宇宙開発のボラティリティ

迫るニッポンの宇宙飛行士打ち上げ ライブ中継を堪能するための予備知識

鈴木喜生

11月15日9時49分 わずか3分で宇宙へ

 ロケットの不具合のために延期されていた野口聡一宇宙飛行士の打ち上げが、11月15日(日曜)に迫っています。日本時間の9時49分、野口氏と米国人クルー3名を乗せたスペースX社の宇宙船「クルー・ドラゴン」は、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの39A発射台からファルコン9ロケットによって打ち上げられます。打ち上げからわずか3分後には宇宙(高度100km以上)に到達し、9分後には高度200km、時速2万7000kmに達し、27時間30分後にはISS(国際宇宙ステーション)の第2結合部「ハーモニー」にドッキングする予定です。

 その打ち上げから軌道投入、ドッキングなどの様子は、NASA、スペースX社、JAXAのYouTubeの各サイトでライブ配信されます。今回の打ち上げをより理解するための事前情報として、ここではクルー・ドラゴンの概要や、野口氏のプロフィールなどを紹介します。

【野口聡一氏打ち上げライブ配信】

JAXA「野口宇宙飛行士・特設サイト」にてライブ配信の告知予定

▼YouTubeチャンネル:NASA Live

▼YouTubeチャンネル:SpaceX

民間の最新鋭宇宙船クルー・ドラゴンの運用第1号機に搭乗

 スペースX社が開発した宇宙船「ドラゴン」は、過去20回にわたり無人補給機としてISSへ物資を輸送してきました。その後、有人宇宙船「クルー・ドラゴン」に転用してからは、昨年3月には無人で、今年8月には有人でISSへのドッキングに成功しています。その2回のテスト飛行を経て、今回のフライトが正式運用の第1号機となります。つまり、クルー・ドラゴンは、アメリカ本土から打ちあがる有人宇宙飛行再開の象徴です。

 形状はアポロ宇宙船に似ていますが、アポロが定員3名だったのに対し、クルー・ドラゴンは最大7名まで搭乗でき、今回は野口氏を含め4名が搭乗します。操作機器はすべてスクリーンによるタッチパネル方式で、スイッチ類がありません。また、ISSへのドッキングは完全自動化されています。

 クルー・ドラゴンは推進用・姿勢制御用のスラスターを16基搭載していますが、さらに緊急脱出用の小型エンジンを8基搭載し、もし上昇時にファルコン9に不具合が生じても、この小型ロケットが噴射されてファルコン9から分離します。当初、その小型エンジンの逆噴射だけで地上へ垂直着陸できるよう設計が進められていましたが、その後、すべての着陸にはパラシュートを使用するよう決定されています。

 アポロの月着陸船に「イーグル」という愛称が付けられたように、今回の初号機には「レジリエンス」というニックネームが付けられています。直訳すると「弾力」、「復元力」という意味ですが、心理学における「困難に負けず、しなやかに適応する力」という意味が込められています。

572人中から選ばれた精鋭宇宙飛行士

 野口聡一氏は、JAXA所属として5人目、日本人としては6人目の宇宙飛行士であり、今回の「第64次ISS長期滞在ミッション」は、同氏にとって3度目の宇宙滞在となります。

野口氏は1965年(昭和40年)、神奈川県横浜市に生まれ、東京大学工学部航空学科、同大学院工学系研究科を経て、石川島播磨重工業(現IHI)に入社し、超音速旅客機のエンジン開発に従事していました。

 1996年(平成8年)には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の前身であるNASDA(宇宙開発事業団)の宇宙飛行士候補者の募集に応募し、572人の受験者の中から選定され、同年8月からはNASA(米航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターでISS組み立てミッションの訓練を受けています。

遠い宇宙…初搭乗を目前にコロンビア号事故

 野口氏にとってはじめての宇宙船搭乗は、2002年のスペースシャトル・エンデバー号の予定でしたが、スケジュールが変更され、その2フライト後のディスカバリー号に乗ることになります。しかし、そのひとつ前のミッションで「コロンビア号の空中分解事故」が発生します。この事故によってNASAはシャトルの打ち上げを無期限で中止。その間、約2年半の待機期間を経て、野口氏は2005年7月、念願のシャトル初搭乗を果たします。このミッションで同氏は宇宙に15日間滞在し、船外活動(計20時間5分)を3回行いました。

 2回目の宇宙飛行は、2009年12月に打ち上げられた「第22次/23次ISS長期滞在ミッション」でした。ロシアの宇宙船「ソユーズTMA-17」に搭乗してISSを往復しましたが、このとき野口氏はフライトエンジニアを務め、船長の補佐としてソユーズ宇宙船の操縦業務を日本人としてはじめて行っています。また、約5ヵ月半にわたるISS滞在の間に、ISSに設置された日本実験棟「きぼう」のロボットアーム(子アーム)の取り付けや実験運用などを行っています。

 この滞在中の2010年4月には、後続のミッション(STS-131)のクルーであった山崎直子氏がISSに到着し、史上はじめて「日本人2名の同時軌道上滞在」を実現しています。

宇宙滞在記録347日8時間を超えるか?

 野口氏の宇宙滞在記録は現在177日3時間5分であり、2回目のミッションで若田光一氏が持つ記録159日10時間を抜き、日本人の最長記録を打ち立てました。しかしその後の2014年に若田氏に再度抜かれ、現在は2位となっています。しかし、今回のクルー・ドラゴンによるミッションでは約半年間のISS滞在が予定されているため(帰還日未定)、若田氏の現記録347日8時間32分を野口氏があらためて更新する可能性があります。

ともに飛ぶベテラン宇宙飛行士たち

 今回、野口氏とともに飛ぶのは、マイケル・ホプキンス氏、ビクター・グローバー氏、そして女性搭乗員であるシャノン・ウォーカー氏の3名です。

 マイケル・ホプキンス氏は、このミッションの司令官(船長)であり、打ち上げから再突入までのすべての飛行を担当します。スタンフォード大学で航空宇宙工学の修士号を取得し、米空軍のフライトテスト・エンジニアを経て、2009年の長期滞在ミッションに参加。このミッションでISSに166日間滞在し、計12時間58分の船外活動(2回)を経験しています。今回が2度目のフライトです。

ビクター・グローバー氏は、パイロットと副司令官を務めます。このミッションが彼にとって最初の宇宙飛行です。前職は海軍パイロットであり、F -18戦闘機などに搭乗していました。

 シャノン・ウォーカー氏は、宇宙船の航行を管理する「ミッション・スペシャリスト」として、タイムライン、テレメトリ、燃料や酸素などの残量など、常に宇宙船の状態を監視します。2010年にソユーズ宇宙船でISSを訪れ、161日間を過ごしています。ライス大学で理学修士号と宇宙物理学の博士号を取得した後、2004年にNASAの宇宙飛行士に選ばれました。同氏にとってこれが2度目の宇宙滞在となります。

エイ出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら