伝統と融合、アートで活性 佐久島(愛知県西尾市)
アートの島といえば、平成22年に始まった瀬戸内海の直島(なおしま)諸島を中心とする瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)の舞台となる島々が有名だ。国内外のアーティストを島に招聘(しょうへい)し、作品を島中に点在させ、地域活性化の一助となって大勢の観光客が瀬戸芸の島をめぐるようになった。
一方で、瀬戸芸よりも前からアートで島おこしに一念発起した島がある。愛知県の三河湾に浮かぶクロワッサン形の佐久(さく)島だ。
かつて海運業で繁栄した島だが、過疎化・高齢化で人口は約250人(平成27年時点)。20年前まで、海水浴の夏と潮干狩りの早春以外はほとんど観光客が来ず、寂れつつあった。
平成13年。当時、島の行政区域だった一色(いっしき)町が主催して、役場と島、アートプロジェクトを企画する会社が協業して立ち上がり、小さな予算規模で「三河・佐久島アートプラン21」プロジェクトをスタートさせた。
しかし、アートで島おこしをするという考えは、当初なかなか島民の支持を得られなかった。そこで、もともと伝統行事の多い島にとって、継承していきたい大切な祭りをアートイベントと同時開催するなどしたところ、アーティストと島民の心は一つになっていったという。
戦前まで、島内には弘法大師を祀(まつ)った祠(ほこら)が八十八カ所あり、島外から巡礼者も多く来ていたそうだ。一度荒れ果て、放置された座像や祠は、アーティストたちが再制作して、現在八十八カ所めぐりも復活を遂げている。
長い歳月をかけて、少しずつ作品を増やしてきた中で、「アートが島をひっぱり、島がアートをひっぱる」という素敵な互助関係が築かれている。
かつては一軒もなかったレンタル自転車やカフェもでき、昨年には動物写真家の岩合光昭(いわごう・みつあき)氏が初監督をつとめた映画「ねことじいちゃん」のロケ地となった。今では多くの観光客が足を運ぶ。
私も、自転車で島中に点在する数々のアート作品をめぐった。その道すがら、コールタールを塗った伝統的な黒壁の日本家屋や小さな漁船が停泊する情緒的な港など、素朴な島の風情をたっぷり味わった。
小さな島が起こした奇跡は、島と日本の豊かな未来を守る術(すべ)や大きな気づきを教えてくれる。
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【アクセス】
愛知県西尾市の一色港から市営高速船で約25分
【プロフィル】
小林希(こばやし・のぞみ)
昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後に帰国して、『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆およびフォトグラファーとして活動している。これまで世界60カ国、日本の離島は100島をめぐった。令和元年、日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。新著は『今こそもっと自由に、気軽に行きたい! 海外テーマ旅』(幻冬舎)。