国と自治体の接触確認アプリ伸び悩み 疑い判明しても必ずしも検査うけられず
国や自治体が導入している新型コロナウイルスの感染者情報をスマートフォンなどに通知するサービスの登録者が、想定より伸び悩んでいる。国のアプリは感染者と濃厚接触した可能性のある「人」、自治体のシステムは感染者が立ち寄った「場所」に着目し、感染拡大防止につなげる仕組み。関係者は「両方を併用することで、より効果が高まる」として、普及促進を呼びかけている。(原川真太郎)
検査受けられず
国が運用しているのは、スマホの近接通信機能「ブルートゥース」を利用した「COCOA(ココア)」と呼ばれる接触確認アプリだ。
アプリ利用者がウイルス検査で陽性となった場合、自分のスマホに保健所が発行した番号を登録すると、過去2週間以内にこの人の1メートル以内に15分以上近づいたことがある別の利用者のスマホに、濃厚接触の可能性を示す記録が通知される。個人情報保護のため、相手の名前や場所はわからない仕組みになっている。
政府は、国民の6割がアプリを使用することを目指すが、厚生労働省によると6月19日の運用開始以来、ダウンロード数は8月26日現在で約1500万件と、目標には遠く及ばない。アプリ利用者が陽性となった「陽性登録件数」も428件で、極めて少ない。
大きな要因として、仮にアプリで濃厚接触の疑いがあると判明しても、必ずしも検査を受けられるわけではなかったことが挙げられる。
国は当初、アプリ利用者が通知を受けて保健所や自治体の相談窓口に連絡した場合は「医師や保健所が必要と判断すれば検査が受けられる」としていた。
だが実際には、症状がない場合などは「そのまま様子を見てほしい」などとして、検査が受けられないケースが続出。利用者からは不満の声が上がっていた。
このため国は「検査を受けられる道筋を見せることが登録者増加につながる」(加藤勝信厚生労働相)と、通知を受けた人が希望すれば公費でPCR検査を受けられることにし、全国の自治体に通知した。
何度も読み込み手間
一方、都道府県や一部の市では、飲食店や公共施設などで感染者が発生した際、その場に居合わせたため感染が疑われる人々を追跡するシステムを導入する動きが進んでいる。
主に活用されているのはQRコードだ。店舗やイベント会場に掲示された自治体発行のQRコードをスマホで読み取り、メールアドレスや無料通信アプリ「LINE(ライン)」のアカウント情報を登録。同様にQRコードを読み取った人の感染が判明した場合、同日・同時間帯にその施設にいた人に一斉通知される。
ココアが「人」との接触を把握するのに対し、こちらは「場所」を起点に感染の疑いがある人をあぶり出そうという試み。現在、20近い都道府県でこうしたシステムが導入されている。
ただ、会場や店に入るごとにQRコードを読み取らねばならず手間がかかることや、PR不足もあり、多くの自治体では目標とする登録者に達していないとみられる。
6月下旬に施設利用者へ感染者との接触をメールで通知する「いばらきアマビエちゃん」を導入した茨城県では、登録は8月27日時点で2万1191事業所。目標としている2万5000~2万7000事業所に近づいているが、「『密』になりやすい居酒屋などに関していえば、想定の半分程度」(担当者)。県では、対象とする事業所にシステムへの登録を義務づけ、従わない場合は名称を公表するなどの内容を盛り込んだ条例案を9月県議会に提出する予定だ。
利用者を増やすために知恵を絞る自治体もある。「大阪コロナ追跡システム」を運用する大阪府では、登録ごとに「大阪マイル」というポイントがたまり、期間中に10マイルがたまると吉本興業の観劇チケットなどの抽選券になるサービスを開始している。
国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は「国のアプリも自治体の追跡システムも、合わせて使うことで感染防止に期待が持てるのは事実だが、現状では登録するインセンティブ(動機付け)に乏しい。コロナとの戦いはまだまだ続くので、国や自治体が事業者と対話しつつシステムをより効果的なものに構築していくとともに、登録者を増やす努力が必要だ」と話している。