立たされた映画館やライブハウス、飲食店などで、休業明け以降に使える「未来券」を販売し、当座の運転資金にまわす動きが広がっている。ぜいたくなランチやとっておきの映画、旅行など、消費者の「未来」の楽しみが経営者の「今」を救うこの取り組み。全国から応援の声が続々と寄せられている。(地主明世)

22日からの映画館の知らせるお知らせが貼られた出町座=京都市上京区
22日から映画館の上映再開を決めた出町座=京都市上京区

 「何もしなければ、なすすべなくこの大波にのみ込まれる。やらなければ、どうしようもない」。京都市上京区でミニシアターやカフェなどを営む出町座の田中誠一支配人(42)は、未来券販売に踏み切った理由をこう説明する。

 出町座は平成29年にミニシアターと書店、カフェを併設する施設として開館。著名人らを招いたトークショーやサイン会などを数多く開催し、文化の発信拠点として活動してきた。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で3月末から客足が激減。自粛期間中は映画館を休館し、併設する書店とカフェのみ時間を短縮するなど切羽詰まった状況が続いた。

 そんな中で追い込まれるように始めたのが、クラウドファンディング(CF)で支援金を募る「出町座未来券」の取り組みだった。

 未来券は、活動自粛が明けた未来に出町座で使える先売り券で、映画鑑賞券▽書籍購入券▽カフェ利用券-の3種類を用意。コーヒー豆や書店の店長が選んだ書籍などが自宅に届くセットもある。いずれも「近い未来、またここにつどってもらいたい」と思いを込めた品々だ。

 募集開始の4月3日に180人以上が賛同。2日目には支援金が目標の200万円を突破した。田中支配人は「大きなリアクションがありがたい。応援してくれる人のためにも今できることを考えていくつもりです」と話す。

 京都府の休業要請の一部解除を受け、出町座も22日からの営業再開を決めた。座席の間隔を1メートルあけたり、マスクの着用、館内の換気や事前予約など対策を凝らしているが、自粛期間に客足が8割程度減少した現実は重い。田中支配人は「まだ感染が心配だという人もいるでしょうし、気が晴れるとはいかないが、重々気を付けてやっていこうという気持ちです」と話す。

 同様の取り組みは全国で広がっている。房総半島の南に位置する千葉県館山市では、苦境に立たされた飲食店が有志で実行委員会を立ち上げ、CFで支援を募る「ミラ・めし・たてやま」の取り組みを5月1日から始めた。同市は関東を中心に多くの人々が訪れる人気観光地だが、昨年9月に関東を襲った台風15号で大きく被災。春の観光シーズンに客足を取り戻そうとしていた最中に、今回の自粛が重なったという。

 フレンチレストランを営む実行委の小沢直美会長は「台風とコロナのダブルパンチで元気が出ない雰囲気もある。このピンチを救っていただけたらという思いです」。応援したい飲食店の食事券が、支払った額の10%上乗せで手に入る。市内のすしや焼き肉、カフェ、居酒屋など90店以上が参加しており、19日までに400万円以上が集まった。

 同様に全国の40件のゲストハウスの経営者らが参加する取り組みが「みらいの宿泊券」だ。今年9月~来年8月31日までの期間限定の宿泊券で、提携する施設であればどこでも使用できるほか、ギフト券にもなる。「『未来の券』は大好きなアーティストのライブチケットを買うようなもの」と例えたのはアイデアを出した高知県須崎市の武田真優子さん(36)。「自然災害と違って今は自分が助けに行くことは難しい。今回の企画は『それでも何かしたい』という気持ちの受け皿となり、人とのつながりをより深められた。大変ですが、気持ちは前向きでいたいです」と力を込めた。