悩みひとりで抱えないで 自殺者増加兆候 厚労省は相談強化
「多くの方が自ら尊い命を絶っているという現実はしっかり受けとめなければいけない」。俳優の竹内結子(ゆうこ)さんの訃報に、加藤勝信官房長官は28日、会見でこう言及、7月以降に自殺者数増加の兆しがあるとも指摘した。新型コロナウイルスの影響で精神的ストレスを抱える人も増えているとみられ、厚生労働省は相談態勢の強化に乗り出している。専門家は「自殺対策には誰もが本音を語れるよりどころを持つことが大切」と訴える。
芸能人の自殺とみられる事例は今春以降、続いている。会員制交流サイト(SNS)による誹謗(ひぼう)中傷の後に死去したプロレスラーの木村花さんや、俳優の三浦春馬さん、芦名星さん、藤木孝さんが亡くなった。
テレビ制作に携わったこともある同志社女子大の影山貴彦教授(メディア論)は「芸能人はテレビで映る華やかな姿からは想像もできないほど、繊細な方が多い。頑張り過ぎて心身のバランスを崩してしまう恐れもあり、日々の心のケアが欠かせない」と説明する。
一方、国内の自殺者は増加の兆候をみせている。警察庁のまとめでは、今年8月の自殺者数(速報値)は1849人で、前年同月比246人の増加となった。新型コロナの感染拡大による不安などが影響を及ぼしている可能性もある。
自殺者の増加を受けて厚労省は今月10日付で、「生きづらさを感じている方々へ」と題する大臣メッセージを公表。「どうかひとりで悩みを抱え込まずに、身近な人に相談して」などと緊急の呼びかけを行った。ホームページ上には「こころの健康相談」や「自殺対策のSNS相談」の窓口が紹介されている。
精神科医でヒガノクリニック院長の日向野春総氏は「新型コロナ禍では人と人の心の触れ合いが希薄になりがち。自殺を予防していくには、誰もが本音を語れる存在を持つことが何より大切になる」と指摘する。
厚労省の委託でSNSを使った心の相談を受け付ける全国心理業連合会代表理事の浮世満理子氏は「家族や周囲でいつもと違う人を見つけたら、密なコミュニケーションを心がけ、弱音を吐ける環境づくりも意識してほしい」と呼びかけている。
■コロナ禍、相談深刻化
都道府県などに設置された窓口に寄せられる相談内容は4月以降、深刻さが増している。新型コロナウイルスの流行長期化が影響している恐れもあり、関係者は「不安があれば相談してほしい」と呼びかける。
東京都立中部総合精神保健福祉センター(世田谷区)への新型コロナ関連の相談は4~5月に急増。感染拡大時期と重なり、政府の緊急事態宣言発令直後は「外出するのが怖い」と感染不安が強かった。自粛生活が長引いた5月になると「家族が在宅勤務となり、イライラする」「鬱と診断された」などと身の回りの変化への戸惑いが深まった。
夏以降は不眠や耳鳴りなど身体的不調を訴えるケースが目立ち始め、「鬱になって、リストカット(自傷行為)をしてしまう」「自宅から出ないような環境となり、ストレスで身体症状が出ている。つらくて死にたい」などと具体的に追い詰められた内容の報告も相次いでいる。
同センターの担当者は、「コロナ禍で雇用が失われたり、自粛生活を余儀なくされたりし、多くの人が追い詰められやすい環境に置かれている」と分析。9月に入っても相談内容は深刻化の傾向にあるという。