5時から作家塾

世界初の試み、ニコチン依存の治療をアプリで 厚労省から薬事承認も

吉田由紀子

 今年4月、改正健康増進法が全面施行され、タバコを取り巻く環境が大きく変わった。増税による値上げ、分煙の強化、喫煙場所の減少など、愛煙家にとっては肩身が狭い状態だ。

 とはいえ、タバコが健康を害することは自明の理。喫煙は「百害あって一利なし」だが、わかっていても止められないのが、長年の喫煙習慣である。

 喫煙を止めるには、病院の禁煙外来に通い、禁煙補助薬を処方してもらうのが一般的だ。しかし、薬剤だけで1年後に禁煙できた人は、3割に留まっているのが現実である。禁煙補助薬を服用すると、イライラ感や喫煙衝動といった身体的依存は抑制できるものの、「もう一つの要因」が解消されない限り、ニコチン依存からは脱することはできない。

 気になるもう一つの原因とは何か? それは、タバコに対する「心理的依存」である。

共感しながらアドバイス、解決へ

 この心理的依存を克服する「ascure卒煙プログラム」が、いま注目を集めている。開発した株式会社CureAppの代表取締役社長(医師)の佐竹晃太さんに話を伺った。

 「ascure卒煙プログラムは、スマートフォンの専用アプリを使い、看護師、薬剤師などの医療資格保有者が、オンラインで参加者さんを禁煙へと導くプログラムです。指導員と患者さんが1対1のカウンセリングを行います。例えば吸いたくなる状況など喫煙に到る動機をお伺いします。その答えに共感をしながら、喫煙してしまう問題の整理を参加者さんと一緒に行い、一人ひとりに合わせた行動のアドバイスによって問題を解決していきます」(佐竹晃太さん、以下同)

 このプログラムは動画やチャットを用いて患者の日々の習慣を変えていくのが目的である。自宅にOTC(薬局などで購入できる医薬品)の禁煙補助薬が配送されるので、それを服用しながらオンラインで支援を受けていく。期間は原則6カ月間。開始から終了まですべてオンラインで行う仕組みになっている。

 「禁煙補助薬を服用するだけでは、自宅で一人になった場合、長年の習慣でついタバコに手を出してしまいがちです。ascure卒煙プログラムでは指導員とのカウンセリングとアプリにより、常に生活をチェックしながら改善にもっていきます。終了時には、専用のキットで採取した唾液で喫煙の可否を判定し、それをオンライン上で指導員に示します。この結果により、禁煙に成功したか否かを判断できる仕組みになっています」

 このascure卒煙プログラムは、現在、健康保険組合や企業、自治体など約200の団体が導入している。その一つである大阪府豊中市にも取材を行った。

 「豊中市では、以前より健康寿命を伸ばす事業に取り組んでいます。これまで血管強化や減塩といったプロジェクトにより、市民の健康に寄与してきました。その一環として、健康を阻害する喫煙を解消するために、昨年9月にascure卒煙プログラムを導入し、とよなか卒煙プロジェクトを開始しました」と話してくれたのは、豊中市健康医療部次長兼健康政策課長・ 田上淳也さんである。

 今年9月末までに445名の市民が、このプロジェクトに参加しており、700名以上がアプリをダウンロードしている。ちなみに、豊中市在住者は無料、在勤者は3000円と安価で利用できるようになっている。

 「私自身、今回の禁煙支援に立ち上げから関わってきましたので、多くの方にご利用いただいていることをうれしく思っています。ご家族の応援を受けてがんばっていらっしゃる方もいますので、ぜひ禁煙に成功してほしいですね。豊中市は『いつもきれいな空気が吸える町』でありたいと考えています」(田上淳也さん)

 この豊中市の取り組みは、SIB(ソーシャルインパクトボンド)という仕組みで運営されている。これは民間から調達した資金をもとに行政がサービスを市民に提供し、その成果に応じて行政が委託料を支払うという新しい連携手法である。禁煙事業のようなヘルスケア分野では、住民の疾病予防や早期発見につながり、社会保障費や医療費などの削減が期待されている。

アメリカにも会社を開設、アプリ機能の世界展開狙う

 株式会社CureAppでは、このプログラムを進化させた「治療アプリ(R)」の開発にも成功している。それが、「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」(以下、CureApp SC)。今年8月21日に厚生労働省より正式に薬事承認され、アジア圏では初の治療アプリとして年内の保険適用を目指している。

 このCureApp SCは、ascure卒煙プログラムと違って医師から処方されるのが特徴だ。患者用アプリ・医師用アプリ・ポータブルCOチェッカーの3つから構成されており、患者の治療状況や体調に合わせて個別に対応をしていく。また、セットのポータブルCOチェッカーを使用し、呼気中の一酸化炭素濃度の精緻な計測が自宅でできるようにもなっている。

 「在宅や勤務中など医療者の介入が難しい『治療空白期間』を治療用アプリが支援することで、禁煙継続率が向上します。医師は、患者がアプリに入力した内容に基づいて前回の診察以降の様子を詳細に知ることができます。そのため、従来の治療より効率的で質の高い禁煙治療が可能になると考えています」(佐竹晃太さん、以下同)

 社長の佐竹さんは、慶応義塾大学医学部卒業後、国内の病院に呼吸器内科臨床医として従事した。その後、アメリカに渡り、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院にて修士(MPH)を取得している。そこで治療アプリの研究に携わった経験をもとに、国内での普及を目的として2014年に起業をした。

 「アメリカやヨーロッパではすでに、治療アプリが次々と保険適用され、医療の現場で活用されています。糖尿病や薬物使用による傷害、またADHD(注意欠陥多動性障害)などの治療用アプリが、従来の治療と遜色のない成果を出し評価を受けています。治療アプリは既存の医薬品に比べて、価格が各段に安いため、日本でも今後普及していけば、医療費の適性化をもたらすものと思います」

 株式会社CureAppは、昨年、アメリカにも会社を開設した。この禁煙アプリは現在、FDA(アメリカ食品医薬品局)に申請中である。今後は、大きな社会問題になっているアルコール依存症の治療用アプリの開発にも注力していく予定だ。

 肥大化する日本の医療費、その一助となる可能性を秘めた治療アプリ(R)が、これからの医療現場でどんな活躍を見せてくれるのか注視したい。(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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