だれでも、何度でもPCR検査を 「世田谷モデル」に賛否のワケ
新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査の在り方が再び論争となっている。きっかけは東京都世田谷区が打ち出した「いつでも、だれでも、何度でも」検査できるようにする取り組みだ。ただ、検査をやみくもに拡大することに慎重な姿勢を示す感染症の専門家は少なくない。無症状の人に対しどこまで検査を拡大させるのかが問われている。
世田谷区の保坂展人区長は、区内の検査能力1日約360件から一桁増やし2千~3千件まで強化したい考えだ。検査の処理能力を高めるため、複数人の検体をまとめて検査し、陽性反応が出たら個別に検体を調べる「プール方式」を採用し、検査の効率化を図る。医療や介護、保育関係者などの社会生活に不可欠な「エッセンシャルワーカー」に対しては定期的に検査するという。
この「世田谷モデル」を発案したのは、東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授。欧米諸国に比べ日本の検査能力が著しく低いことを受け、保坂氏は「一桁増やそうという踏ん切りが必要。『Go To PCR』だ」と語る。
ただ問題点は少なくない。政府の新型コロナ対策分科会(尾身茂会長)は7月に検査体制に関する基本的な考えをまとめている。
(1)有症状者(2)感染リスクが高い無症状者(3)感染リスクが低い無症状者-の3類型に分類。(1)と(2)には積極的に検査を行うことを求めた。感染リスクが高い人は、「夜の街」に関係する人や感染者が出た医療機関の従事者らが考えられる。
(3)は「広く一般に推奨されるわけではない」とした上で「社会経済活動の観点から個別の事情などに応じて検査を行うことはあり得る」とした。スポーツ選手らを想定している。
(3)について推奨していないのは理由がある。PCR検査の精度は70%程度とされる。感染していないのに陽性と判定される「偽陽性者」が一定程度出るのは避けられない。この偽陽性者が真の陽性者とともに隔離されれば、不必要な感染を招く可能性がある。逆に感染しているのに陰性反応が出た「偽陰性者」が、無自覚に感染を広げるリスクもある。陰性と判定されても、将来の陰性を保障するものではない。
国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は無症状者への検査について「会社の指示で検査を社員にさせて陽性になって休んだ場合、休業補償が課題になる。検査の結果は機微な情報だから、個人の自由意思で行うもので、拒否できなければならない。個人情報の在り方の問題も出てくる。こうした新たに生じる問題を議論せずにただ検査を拡大するのは混乱を招く」とみている。
(坂井広志)