車内から焼香、香典はカード決済 コロナ禍で葬儀が簡素化
新型コロナウイルスの収束が見通せない中、さまざまな場面で、流行の「第2波」を回避しつつコロナ禍に対応しようとする取り組みが広がっている。当たり前だった風習や生活・営業様式は変容を迫られ、故人を悼む葬儀の在り方にも影響が及ぶ。感染拡大を防ぐため規模が縮小され、火葬のみで済ますケースが増加。オンライン葬儀やドライブスルー型など、新たな見送りの形の模索が続く。(千葉元)
香典はカード決済
群馬県内のある葬儀場で執り行われた告別式。祭壇に向けて僧侶がお経を読み上げ、その後ろで遺族が手を合わせている。一般的な葬祭と違うのは、場内に録画用の定点カメラが設置されていることだ。様子はオンラインで配信され、パソコンやスマートフォン越しに“参列者”が見守る。
葬儀会社「メモリード」(前橋市)が4月から開始した「オンライン葬儀」サービスの一コマだ。感染症の拡大を防ぐには密閉、密集、密接の「3密」を避ける対策が有効とされる。同社によると、コロナ禍を受け、3密を回避するため、これまでに数件のオンライン葬儀が執り行われた。
喪主は、インターネットサイトのアドレスを事前に「参列希望者」へ送信。このサイト上で葬儀の開始時刻などが確認できる。定刻になると、動画投稿サイト「ユーチューブ」で葬儀の様子が配信され、故人の生前のアルバム写真なども閲覧できる。クレジットカード決済で、香典や供花を送ることも可能だ。
このサービスは遠隔地の人や高齢者向けに約2年前から開発を進めてきた。同社は「感染リスクがある公共交通機関で式場まで移動する必要もなく、最期のお別れができる。時間が合わなかった人は後日、録画を見ることもできる。新しい葬儀のスタイルとして活用してほしい」とする。
焼香は車内から
3密回避をキーワードにした葬祭のサービスはほかにもある。長野県上田市の葬儀場「上田南愛昇殿(あいしょうでん)」(レクスト・アイ運営)で行われているのはドライブスルー型の参列だ。
車に乗ったまま葬儀場の外にある専用レーンに整列。会場内のスタッフから手渡されたタブレット端末の液晶画面上などに専用のペンで記帳する。焼香は車内から窓越しに行い、場内にある祭壇に向かって手を合わせる。
運営会社によると、最近も利用の問い合わせがあったといい、今後の需要の高まりを見込んでいる。
葬祭サービス会社「よりそう」(東京都品川区)には、業務提携している全国の葬儀会社から、コロナ禍のさまざまな影響が報告されている。
埼玉県内の葬儀会社では、3月に扱った全ての葬儀が通夜や告別式を行わない火葬のみの形式だった。新型コロナ感染で死亡した遺体を弔った千葉県の葬儀会社からは「葬儀当日は暦上の友引で、通常は縁起が悪いとして火葬は実施されない日だったが、火葬業者が感染拡大の影響を考慮して受け入れてくれた」との説明があった。
よりそうの担当者は、コロナ禍の前から葬儀の形は変化しつつあったとし、「かつては多くの関係者を招いたが、昨今は親族に限るなど小規模化が進んでいた」と指摘。コロナの影響は、通夜や告別式に加え、会食も実施しないなど「簡素化」に拍車をかけているとの見方を示した上で、こう強調した。
「葬儀の形式や在り方が変わっても、故人をしのぶ気持ちが変わることはない。新しい見送り方を今後も検討していきたい」
業界に経営難の波
葬儀業界にも新型コロナウイルスによる経営難の波が押し寄せている。
東京商工リサーチによると、葬儀会社「式典さがみの」(相模原市)は3月、約2億円の負債を抱えて倒産した。新型コロナの感染拡大で高齢の参列者が集まる葬儀の延期や中止が相次いだためとしている。
「浄邦(じょうほう)堂」(宇都宮市)は、以前から市内で他業種からの葬儀業参入が続き、葬儀単価の下落に直面。コロナ禍でさらに競争が激化し、5億2千万円の負債を抱えて4月、倒産した。
関連企業にも余波が広がる。パーティーやイベント、記念式典向けにケータリングサービスを展開していた「松田商事」(栃木県小山市)は近年、葬儀向けのケータリングの需要が収益を支えていた。しかしコロナ禍で会食を自粛するケースが増加し、4月に事業継続を断念した。