今回のテーマはSPIである。適性検査のひとつだが、SPIというと、就職氷河期世代より若い世代なら、「あぁ、就活の時に受けさせられたやつか…」と、ある意味、懐かしくもあり、人によっては苦々しい思い出だろう。
かくいう筆者も就職先に受けさせられた覚えがある。ただし、入社前ではなく内定者研修の時にである。どうやら、会社が内定者の配属先を決める際の参考にしていたようだ。
現在、SPIは企業が一次選考での足切りのために就活生に課す試験、という位置付けになっている。一説によると、誰もが知っているような有名企業だと、9割以上の正答率がないと足切りの対象になるらしい。
中学受験・受検よりは易しいSPIではあるが…
じつは筆者、今年度から某校で就職試験対策講座を担当することになった。もう少し限定すると、SPIの非言語領域である。
新型コロナの影響で、今年度の授業開始は6月に入ってからになったのであるが、授業で使用するテキストを受け取り、さっそく目を通したところ…学習範囲はざっと、「割合と比(損益、割引、代金精算、分割払い)」「場合の数・確率」「速さと比」「表・資料・長文の読み取り」「推論(パターンは多岐に亘る)」「集合」「図形・グラフ」…といった具合である。
中・高受験との対応で捉えると、SPIの種別(H、U、G)によって多少の差はあるが、おおむね小5~中2の学習範囲に論理思考(と中3数学と数ⅠAのごく一部)をプラスしたような内容であり、難易度的には中学受験・受検よりもかなり易しい。中学受験・受検間近の6年生で、大手塾の中位クラスの上位にいる生徒であれば、8割前後正解できても不思議ではない。当然、都立高校の共通問題(数学)よりも(出題範囲と質は異なるが)易しい(一般的に、高校受験の数学よりも中学受験・受検の算数のほうが、大人には難しい)。
ただし、SPIは問題数の割に試験時間が短く、正確さとスピードが同時に要求される(処理能力を試される試験ということになる)。例えば、ペーパーテストの非言語では、選択形式ではあるものの、30問/40分である。
しかし、である。中学受験の経験がなく、中学生のあいだに数学が苦手になってしまい、大学・短大・専門学校受験時に数学を必要としなかった学生にとっては、出題範囲が広めで正確さもスピードも必要となると、厳しい戦いになるであろうことは容易に想像できる。
中学受験・受検は就活時の一次選考に直結する
大学に入るまで算数(数学)を避け続けられたとしても、世間(大人の世界)はやはり甘くない。人生前半の「ホップ(中・高受験)⇒ステップ(大学進学)⇒ジャンプ(就職)」のジャンプのところに、最初のハードル として算数(数学)が待ち受けているということだ。
何のために中学受験・受検をするのか? いまひとつその気になれない小・中学生に聞かれたことがある大人は少なくないだろう。さすがに、自ら進んで塾に通ってくる子だと滅多にはないが、筆者も家庭教師先の生徒や知人の子どもに尋ねられたことはある。
ビジネス書としても有名な『7つの習慣』(まんが版も刊行されていて、高校受験前の生徒に薦めたこともある)に“先にゴールを決めよ”という箴言がある。本稿で言う「ゴール」とは、中・高校入試(ホップ)や大学入試(ステップ)での成功ではなく、仕事に就くことであり社会人になることである。
修了後に就きたい職業が朧気ながらでも描けていて、学力が中くらいの生徒であれば、算数・数学を学ぶ重要性の一つとしてSPIを引き合いにしてもよいかもしれない。「その仕事に就きたいのであれば、このレベルのテスト(SPI)で9割はとれるようにならないとね」と。ただし、学力の高い生徒だと、「なんだ、楽勝じゃん」「なんや、楽勝やん」と嘗めてかかられてしまって、逆効果になる懸念はある。
我が子とは、もっと“ゴール”の話をしよう
入試はあくまでも通過点である。その点を見失ってしまっている親はけっして少なくない。我が子が、たとえ有名大学に入れたとしても、就職・就業がうまくいかず引きこもってしまったりすれば、子育ては「終わりよければ全てよし」の真逆で幕を閉じることになってしまう。
家庭内で子どもと話をするときは、勉強や成績、目前の受験の話ばかりするのではなく、我が子の人生前半の“ゴール”について、一緒に想像を膨らませてみてはどうだろうか。
親と遠くの目標を共有できた受験生は、もう一段、強くなれる。
【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら