乗るログ

異次元の速さにドライバー自ら車酔い レクサスのレーシングカーで富士に挑む

SankeiBiz編集部

 ※現在、新型コロナウイルスの影響で【乗るログ】の取材を自粛しています。再開するまで当面の間、過去に注目を集めたアーカイブ記事を厳選して再掲載します。記事の内容は基本的に掲載当時の情報となります。

雨の富士を走行する筆者運転のレクサス「RC F GTコンセプト」
レクサスRC Fの走行性能をさらに引き上げた「RC F GTコンセプト」
非常に簡素な「RC F GTコンセプト」の運転席
レクサスの「RC F GTコンセプト」で富士のメインストレートを疾走する一般参加者
大嶋和也選手が操縦する「RC F GTコンセプト」に同乗したが、強烈な加速力に1周目で車酔いしてしまい緊急ピットインする羽目に…
ピットガレージにたたずむレクサスの「RC F GTコンセプト」。メカと話をする大嶋和也選手(白のスーツ)
ドア開口部にもロールケージを組んでおり、太ももを支えるバケットシートの側面も高さがあるため、車両への乗り込みは非常に困難
天井裏のバーをつかみながらロールケージを乗り越え、バケットシートに滑り込む。足元は相当に狭い
この姿勢で乗り込むには体幹の強さも必要。ヘルメットをかぶった頭をぶつけずに乗るのは至難の業
フルバケットシートと5点式シートベルト
ロールケージに守られたキャビン
市販車とは明らかに異なる簡素なコックピット。色気やゴージャス感は全くない
ウインドー越しにロールケージが見える
エンジンを始動するときは①写真の赤いレバー(サーキットブレーカー)を時計回りに回す②その下のイグニッション(トグルスイッチ)をONにする③メーターパネル横のエンジンボタンを押す
レース用ブレーキ(キャリパ、ディスク、パッド)と300/680R18サイズのスリックタイヤ
ガレージに並ぶレクサスの「RC F GTコンセプト」
筆者が着用したフルフェイスのヘルメット、グローブと、衝突時に首を保護するHANS(ハンス)
溝がないスリックタイヤ(上段)とレインタイヤ
レクサスの「RC F GTコンセプト」に乗り込む一般参加者。手前は大嶋選手、左端は石浦選手
雨の富士を激走するレクサスの「RC F GTコンセプト」
レクサスの「RC F GTコンセプト」はエアジャッキを搭載している。圧縮窒素を注入してマシンを一瞬で持ち上げる
富士スピードウェイのピットガレージにたたずむ、レクサスの「RC F GTコンセプト」
車幅とほぼ同じ長さの大型リヤウイング。スーパーGTのマシンさながら
フルバケットシートと、ドライバーをシートに固定する5点式シートベルト。ドライバーの肩越しに車内を冷却するクーリング用パイプも見える
カーボンパーツの採用で軽量化を図っている
軽量・高剛性のカーボン製ボンネット
スーパーGTの“最速男”と呼ばれる立川祐路選手
レクサスのイベントに参加したドライバーのみなさん(右から)立川祐路選手、石浦宏明選手、大嶋和也選手、国本雄資選手、片岡龍也選手、中山雄一選手

 《2017年10月掲載》今週は霊峰富士を望む高速テクニカルサーキット「富士スピードウェイ」が舞台だ。ヘルメットとレーシングスーツに身を固めて乗り込んだのは、高性能クーペ「RC F」をベースに開発したレクサスのレーシングカー「RC F GTコンセプト」。このマシンは「レース経験のない人でも扱えるレーシングカー」をコンセプトに開発されているのが特徴だ。時折、大粒の雨が激しく路面をたたく富士のメインコースで、ドライブパフォーマンスを確かめてきた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)

 RC Fを進化させたレーシングカー

 ピットガレージからメインストレートに目をやると、1台のレーシングカーが爆音を轟かせながら一瞬で走り去っていった。大砲から放たれた弾丸を連想させるような猛烈な速度感。実はスーパーGTに参戦する現役プロドライバーが、筆者がこれから運転するRC F GTコンセプトのウォームアップ走行を代わりに行っているのだ。

 今回の試乗はレクサスに誘ってもらう形で実現した。一般参加者を対象に定期的に開催される「レクサス・アメージング・エクスペリエンス」というイベントの前日に、メディア向け試乗会が行われたのだ。筆者がこのイベントに参加するのはこれが2回目。前回はスーパーカーの「LFA」など複数の市販車を運転したが、RC F GTコンセプトに乗るのは初めてとなる。

 RC F GTコンセプトは、ベース車両のRC Fを300kgほど軽量化して車重1493kgとし、パワーウェイトレシオを3.75kg/psから3.13kg/psに改善して動力性能を引き上げたマシン。さらにウイングやスポイラーなどのエアロパーツを装着して空力性能を向上させ、車内にアルミパイプを組み合わせたロールケージと呼ばれる補強フレームを張り巡らせて剛性もアップ。レース用ブレーキを装着した足回りに極太スリックタイヤ(溝のないタイヤ)を履かせた正真正銘のレーシングカーとなる。477馬力/7100rpmを発生する5LのV8自然吸気(NA)エンジンや8速ATのトランスミッションはRC Fと同じユニットを流用することで、レース経験のない人でも運転しやすいマシンに仕上げてあるという。ただし、ベース車両と近似性があるのはこのパワートレインのみだ。

 用意されたレーシングスーツに着替え、フェイスマスクとフルフェイスの競技用ヘルメットを着用する。ヘルメットは想像以上に重さがあり、何とも言えぬ圧迫感が顔全体を包む。視界は思っていたよりも狭く、視線を下にうつしても足元が全く見えない。口元がマスクとクッションパッドで覆われているため、呼吸をすると息がこもるような生暖かい感覚がある。2時間を超える夏場のレースはドライバーにとってさぞかし地獄だろう。

 乗り込むだけで一苦労

 今回、筆者を指導してくれるのは人気ドライバーの大嶋和也選手。マシンを運転する前に、まずは乗り降りの練習を行った。というのも、レース中のドライバー交代もそうだが、万が一の事故の場合は、マシンから迅速に脱出しなければならない。まずはそのための訓練を行うのだ。これが想像以上に難しい。とにかくドアの開口部が狭いのだ。マシンに乗り込む際に、ハードルを跳び越えるように右脚を蹴り上げてロールケージのバーを乗り越え、バケットシートをよけながら狭隘な空間にスルリと滑り込まなければならない。その際に右手で天井のロールケージをつかみながら乗り込むのだが、どうしてもヘルメットがルーフに当たってしまう。大人が高さ1m弱の空間に素早く入り込むのは容易ではない。

 ハンドルは邪魔にならないよう、あらかじめ上向きに跳ね上げてある。不器用ながらもなんとか無事に座れたのだが、今度はバケットシートがとにかくキツい。172cm、63kgと平均的な体形の筆者でも、シートに収まるとまったく身動きが取れない。ヘルメットを被っていると手元も見えづらい。その影響で、両肩、両脇腹、股下から伸びる5点式シートベルトを自分で装着することができないため、代わりに2人のピットクルーにベルトを着けてもらうことになる。走行中にかかる大きなG(加速度)に備えてガチガチに縛り上げるため、まるで自分の体がシートと一体化したような感覚だ。ハンドルを降ろして固定させたら準備は完了。乗用車を運転するときはヒジが軽く曲がる距離でハンドルを固定するのが理想的だが、車体に大きな荷重がかかるレーシングカーは腕に力を込めて素早くハンドルを切れるように、なるべく体に近い位置でセットする。

 エンジンのかけ方も市販車とは全く異なり、3段階のステップを踏む必要がある。(1)センタークラスターの赤いレバー(サーキットブレーカー)を時計回りに回す (2)その下にあるイグニッション用トグルスイッチをONにする (3)メーターパネル横のスタートボタンを押してエンジンを始動する、といった手順だ。エンジン性能に手を加えていないとはいえ、車内に響くサウンドがRC Fのものよりさらに重厚に聞こえたのは、気のせいだろうか。とにかくドライバーをやる気にさせる痺れるサウンドである。

 圧倒的な動力性能

 メカニックの合図とともにピットを出てメインコースに合流する。富士は朝からあいにくの雨模様。出走するころにはかなり雨脚が強くなっており、運転に支障をきたさない程度にうっすらと霧も発生していた。残念ながら、このコンディションではスリックを履くわけにもいかず、レインタイヤでの試乗となった。

 同乗する大嶋選手のアドバイスに耳を傾けながら、徐々にスロットルを開放していく。「ブロロロ…」と唸るエンジン音は飾りでも何でもなく、ペダルを少し踏んでやるだけでマシンが力強く加速。幅280mmの大きな接地面積を誇るタイヤを履いていることもあり、濡れた路面でも圧倒的なグリップ力を発揮する。ウエットコンディションに最初は緊張気味だったのだが、これで一気に安心感が高まった。

 マシンや路面状況に慣れてきたところで、アクセルペダルに思いっきり力を入れてみる。V8の5Lエンジンが刺激的なサウンドを奏でながら強大なエネルギーを生み出し、後輪で路面を力強く蹴り出すと時速はあっという間に200km/h付近まで達する。まるでA地点からB地点まで瞬間移動をしているかのような速さだ。しかも、激しい雨の中でもスピードに乗ったマシンは抜群の安定感を維持しながらストレートを突き進む。回してなんぼのNAエンジンは5000~6000回転を超えても余裕で加速。いまどき希少な大排気量NAの“体がシートに吸い付く”ような伸び感は、やみつきになる快感を味わえる。

 雨中でも際立つコーナリング性能

 第1コーナー進入時のフルブレーキング下でも姿勢が乱れることはない。約200km/hから60km/hキロまで危なげなく制動する圧倒的なブレーキ性能。そのような状況下でもハンドルを切れば素直にターンインし、再びアクセルを踏めばすぐさまロケットダッシュを見せる。2年前に同じコースをRC Fで走ったときは急激な加速・減速時に車重の重さを感じたのだが、RC F GTコンセプトは軽量化を含めた高性能化でコーナリング時の鈍さは確実に解消されている。もちろん前回と状況は異なるが、走行性能の違いをレインタイヤでも確認できるほどの飛躍を遂げている。

 個人的なハイライトは、中高速の100Rという大きな右カーブで体感した操縦安定性の高さだった。100Rの特徴はコーナーが永遠に続くような感覚に陥るほど右カーブが長いことと、加速しながら曲がるにつれてだんだんとターンが内側に鋭くなることなのだが、RC F GTコンセプトは時速100km/h程度なら雨中でも安心してマシンをコントロールすることができた。初体験の筆者には度胸のいる試みではあったが、コーナリング中に横滑りする気配はおろか、微量の修正舵すら加える必要がなかった。まあ、性能の高さを考えるとこのマシンの限界をまだまだ引き出せていないのは明白なのだが。

 筆者が特に苦労したのは…

 筆者が一番苦労した点は、ワイドタイヤを履いた独特の車両感覚をつかむことだった。RC Fよりも大きく張り出したフェンダーとヘルメット越しの視野の狭さに慣れることができず、コーナーの縁石をクリッピングするのに相当手こずってしまった。はじめのうちに助手席側の縁石に派手に乗り上げてしまい、縁石の凹凸を「ダダダダ!」と乗り上げる不快な音が車内に響いた時は「やばい!」と冷や汗が流れた。

 圧倒的な空力性能がもたらすダウンフォース(車体を路面に押し付ける力)の利いた走りにも手を焼いた。コーナリング速度が速いため、普段はまず感じることのない強い横Gが何度も体を襲うのだ。結果的に自分で運転中に車酔いするという初めてのハプニングを経験してしまった。レーシングカー、恐るべし--。

 誰でも簡単に非日常体験

 RC F GTコンセプトの最大の魅力を挙げるなら、やはり「レーシングカーの走行性能をプロドライバーでなくても楽しめる」ということだろう。その走行感は市販車とは大きくかけ離れており、一つひとつのアクションがドライバーにとって非日常体験となるのだが、それを味わうのにプロ並みの高度な運転技術も特殊なドライビングライセンスも必要としない。せっかくこんなに楽しいマシンを作ったのだから、今後「誰でもサーキットに来れば気軽にRC F GTコンセプトで遊べます」なんて日が来ることを一人のクルマ好きとして期待してしまう。

 筆者が運転した翌日には、倍率50.7倍の難関を突破した8名の一般参加者が晴天のもと、先導車のいないフリー走行やリレー方式のレースなど様々なイベントを体験した。彼らに話を聞くと「サーキットを走るのは初めてです」という参加者がほとんど。RC F GTコンセプトについて「速い・止まる・曲がるがしっかりしていて乗りやすかったです」「恐怖心はありませんでした」と存分に楽しんだようで、中には「220km/hまで出しました」なんて人もいた。大嶋選手も「プロが乗っても十分楽しめるレーシングカーです」と太鼓判を押すRC F GTコンセプト。もし興味のある読者は、次回の「レクサス・アメージング・エクスペリエンス」にぜひ応募してみてはどうだろうか。

【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら

参加GTドライバー

立川祐路、石浦宏明、大嶋和也、国本雄資、片岡龍也、中山雄一(敬称略)

主なスペック レクサス「RC F GTコンセプト」(試乗車)

全長×全幅×全高:4760×1963×1380mm

車両重量:1493kg

エンジン:V型8気筒DOHC

総排気量:5L

最高出力:351kW(477ps)/7100rpm

最大トルク:530Nm(54.0kgm)/4800~5600rpm

パワーウェイトレシオ:3.13kg/ps

空力:フロントスポイラー/リヤウイング

内装:ロールケージ装着/フルバケットシート

フロントブレーキ:レース用キャリパ/ディスク/パッド

リヤブレーキ:レース用パッド

トランスミッション:8速/ATパドルシフト

駆動方式:後輪駆動

タイヤサイズ:280/680R18(レース専用スリックタイヤ)

定員:2名

ステアリング:左

車両本体価格:試作車