乗るログ

1.5Lの兄貴分 スズキ・ジムニーシエラ、不変の設計理念に見る進化

SankeiBiz編集部

 ※現在、新型コロナウイルスの影響で【乗るログ】の取材を自粛しています。再開するまで当面の間、過去に注目を集めたアーカイブ記事を厳選して再掲載します。記事の内容は基本的に掲載当時の情報となります。

新型のジムニーシエラ。アウトドアで様になるのはもちろん、銀座や丸の内のオフィス街でもたくさんの視線を集めた
山中湖の湖畔に佇むジムニーシエラ。スクエアデザインが特徴の一つ
山中湖を目指すジムニーシエラ
水平基調のデザインにはちゃんと意味がある
バックドアは左右に開閉する
タフな状況下での操作性をとことん追求したインテリア。大きな操作ボタンや水平基調のデザインには本格オフローダーとしてしっかりと「意味」が込められている
試乗車は4速AT車だった。シフターのそばには副変速機を操作するトランスファーレバーがある
後席は正直窮屈。3ドアのため乗り降りも不便だが、狭い道を走るための割り切りも必要だ
ほぼ垂直に切り立ったウインドシールド
スペアタイヤを積んだミラー越しの後方視界(停車中に撮影)
後席を畳んで釣竿を置いたり、作業場として使うこともできる。背面を樹脂化しており、汚れを簡単にふき取ることができる
シエラと一緒ならアウトドアも一層楽しくなる
後席を立てた状態だと荷物を積み込むスペースは非常に限られている
バックドアは横開き。開口部はスクエアに切り取られている
スズキのジムニーシエラ
余裕の対地クリアランスを誇る
大きめのスイッチやボタンは手袋をはめていても操作がしやすい設計
濃霧に包まれた帰り路の三国峠(実際の視界は写真よりも悪かった)。この辺りでは日常茶飯事だ
軽のジムニー(手前)と今回試乗したシエラ(奥)

 《2019年9月掲載》今回は昨年7月に全面改良したスズキの軽自動車「ジムニー」に新開発の1.5Lエンジンを搭載した「ジムニーシエラ」を紹介する。半世紀にわたり独自のコンセプトを貫き、世界中で愛され続けるジムニーシリーズの“後から生まれた兄貴分”は、第4世代に移行してどのような進化を遂げているのだろうか。東京-山中湖を往復する約300kmのドライブを通してその魅力に迫る。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)

 室内寸法はジムニーと一緒

 いきなりではあるが、試乗の前に一つだけあきらめたことがある。「魅力に迫る」と記しておきながら恐縮なのだが、過酷な自然環境を再現したテストコースを走るならまだしも、今回のような日常シーンにおける試乗だけではジムニーのフルポテンシャルを引き出すことは無理だ。その点は割り切ったうえでステアリングを握った。

 実に20年ぶりのフルモデルチェンジだ。1970年に初代モデルが誕生してから48年が経過し、今回が4世代目となる。これはとてつもなく長いモデルサイクルだ。これまでにアジア・ヨーロッパを中心に190以上の国・地域で285万台を販売してきたスズキを代表するモデルであり、実力派コンパクト4WDとして世界中の建設現場や牧場、雪山や森林といったフィールドにおける活躍はもちろん、消防車両や砂漠仕様といった海外専用モデルも作ってきた。このジムニーをベースに開発されたのが、登録車バージョンのシエラだ。

 シエラ自体は1977年に発売された「ジムニー8」をルーツに持つ。実際に「シエラ」の名前が誕生したのは1993年。シエラネバダなどの地名からも分かるように、スペイン語で「山脈」を意味する。

 先述の通り軽のジムニーがベース車であり、車両寸法はそれほど大きくは変わらない。ボディーサイズを比較すると、ジムニーの《全長3395×全幅1475×全高1725mm》に対してシエラは《同3550×1645×1730mm》。外寸についてはオーバーフェンダーとサイドアンダーガーニッシュを装着し、ややワイドトレッドで最低地上高もジムニーより5mmほど高い210mmを誇るシエラの方が若干大きいが、室内寸法は《長さ1795×幅1300×高さ1200mm》で全く同じだ。

 ジムニーはデビュー当初から本格4WDを目指し、極悪路での走破性を高めるために「コンパクトボディー」「ラダーフレーム」「前後リジッドアクスル式サスペンション」「FRレイアウトと副変速機付きパートタイム4WD」という基本構造に一貫してこだわってきた。このDNAは第4世代に生まれ変わっても継承しており、もちろんシエラにも引き継がれている。

 高い走破性を実現するための基本構造

 ラダーフレームとは長いはしご状のフレームを基本骨格とし、その上にボディーを乗せる構造だ。ボディーとシャシーが一体化した主流のモノコック構造よりも車台だけ見れば一般的に頑丈とされ、フレームさえ無事であれば足回りに余程のダメージがない限り走行できる。悪路走行を最重視する本格オフローダーにとって圧倒的に有利な構造であり、トヨタ・ランドクルーザーやメルセデス・ベンツGクラス、ジープといった“猛者”も採用している。

 左右の車輪を1本の軸で真一文字につなぐリジッドアクスル式サスペンションは、一般的な独立懸架式サスペンションよりも乗り心地で劣るものの、凹凸路において抜群の接地性を発揮する。また、地面に対するクリアランスも確保できるため(左右独立タイプではシャシーが沈んでしまう)、腹が地面に乗り上げてカメのように動けなくなるということもなくなる。

 駆動システムは初代から一貫してパートタイム4WDを採用しており、副変速機を用いて「2H(2WD)」「4H(4WD高速)」「4L(4WD低速)」の3モードを走行シーンに応じて任意に切り替えることができる。ちなみに余程の悪路を走らない限り、メーカー側は2WDでの走行を推奨している。ドライでの通常走行時に4WDを使用すると駆動装置を損傷する恐れがあるためだ。それぞれのモードの特徴は以下の通りである。

■2H(2WD)=舗装路・高速道路など通常の走行に使用

■4H(4WD高速)=雪道・荒地など2輪駆動での走行が困難な場合に使用

■4L(4WD低速)=ぬかるんだ道や急登坂・急こう配など大きな駆動力を必要とする場合や、スタックからの脱出時などに使用

 筆者は過去に傾斜を伴う泥状のスタックから抜け出せずレッカーのお世話になった経験があるだけに、副変速機を備えているだけで心強い。また、後輪を駆動するFRレイアウトは、縦置きエンジンを前輪より後方に配置することで鼻先を短くし、凹凸を乗り越える時に有効な41°の対障害角度(アプローチアングル)を確保している。すべての機能が実践的で、どんなに険しい道も突き進むことのできる走破性を極めるための装備なのだ。

 シーンを問わず運転しやすい小型ボディーは、多方面から「とにかくコンパクトさを維持してほしい」といった要望が多いという。スズキは国内外のハンターや森林組合などのジムニーユーザーに調査をしており、「例えばイタリアの山岳地帯では狭くて急な坂道が多く、冬季の路面コンディションに対してジムニーのコンパクトさと本格4WD性能が求められていることが分かりました」(スズキ広報部)といった現場の貴重な意見をしっかりと車両開発に生かしてきたのだ。

 もちろんこれら設計思想はただ継承しているだけでなく、しっかりと進化している。ラダーフレームは先代よりもねじり剛性を1.5倍ほど強化しており、上下方向に柔らかくすることで乗り心地を改善し、水平方向に硬くすることで操縦安定性も向上しているという。左右輪の片方が空転したときは、空転した車輪のみブレーキを作動させ、エンジントルクを落とさずにもう一方の車輪の駆動力を確保して脱出を可能にする「ブレーキLSDトラクションコントロール」を装備。急な下り坂でブレーキを自動制御する「ヒルディセント」や坂道発進時に車両の後退を防ぐ「ヒルホールド」といったシステムも備えている。筆者が試乗した上級グレードの「JC」はクルーズコントロールも搭載しており、長距離ドライブの時に重宝しそうだ。

 いよいよシエラに試乗

 シエラの構造的特徴を踏まえた上でいざ試乗した。ドアの開口部は大きく切り取られており、車高の高さの割には乗り込みやすい。アイポイントが高く、見切りの良いボンネットと平面を組み合わせたスクエアボディーは車両感覚がつかみやすい。

 まず街中を流してみたが、ステアリングフィールや足回りは全体的にまろやかな印象。車高やリジッドサスの影響もあって、ときにポンポンと上下に揺すられる感覚があるが、高速道路に合流してみると、車速の上昇とともに不思議と挙動は落ち着いてくる。102PS/130Nm の1.5L直4自然吸気エンジンともなれば加速に大きな不満はなく、軽で高速道路を走るときよりもプラスアルファの余裕を享受できる。直進安定性や車線変更のときにも不安を感じることはなかった。

 山中湖周辺の明神峠や三国峠のカーブでは、たびたびロールが発生したが、このクルマのキャラクターを考えれば想定内だ。登坂中などさらに加速を要求すれば、4速ATが瞬時にギアを落としてエンジン回転数を上げてくれる。同じ道を圧倒的なパワーで駆け抜けた日産GT-Rと比較すれば特にパワフルというわけではないし、正直しんどそうなときもあったが、世界中の悪路を踏破することを念頭に開発されているシエラにGT-Rと同じ感覚を求めるつもりもない。特徴の異なるクルマで異なる走り味を体験したというだけだ。

 山中湖ではシエラを砂浜に降ろし、4H(4WD高速)走行も試してみた。この程度の路面であれば2輪駆動で十分だが、グリップ感の違いはすぐに感じ取ることができる。特にゆるやかな傾斜や旋回時など、四駆にすると前輪が滑る感覚がピタリと止むのだ。合間に少しだけ趣味のバス釣りを楽しんだが、筆者のようにレジャーで砂浜や河原、山道に頻繁に行くような一部ユーザーにとって、4WDというチョイスは大前提となってくる。レジャーの範囲内でも4WDを必要とするシーンはそれなりにあるのだ。

 機能性満載のデザイン

 新型ジムニーとシエラのデザインについて否定的な意見は聞いたことがない。個人的には端正で個性的なデザインに突き抜けたカッコよさを感じている。筆者はフェンダー付きのシエラの方が好みだ。もちろんデザインにも実用性や機能性が盛り込まれている。

 直線基調のスクエアボディーは車両の姿勢や状況を把握しやすい。Aピラーを立てたフロントガラスも横方向の視界確保に貢献しており、四方のガラス面を立てることで雪が留まらないようにしている。

 室内も水平基調で傾きを把握しやすくした。助手席のグローブボックスの上にはグリップを配置しており、乗り降りのしやすさをサポートしている。センタークラスターにはパワーウインドーやヒルディセントのスイッチを配置。手袋をしたままでも操作しやすいよう大型のスイッチを採用している。

 左右独立のリヤシートを倒せば352Lの荷室スペースが現れる。横方向に開くバックドアにより76mmという開口地上高の低さを実現しており、スクエア型の荷室内は四隅まで無駄なくスペースを使うことができる。

 この手のクルマはぜひユーザーの個性と用途に合わせてカスタマイズしたいところだ。アクセサリーカタログを眺めているだけでもワクワクする。筆者なら釣竿3本を取り付けることのできるロッドホルダーやキャンプ用のカータープ、車中泊に使えるベッドクッションなどが購入候補となるだろう。山道や峠道を走るときは荷物が前後左右に滑りやすいため、固定用のベルトやネットも重宝する。

 取材日となった9月3日の夜は、伊勢原や横浜町田IC周辺でゲリラ豪雨に見舞われた。横を走る大型バスやトラックから波のようなスプラッシュを何度も浴び、水たまりにハンドルを取られて直進するのも難儀した。伊勢原では霧が垂れ込めてテールランプしか見えない状態となり、激しい雨の中では車線を確認するのも困難なほど視界は最悪だったが、そんな中でもシエラが搭載するセーフティー装備により、車線逸脱やふらつき警報機能で運転をサポートしてくれた。高速出口では壁に激突したばかりの事故車に遭遇したが、そんな危険なコンディションの中でも先進安全装備のおかげで無事に戻ってくることができた。

 実力を探るという意味では最低限の試乗ではあったが、約300kmの行程で走行性能のみならず、安全技術の面でも大きく進化した新型シエラの魅力を悪天候の中でしっかりと体験することができた。

《ヒトコト言わせて!》

 スズキ広報部「ジムニーシエラは1977年に発売された0.8Lのジムニー8を原点とする、小型四輪駆動車です。フルモデルチェンジにあたり、新開発1.5Lエンジンを採用し動力性能を高めるとともに、伝統のラダーフレームを進化させることで、悪路走破性も高めました。幅広いお客様がレジャーを楽しみ、ライフスタイルを表現いただけるデザインと装備を採用した、末永くお使いいただけるモデルです」

【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら

主なスペック(ジムニーシエラJC)

全長×全幅×全高:3550×1645×1730mm

ホイールベース:2250mm

車両重量:1090kg

エンジン:水冷4サイクル直列4気筒

総排気量:1.5L

最高出力:75kW(102PS)/6000rpm

最大トルク:130Nm(13.3kgm)/4000rpm

トランスミッション:4速AT

駆動方式:パートタイム4WD

タイヤサイズ:195/80R15

定員:4名

燃料タンク容量:40L

燃料消費率(WLTCモード):13.6km/L

ステアリング:右

ボディーカラー:ジャングルグリーン

車両本体価格:201万9600円(税込)