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《2017年11月掲載》フランスのルノーが4代目となる新型メガーヌを日本市場に投入した。今回試乗した「メガーヌGT」(以下GT)というグレードは、同社のスポーツ部門ルノー・スポールがコーナリング性能の向上を目指して開発した四輪操舵システム「4コントロール」と専用シャシーを組み合わせ、欧州の過酷なワインディングを走り込んで鍛えた高性能ハッチバック。木々が色づき始めた箱根の屈曲路でドライブフィールをチェックしてきた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
進化したトランスミッション
メガーヌが約9年ぶりにフルモデルチェンジした。今回発売されたのはハッチバック2車種(GTと格下のGTライン)と、全長とホイールベースを伸ばしたスポーツワゴンタイプ(スポーツ・ツアラーGT)の計3モデル。筆者が試乗したGTは、来年の投入が予定されている(※現在発売済み)最高峰モデルのホットハッチ「メガーヌR.S.」に次ぐ走行性能を有するハイパフォーマンスモデルという位置づけとなる。
初めにGTの主要諸元を紹介しておこう。サイズは全長4395×全幅1815×全高1435mm。VW・ゴルフやプジョー・308といったライバルよりもさらにロー&ワイドなボディが、一段とスポーティーな雰囲気を醸し出す。ホイールベースは2670mm、トレッドはワイドな1575mmで、車重は1430kg。パワートレインは1.6L直4ガソリンターボエンジンに7速EDC(AT)を組み合わせており、205馬力/6000rpm、280Nm/2400rpmを絞り出す。駆動方式は前輪駆動(FF)で、225/40R18のタイヤを履いている。
まずは走行モードを「ニュートラル」(いわゆるノーマル)に設定して芦ノ湖周辺を目指した。走り出しは筆者の勝手な予測に反して非常にスムーズで、ブレーキやハンドルにこれといった癖もない。実は以前、先代メガーヌを試乗したときに、発進時や停車時にEDCがギクシャクする感じや、ドライバーの感覚といまいちシンクロしないブレーキの扱いづらさ(踏み始めは緩く、中ほどからぐっと強くなる)が目についたこともあり、今回のGTに対してやや訝しげな気持ちで乗り込んだのだが、低中速の走行で試す限り快適性はしっかりと改善されているようだ。とくに新開発の7速EDCは変速ショックを潤滑油で逃がす湿式を採用したことで、滑らかさを欠く従来の乾式から走行フィールが大きく進化していると感じた。
足回りは一般的なフランス車と比較して硬めであるものの、巧みに足を動かして路面の凹凸やざらつきをいなすため、気になる不快感はまったくない。走行モードには快適性を優先させた「コンフォート」も選択肢としてあるのだが、とくに燃費を気にしない限り、「これならコンフォートはいらない」と思えるほどニュートラルの上品な走り心地が気持ちよかった。
想像の上をいく走行パフォーマンス
GTの最大の持ち味は走行パフォーマンスの高さだ。走行モードを「スポーツ」に切り替えてアクセルを踏むと、刺激的なエンジン音が車内を包み、アクセルレスポンスが一気に鋭くなる。少し踏むだけでも「ブオン、ブオン」と軽快な音を刻みながら、「早く行かせろ!」と言わんばかりに前のめりな姿勢を見せる。起伏の激しいアップダウンからワインディングまで、どんな路面状況でも余裕のあるパワーと幅広いトルクを生かして自由自在に突き進む。大径ディスクを纏ったブレーキの制動力も抜群。ドライバーの要求にしっかりと呼応する一体感のある走りは実に軽やかで、走る・曲がる・止まるが純粋に楽しい。
コーナーの途中で加速しても、軽くハンドルを切るだけで狙ったラインをしっかりとトレースしていく。旋回中はボディ剛性の高さも相まって、ロールの影響を受けることなくピタリと安定。この抜群のコーナリング性能と即応性の高い操舵感に貢献していると思われるのが、先述の「4コントロール」だ。これはハンドルを切ったときにフロントとリヤのタイヤの向きを同時に変えることで、コーナリング性能と快適性を高めるという四輪操舵システム。タイヤの向きを決めるタイロッドを電子制御のアクチュエーターで動かして、後輪を操舵する構造だ。時速60km/h未満(スポーツモードでは80km/h未満)でハンドルを切ると、前輪と後輪は逆方向に可動。それ以上のスピードでは、前後の車輪は同一方向に動く仕組みで、リヤタイヤの最大切れ角は2.7°だという。
例えば、低中速走行時にハンドルを左へ切ると、後輪は逆位相(右方向)に向けられる。これによってリヤをアウト側へ流し、車体の頭を“強制的”にイン側に切り込ませることでコーナリングやUターン時の取り回しをサポートする。これはいわゆるオーバーステアの状態なのだが、高速走行時は挙動が不安定になりやすいというデメリットもある。そのため、時速60km/h以上では四輪を同位相に動かすことでコーナリング時の安定性を高め、ワインディングでより安全なスポーツドライブを楽しめるのだという。
日産製の共有プラットフォーム
実際にワインディングを突き進むと、高い接地感を保ちながら這うようにカーブをなぞっていく。「確かに4コントロールが貢献している」と断言できるほど、システムの介入度合いを数字などで確認できるわけではないのだが、箱根の屈曲路をキビキビと駆け抜ける俊敏な走行感と挙動の安定性がもたらす快適な走りを目の当たりにすると、GTのポテンシャルを引き上げているのはまさに「4コントロール」なのだろうなと納得がいくのだ。実は走行性能の要であるシャシーもGT専用。日産がルノーのリクエストを受けて「4コントロール」を搭載できるシャシーを開発。それをルノー・スポールがチューニングした共用プラットフォームだという。
ダイナミックに生まれ変わったデザイン
先代より精悍な顔つきに生まれ変わった新型メガーヌは、どのライバルと並べても引けを取らない美しさと力強さを手に入れた。ヘッドランプにはルノーのアイデンティティである「Cシェイプ」のLEDデイライトを採用。リヤビューは横長の3Dテールランプが特徴的。LEDの帯は段差を付けた立体的なデザインとなっており、45mmの奥行きを持たせることで“浮遊感”を演出している。サスペンション周りを見直してダンパーを寝かせて取り付けるなど、全体的に低く構えたシルエットはスポーツカーのようだ。
日本人の手によるインテリア
日本人デザイナーが手掛けたインテリアは上質さとスポーティーさを巧みに調和させている。面を立てたダッシュボードや短いギアシフトレバー、高さのあるセンターコンソールはワンランク上の雰囲気を纏っている。スエードのような優しい手触りのアルカンターラ縫製スポーツシートは体が滑りづらく、ホールド性もばっちり。ステアリングコラムに固定された長いパドルシフトは、ハンドルを大きく切っている最中でも指に掛かりやすく、MTモード時でも素早い変速が可能だ。センタークラスターにはタッチパネル式の横置き7インチモニターを埋め込んでいるが、インパネは全体的にスカスカな印象。実はこれ、本国フランスでは8.7インチのタテ型ディスプレイをインパネ全体に組み込んでいるのだが、日本では諸々の事情があってタテ型モニターもナビゲーションシステムも採用されなかったのだという。幸いにもスマートフォンをつなげばアップルの「カープレイ」やグーグルの「アンドロイド・オート」からナビを使用できるのだが、使用場所の電波状況や、そもそも「スマホを持っていない」といったユーザーにとっては多大な不便を感じてしまうだろう。
コスパの高さも魅力的
さて、新型GTのもう一つの魅力はコストパフォーマンスの高さだろう。エンジン出力などの基本性能を考慮すると334万円(※2020年現在は346万円~)のGTにはお買い得感がある。ハイパフォーマンスの走行性能はもちろん、5ドアの使い勝手や走行中の快適性など、日常での扱いやすさも兼ね備えている。唯一気になったのは、ドイツ勢や日本車がこの価格帯で当たり前に装備するアダプティブ・クルーズコントロール(ACC=前走車自動追従装置)がGTにはない、ということ。せっかくミリ波レーダーを使った「車間距離警報」を搭載しているのに、なぜそれを活用しないのか-。これはもしかするとお国柄の違いの表れで、「走りを楽しむのにACCなんぞ必要ない」「自分がいらない装備は極力省く」といった考え方が働いているのかもしれない。実際、同じフランスのプジョーやイタリアのアルファロメオもこのクラスではACCは未搭載だ。
R.S.が買えなくてもGTで十分!?
ちなみに前出の最高峰モデル「メガーヌR.S.」は、スポーツカー開発の“聖地”ドイツ・ニュルブルクリンク北コースにおいて、絶対的ライバルのゴルフGTIやホンダ・シビックTYPE Rと常に量産FF車の最速の座を競っている。今回の試乗に同乗した小島記者から「メガーヌGTはゴルフのハイラインでは物足りないユーザーに需要がありそう。というか、これならR.S.いらないじゃん」といった意見もあった(←もちろん半分冗談だとは思いますけどね)。筆者もGTに乗ってみて「やっぱり運転って、スポーツなんだな」と改めて実感した。確かに450万円以上のスパルタンなR.S.に手が届かなくても、「スポーティーで快適性もあるGTで十分じゃん」なんて思えてしまうほど最高に楽しくて魅力に溢れるスポーツハッチだった。今回は撮影に時間を割かれたので、できれば「もう一度借り出してじっくりと乗ってみたい!」なんて後ろ髪を引かれる思いでGTのエンジンを切った。
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