5時から作家塾

スマホ・パソコン不要 オンライン帰省の便利な味方

吉田由紀子

 新型コロナウイルスの影響で、今年の連休は大半の方が帰省を自粛したと思う。代わりに流行ったのが「オンライン帰省」。スカイプやZOOMなどの通信システムを使って、故郷の両親・祖父母と交流を楽しむ方法である。政府が推奨したこともあり、オンライン帰省を行った方は多いのではないだろうか。

離れていても子どもや孫の様子をスマホから簡単に送れる「まごチャンネル」。オンライン帰省に便利なツールだ
実家ではテレビ画面で画像や動画を簡単に見られるとあって、高齢者のいる家庭に好評である
受信ボックス(左)に通信機能が搭載されており、面倒なネット接続は不要である。高齢者でもラクに使えるようになっている

 筆者も四国の実家に90代の伯母がいる。連休に帰省したかったが、外出自粛要請のため断念。オンラインで動画や写真を送りたかったけれど、高齢のために伯母はパソコンやスマホを使えない。仕方なく電話をかけて近況を聞くに留めた。

 高齢者にはデジタル機器の操作はどうしても難しいものがある。もっと簡単に使えればいいのに…と思った方は少なくないだろう。

 こんな不便さを解消してくれるサービスが、今年の連休、にわかに注目された。

 「まごチャンネル」である。これは送られてくる写真や動画を、家庭のテレビで楽しめるサービスだ。文字通り、離れて暮らす孫や子どもの姿を、おじいちゃんおばあちゃんに見てもらえるとあって購入者が急増した。

 設置は簡単で、小型の受信ボックスを附属のケーブル2本で電源とテレビにつなぐだけ。通信機能があるので、面倒なWi-Fiの設定は必要ない。スマホから写真や動画を送り、実家が視聴すると、スマホに通知が届く仕組みになっている。受信ボックスは、写真で約5万枚、1分程度の動画で約2000本を保存できる大容量だ。

 スマホに専用アプリをインストールすれば、いつでもどこでも写真や動画を実家に送ることができる。テレビの大画面で見られるとあって高齢の親御さんには便利だ。

 「あと何回、我が子を会わせられるだろうか」

 このサービスを開発した株式会社チカク代表取締役・梶原健司さんに取材をした。

 「今年1月-3月期の出荷台数は前年比2倍に、4月単月では3倍にまで伸びました。新型コロナウイルスの影響で帰省ができず、購入された方が多かったようです。利用者さんからは、『孫が目の前に帰省してくれたようでうれしい』『パソコンやスマホの小さな画面ではなく、テレビの大画面でラクに見られるので助かっている』『毎日まごチャンネルの動画が届くのが楽しみ』、こんな声をいただいています。面白いのは、御夫婦で一緒に「まごチャンネル」をご覧になり、共通の話題ができるからでしょうか、夫婦仲が良くなったという感想も多くいただいています」(梶原さん、以下同)

 まごチャンネルは、子どもが購入して実家に贈るケースが大半だ。母の日や敬老の日、誕生日の贈り物にする方が多いという。2016年の販売開始以来、これまで1万台以上を出荷している。

 「購入した方からは、親がこんなに喜ぶとは思わなかった、という声を非常に多くいただいています。面倒なネット接続が要らないのが好評の理由の1つだと思います」

 このまごチャンネル、実は梶原さんの体験がきっかけになっている。梶原さんは、大学卒業後、アップルの日本法人に勤務した後、独立。2014年に株式会社チカクを設立している。

 「私は兵庫県の淡路島出身です。子どもの頃から祖父母、両親の3世代で暮らしていました。ですので、おじいちゃんおばあちゃん子なのです。しかし、仕事を始めてからは忙しくて、子どもたちを連れて帰省できない状態でした。実家にパソコンを設置し、テレビにつないで写真や動画を送ってみたこともありましたが、実家はうまく使いこなせなかったのです。あと何回、我が子を会わせられるだろうかと思った時に、なんとかできないかと考え始め、高齢者にも簡単に使ってもらえる方法を試行錯誤していきました」

 「もっとライトなサービスはできないだろうか」

 こんな経緯で誕生したサービスだが、昨年12月には警備会社セコムと協働で開発した「まごチャンネルwith SECOM」という新たな事業に乗り出している。

 これは、まごチャンネルの受信ボックスに環境センサーを接続し、実家の状況を把握するサービスだ。室内の温度や湿度、生活音、照度を感知して記録していく。受信側のスマホには、「起きたようです」「寝たようです」といった通知が届くため、離れていても実家の状態がわかる仕組みになっている。温度や湿度の急激な変化や熱中症の注意喚起もスマホに通知してくれる。

 「ユーザーさんから『見始めました』通知が安否確認に役立っているという声があり、まごチャンネルに見守りサービスを搭載できないかと考えていました。そんな折、東京都のアクセラレーションプログラムで知り合ったセコムさんが声をかけてくれたのです。セコムさんは緊急時に警備員が駆けつけるサービスが主力です。見守りサービスに関心を寄せる方が大勢いるにも関わらず、既存のサービスは専用の機器の設置を伴ったり、『まだ駆けつけサービスは早い』と、一般家庭では二の足を踏んでしまう。そんな潜在顧客に向けて、もっとライトなサービスはできないだろうかと模索していたタイミングでした」

 両社の方針が合致して、新たな見守り事業につながったのである。このサービスは注目を集め、2月には東京都が主催する「ダイバーシティTOKYO アプリアワード」で最優秀賞を受賞している。また、5月から東京の渋谷区では、新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた区民のSTAY HOMEの推進の一環として、このサービスを無償で住民に提供している。外出自粛ムードが続く中、実家とのコミュニケーションを促進するための支援策である。

 「距離も時間も超えて、大切な人を近くする(知覚できる)世界を創る」をミッションに掲げる株式会社チカク。高齢者でもデジタルの恩恵を得られる社会の実現に向けて、新しいサービスを構想しているところだ。(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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