Go Forward 負けずに、前へ

ウィズ・コロナの安心・安全新旅スタイル 近場、貸し切り、ワーケーション

 新型コロナウイルスにより観光業界は深刻なダメージを受けている。活況を呈していたインバウンド需要は消滅。国内旅行も政府の「Go To トラベル」キャンペーンが始動したものの、感染の急拡大で自粛ムードが続く。そんな中でも、観光業界は感染防止を図りながら安心・安全に旅行を楽しんでもらうにはどうすればいいのか、懸命に模索している。旅先でリモートワークをする「ワーケーション」や仮想現実(VR)によるバーチャルな旅行体験など新しい楽しみ方も注目されている。コロナ時代の“旅のニューノーマル(新常態)”を探る。

 エアビーアンドビー社推奨

 「利用者の約8割を占めていたインバウンド需要がほぼ消滅してしまったのでインパクトは大きい。ただ、6月以降、国内の利用者が大幅に増えている。特に80キロ県内の近場、長期滞在、別荘やコテージなどを一棟貸し切るといったスタイルが人気だ」

 “ウィズ コロナ”の旅行のトレンドについて、こう語るのは、米国の民泊仲介事業大手、Airbnb(エアビーアンドビー)の日本法人代表、田邉泰之氏だ。

 同社の集計によると、6月第2週の国内利用者の予約数は前年同期比78%増、80キロ圏内と長期滞在がいずれも同約1・6倍、一棟貸し切りが同80%増と大幅に伸びている。

 こうしたニーズに応えようと、6月末から実施しているのが、「Go Near- 身近にある、特別な旅」キャンペーンだ。トレンドに合致した施設を拡充しホームページやメールなどで推奨している。

 「近場や地元への旅でも、そこに溶け込み、暮らすような旅をすることで、今まで知らなかった暮らしや文化、歴史があるんだという新しい発見ができる。日本の魅力を再発見してほしい」

 コロナ感染防止策では、清掃や除菌に関する専門的な知見を盛り込んだハンドブックを作成。ガイドラインにのっとって清掃を行っている施設がわかるよう、ホームページでマークを表示している。

 「安心・安全は必須の条件。コロナ後も非常に重要な要素になっていく」

 「人とつながりたい」求めて

 同社では「ワーケーション」への対応にも力を入れている。長期滞在しリモートワークをする利用者は着実に増えているという。

 「約130社のパートナー企業にヒアリングを行い、どのようなニーズがあるかを調べている。生産性を維持しながらリモートワークができる環境を提供していきたい」

 こうした新しい旅の体験は、観光業界の長年の課題である閑散期の需要喚起にもつながる。

 「こんなに面白いんだと気づけば、リピーターになってもらえる。年に2回お金をかけて旅行をするのではなく、週末にちょこっと行ってみようと頻度も高まる。ワーケーションに力を入れているのも、そうした狙いからだ。いろいろな旅のスタイルをミックスすることで、閑散期の需要の喚起につなげたい」

 “ポスト コロナ時代”の旅のスタイルはどう変わっていくのだろうか。

 「どこまで元に戻るかはわからない。それでも変わらないのは、人と交流したい、人とつながりたいということ。どこに行っても心地良い居場所があり、人とつながることができる旅を応援していきたい。コロナを経験したことで、そうした旅を求める人が増えていくと考えている」

「感染防止策徹底が回復への近道」 箱根DMO(箱根町観光協会)佐藤守専務理事に聞く

 箱根は個人のお客さんが多く、東京、神奈川、千葉、埼玉からが7割近くを占める。5月は前年の10分の1に落ち込んだが、6月は70%まで、全国的に感染が拡大した8月も70%の水準を維持しており、回復は底堅い。

 早い段階で地域の皆さんと感染防止のため何をすべきかを話し合った。ソーシャルディスタンス、消毒、換気といった当たり前のことを宿泊、飲食、美術館など業種ごとに規模に応じて、それぞれ最も効果的な対策を決め、徹底して実行し、そのことをしっかりと情報発信している。地域全体で安心、安全を確保していくことが回復の一番の早道だと考えている。

 箱根の一番の強みは、近場で「非日常」を味わえること。火山でそこかしこに温泉がわき、春夏秋冬に花が咲き、本物の美術館がたくさんある。そして良質なサービスを提供する宿泊施設がある。箱根はリピート率が7割を超えており、回復が早いのもリピーターが多いから。これまでの各事業者の努力のたまものに他ならない。

 コロナの以前から、混雑を緩和するため、繁忙期と閑散期、時間帯ごとの需要の平準化に取り組んできた。それが満足度を高めると同時に、「密」を回避する感染防止につながる。

 「ワーケーション」についても、すでに約10施設がプランを設けている。有事の中で、観光業としてイノベーションを起こしていかないと生き残れない。チャレンジしないとチャンスも巡ってこないと思っている。

VR パスポート不要です バーチャル海外旅行

 新型コロナウイルスの影響で海外旅行ができないなか、仮想現実(VR)を駆使したバーチャル旅行に注目が集まっている。リアルな映像で世界の絶景や憧れの街を体感できるのが魅力だ。単なるリアルな旅の代替としてだけではなく、長時間の移動が難しい高齢者が自宅にいながら旅に同行できたり、がっかりしないための下見として活用するなど、最新技術が旅の可能性を広げている。

 東京・池袋にあるバーチャル旅行体験施設「ファースト・エアラインズ」。利用者は“池袋国際空港”から海外へと旅立っていく。

 「フランス・パリ行き、搭乗開始です」。アナウンスとともに機内へ。料金はファーストクラスが6580円、ビジネスクラスが5980円(いずれも税込み)。客室乗務員が安全確認の説明を行い、離陸時には飛行機のエンジン音や振動が座席に伝わり、旅への高揚感がわいてくる。ゴーグル型端末を装着し、VR動画でパリ・オペラ座やルーブル美術館を訪れ、アルザス地方の街、コルマールへ。美しい通りを実際に散策しているような感覚が楽しめる。現地との中継や訪問先の料理の機内食を楽しみ、所要時間は約2時間。米国・ニューヨーク便やイタリア・ローマ便などのほか、過去へのタイムトラベル便もある。

 旅行代理店のANAセールスは、VR端末を貸し出して旅に同行しているような体験ができるサービス「ANA バーチャルトリップ」(4日間・税込み7980円~)を提供している。カメラで撮影しながら旅行をし、自宅にいる家族らが映像を共有する仕組み。通話も可能で、一緒に土産物選びなどもできる。

 エイチ・アイ・エス(HIS)は、関東地区の営業所でVR専用ゴーグルを使い、ハワイやバリなどのホテル、結婚式場の下見ができるサービスを展開している。現地で「イメージと違う」といったギャップを感じるのを防ぐのが狙い。

 ファースト・エアラインズの阿部宏晃代表は「ウイズ・コロナの時代にも旅のワクワク感を楽しめる。用途や楽しみ方の可能性はさらに広がっていく」と期待している。