ヘルスケア

信号機や案内板…東京五輪に備えよ 急がれるカラーユニバーサルデザイン化

波溝康三

 「青、黄、赤。信号機の3色をすべての通行人が正しく認識できているのか?」。答えはノー。黄と赤がほぼ同じに見えている色弱者がいる。だが、赤の色味を少し変えるだけで判別可能になるという。近年、世界中の誰もが正しく色を認識できる“カラーユニバーサルデザイン”という仕組み作りを進める自治体や企業が増えている。新刊コミックエッセー「増補改訂版 色弱の子どもがわかる本」(かもがわ出版 原案・カラーユニバーサルデザイン機構、イラスト・福井若恵)は、日常生活の中で色弱の人たちが陥っている問題点や、それらを克服するための社会の改善点などを分かりやすく提示する。

野菜の色(左)は同じ色(右)に見える(書籍から抜粋)
「増補改訂版 色弱の子どもがわかる本」の書影

 色覚検査で色弱と判断される人の数は日本人男性で約5%。女性では0.2%。つまり小学校など40人のクラスに1人はいるのだ。

 「私たちが毎日乗っている通勤通学の満員電車の1車両の中には色弱者は少なくとも2、3人はいるのです。欧米などでは日本人より、その割合が多いとされ、フランスでは白人男性の約10%が色弱者なんです」

 新刊の著者の1人で、NPO「カラーユニバーサルデザイン機構」の伊賀公一・副理事長はこう説明する。

 新刊の監修を担当した岡部正隆さんは東京慈恵会医科大学解剖学講座の教授。岡部さん、伊賀さんは2人とも色弱者としての立場、観点から、長年、カラーユニバーサルデザインに取り組んできた。

 日常生活の中で、色弱の人たちが悩んだり、困ったりしている点は少なくないと2人は指摘する。

 たとえば、冒頭で書いた信号機の色だ。

 「赤と黄色がほぼ同じに見える信号機があり、横断歩道などでは黄色が点滅すると必ず止まるようにしています。青は分かりますので」と伊賀さんは語る。

 近年、伊賀さんたちが所属するNPOなどの働きかけにより、色弱者に対する理解が広まり、公共施設などでカラーユニバーサルデザイン化が進んできた。色を色弱の人にも判別しやすい色味に変えた信号機などが全国で普及している。「電球がLED化されるなど技術の進歩に負うところも大きいです」と伊賀さんは説明する。

 信号機のほか、公共施設のトイレ表示の色でも、色弱者は困ることがあるという。

 「男性、女性の表示の色がほぼ同じ色に見えるトイレが少なくなく、あわてて女性用トイレに飛び込むことがあるんです」と伊賀さん。ただ、これも「表示の色味やコントラスト、デザインの形を少し変えるだけでも改善できるのです」

 ゲーム機などの企業も参画

 自治体など行政のほか、カラーユニバーサルデザイン化に積極的に取り組む企業も増えているという。

 「色弱の子供たちは、ゲーム機の充電ランプの色が充電後に変わっても判別できないケースがあったのですが、それを知ったゲーム機メーカーが、充電前と充電後のランプの色を判別しやすい色味に変えたり、点滅ランプに変えることなどで改善しています」

 食事の際に困ることもあるという。

 「みんなで焼き肉を食べるとき。肉が焼けたかどうかが、色弱者には判別しにくく、生焼けの肉ばかり食べて、周囲からひんしゅくを買うことも多いですよ」と伊賀さんは苦笑した。

 食事での悩みは周囲の人たちの心遣いにより、改善できるだろう。

 医学の発展や医療関係者たちの参画、協力などで、カラーユニバーサルデザインは、社会の中で浸透し始めているが、まだまだ改善点など課題は多いという。

 「幼い子供たちには色弱という認識がないケースも多く、親も含め、戸惑っている人たちはまだまだ多い」と言う。

 「例えば、靴下の色の違いが認識できず、左右、違う色の靴下をはいたまま、幼稚園や小学校へ行き、クラスメートからバカにされ、傷ついたり…。こんなときは、親が子供に色の違いが分かるよう、靴下にマークを書き込むなどして、その違いを認識させてあげればいいだけなんです」

 長所も…多様な個性を尊重

 色弱者は不便なことばかりなのか?

 「実は色弱の人は、形の違いを認識する能力が高い-という医学的なデータがあります。例えば、草と同じ色をしたバッタを他の子供たちよりも明確に判別でき、より多くつかまえることができる色弱の子供もいます。薄暗い場所で形の違いを判別できる能力が高いことも分かってきています」と伊賀さんは語る。

 強度の色弱者である岡部教授自身、子供の頃、友達よりもバッタ捕りが得意で、川の中の魚影なども友達よりもいち早く認識できたという。

 新型コロナウイルスの影響で、東京五輪開催が、来年夏へ延期されることが決まったが、海外から来日する大勢の外国人のためにも、国内での世界共通のカラーユニバーサルデザイン化が急がれている、と伊賀さんたちは訴える。

 「携帯電話のカメラ機能を使って、食べ物など対象物を撮影すると、色弱の人に、その正しい色が、スマホ画面で瞬時に判別できるようにした無料のアプリなども開発されており、技術的にも色弱者を支援するシステムが次々と生まれてきています」

 取材中、黄緑とピンク色、2種類のジュースが運ばれてきたとき。「両方同じ色に見え、どちらを注文したのかが分からない」と伊賀さんは言った。そして、スマホを取り出し、色弱者用に開発されたアプリを使い、2種類のジュースがどんな色に見えているかを教えてくれた。

 その映像は確かにほとんど同じ色で区別がつかなかった。

 「どうすればいいのか?」と聞くと、「簡単ですよ。コップにマジックでジュースの種類の名を書くだけで分かることなんです」

 色弱者の数は日本国内だけでも300万人以上いるという。真の国際化に向けた早急なカラーユニバーサルデザイン化が求められている。

波溝康三(なみみぞ・こうぞう) ライター
 大阪府堺市出身。大学卒業後、日本IBMを経て新聞記者に。専門分野は映画、放送、文芸、漫画、アニメなどメディア全般。2018年からフリーランスの記者として複数メディアに記事を寄稿している。