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”無限列車”が走り出す! 「鬼滅の刃」の世界観に浸れるSLが登場したワケ

SankeiBiz編集部

 公開から最初の3日間で興行収入46億円を超え、342万人の観客を動員したアニメーション映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」とJR東日本高崎支社などが連携した夢のコラボレーションが実現した。群馬県の高崎-横川間を走る蒸気機関車「SLぐんま よこかわ」が“無限列車”仕様で特別運行されているのだ。JR東日本はコラボ効果で乗客の増加に期待。専門家は「普段は届けられない客層にリーチ(到達)する良いきっかけになっている」と分析する。

無限列車特別仕様SL (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車特別仕様SLの内観① (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車特別仕様SLの内観② (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車駅弁~峠の釜めし 竈門 炭治郎編~(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車駅弁~峠の釜めし 竈門 禰豆子編~《「禰」は「ネ+爾」が正しい表記となります。》(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車駅弁~峠の釜めし 我妻 善逸編~(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車駅弁~峠の釜めし 嘴平 伊之助編~(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
無限列車駅弁~峠の釜めし 煉獄 杏寿郎編~《「煉」は「火+東」が正しい表記となります。》(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 キャラクターの声優が車掌アナウンス

 「鬼滅の刃」は、吾峠呼世晴さんの漫画が原作。テレビアニメから人気に火がつき、漫画の単行本の発行部数は累計1億部(電子版を含む)を超えている。空前の大ヒットとなった映画とのコラボイベントは「鬼滅の刃×SLぐんま~無限列車大作戦~」と名づけられ、12月31日まで行われている。SLに牽引される旧型客車は、作中で主人公の竈門炭治郎たちが乗った列車を想起させる独特の雰囲気。映画を見たファンからは「すごく世界観があって楽しい」と好評だ。

 「鬼滅の刃」の世界観が楽しめる特別仕様のSL列車は、作品のキャラクターの声優たちによる車内アナウンスも実施するという力の入れよう。車内にはキャラクターたちが乗務員や売り子などの格好に扮(ふん)したデザインのシールが15種類も貼られている。SNSには「車内アナウンスの車掌の煉獄さんかっこよかった」といった声が寄せられており、趣向を凝らした演出がファンの垂涎(すいぜん)の的になった。

 「SLぐんまの旧型客車のイメージが、鬼滅の刃で舞台となる『無限列車』の世界観に合っているのではないか」

 発端は企画会社の社員が口にした言葉だった。同支社の広報担当は「コラボ企画によってSLぐんまの利用客の増加、知名度の向上につながれば」と期待を寄せる。

 益子焼の器で知られる名物駅弁「峠の釜めし」ともコラボも実現。「無限列車駅弁」として、「竈門炭治郎編」のほか「竈門禰豆子編」「我妻善逸編」など作品の登場人物をイメージし、掛け紙と釜を特別仕様にしたオリジナルの釜めしが登場した。

 かつてJR信越本線の横川~軽井沢間の碓氷峠は急勾配の難所として知られ、専用の電気機関車を連結するために、すべての列車が必ず横川駅に停車した。列車の扉が開くと乗客はホームに降り、1000円札を握り締めて釜めしの売り子を取り囲んだ。釜めしは飛ぶように売れていった。1997年の長野新幹線(北陸新幹線の高崎~長野間)の開業に伴い横川~軽井沢間が廃止。横川駅はローカル列車の終着駅となり、往時の賑わいは消えた。

 創業135周年の老舗、釜めしを製造・販売する荻野屋にとってコラボ企画は願ってもない機会。荻野屋の担当者は「これまでは年配の方を中心に釜めしを買っていただいていたが、これを機にファミリー層や若者にも興味を持っていただけたらありがたい」と語る。これまでも人気漫画「頭文字D」の作者、しげの秀一氏やイラストレーターのバーニア600氏らが掛け紙をデザイン。こうしたコラボ企画が購買層の拡大に役立っているようだ。

 「コンテンツ力」が旅へといざなう

 近年、アニメと鉄道のコラボ企画は広がりを見せている。熱い視線を集めたのが、人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」をイメージしたJR西日本の500系山陽新幹線こだま号だ。アニメに登場する人型兵器「エヴァ初号機」をモチーフに、車体には紫色に蛍光色の黄緑色のラインが引かれた塗装が施された。当初は2017年3月に終了を予定していたが、訪日外国人観光客にも好評を博し、2018年5月まで運行が延長された。

 千葉モノレールではテレビアニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完」とのコラボ企画でラッピング列車の運行を開始。今後はオリジナルグッズの販売やキャラ声優による車内アナウンスの実施も予定しているという。京都の叡山電鉄では展望列車「きらら」と芳文社発行のまんが雑誌「まんがタイムきらら」との “きらら” つながりでコラボ企画を行い、アニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」などのキャラクターが描かれたヘッドマークがファンを喜ばせている。

 近畿大学の岡本健准教授(観光学)は鉄道とアニメのコラボについて、「アニメのコンテンツの力によって旅行客が動くということが目立っている。コンテンツを愛している人が作品と関連する場所に行きたいと思い、普段は行かないような場所にも行くようになる」と指摘する。

 アニメとのコラボにより、これまで認知していなかったものに関心が向くようになる。岡本准教授は「コラボ企画によって、普段は届けられない客層にリーチする良いきっかけになる。アニメから知って(鉄道や駅弁などの)元ネタの文化に興味を持つことにもつながっている」との見方を示す。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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