新時代のマネー戦略

相続税対策で「一括贈与」、選択肢はそれだけ? ラッキーで済ませるな

鈴木暁子

 親にとって、生前に「贈与」するのは、相続税対策として「相続財産を圧縮できる」という経済的メリットと、「子や孫の役に立てる」という精神的満足の一石二鳥です。一方、そろそろマイホームが欲しい、子どもの教育費がかかるなど懐具合が厳しい子どもとしては、親が援助してくれるというのであれば、断る理由はないでしょう。

 贈与自体はメリットのある制度です。しかし、目先のメリットだけにとらわれて行うと、後々「こんなはずじゃなかった」と悔やまれることもないわけではありません。また、贈与は相続とも密接な関係があります。贈与税や相続税を払うことになった場合、課されるのは受け取る側です。贈与のしかたを親は十分に考えなければいけませんし、子どもの側もメリットだけとは限らないことを肝に銘じておきましょう。

教育資金を非課税で贈与する方法は一つではない

▼「教育資金や住宅購入資金なら、大きな金額でも非課税の制度があるんですよね?」

 最近、60~70代の企業OBの方の相談が続いたのですが、いずれも贈与に関するものでした。贈与の相談では「教育資金の一括贈与」や「住宅取得資金等贈与」が多いと感じています。

 教育資金を一括贈与する場合、子・孫1人につき1500万円までの贈与は特例の対象になり、非課税になります(国税庁HP「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」)。

 子や孫が住宅を取得するための資金の贈与も、一定の条件を満たせば、1200万円まで(2021年12月31日まで)は非課税です(国税庁HP「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」)。

 これらを検討する人が多いのは、贈与する側にとって、目的が明確ですし、効果が目に見えやすいからかもしれません。ところが多くの方は「まとまった資金を贈与しても非課税」というところだけインプットされており、さまざまな留意点があることは二の次になっています。

 たとえば教育資金の一括贈与の相談で「いくらくらいがいいですかね」という質問。孫の進路によって大きく変わる教育費ですから、どのような進路を希望しているかを子どもと十分話すことが必要でしょう。ただ難しいことに、本来ライフプランを考える際には支出は多めに見積もるという原則から、教育費は首都圏であれば中学から私立で見積もることも多く、子どもの側も「とりあえず多めに」という気持ちが強くなる傾向があるように思います。

 しかしこの制度で最も注意しなければいけないのは、原則、贈与を受ける者が30歳になるまでに非課税拠出額を使い切らず残余額があった場合、そこには贈与税がかかってしまうということです。また、この制度を利用するには、金融機関と契約を結び専用の口座を開設する、払出しの際は所定の手続きがあるなど面倒も多いのです。

 教育資金であれば、実は一括贈与を使わなくても非課税で贈与できる方法があることをご存知ですか? 国税庁のHPに記載がありますが、贈与税がかからない場合として、教育資金や生活費が列挙されています。

2 夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの

ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。

 なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。

国税庁HP「贈与税がかからない場合」より抜粋)

 この方法は「都度贈与」と言われ、必要な都度、直接それ(この場合であれば教育資金)に充てるためのものであれば贈与税がかからないのです。

 ただし留意点として、

  • (1)まとまったお金が動くので、将来税務署から問い合わせがある場合もあるその時に説明がつくように学費の納付書など教育資金に支出したことを証明する領収書などを取っておく
  • (2)都度贈与なので、あらかじめ将来発生分を見越して贈与すると贈与税がかかってしまう
  • (3)贈与する人(この場合であれば祖父母)が贈与した後3年以内に亡くなった場合は、相続財産に戻される

 などがあります。とはいえ一括贈与のような手続きも不要ですし、必要な時に必要な額を贈与するので合理的といえます。

相続税の心配をするなら長い目で考える

▼「都内に持ち家を保有していると、相続税がかりそうだから…」

 「都内の戸建てに住んでいるので、僕の試算では相続税がかかりそうだし、息子夫婦がマイホーム購入を検討しているので住宅資金を贈与しようかなと」と相談に来られた65歳男性(配偶者あり。既婚で賃貸の長男あり)。過去の税制改正で相続税の基礎控除が縮小されたことで、都内で戸建てを保有していると相続財産が基礎控除を超えるケースも増えています。そのため住宅資金の一括贈与の制度を使って子どもの援助をしつつ、相続財産を縮小しておこうと考える人も多くなっています。

 たしかに相続財産を縮小するために生前贈与を活用することも一案ですが、評価額が高い自宅を保有している方に有益な選択肢のひとつとなり得るのが「小規模宅地等の特例」。未だに知らない人も多いのではないでしょうか。

 被相続人(この場合であれば父)が自宅や事業地として使用していた宅地を相続によって取得する場合、一定の要件を満たせば、一定の面積まで、相続税評価額の計算にあたり最大80%減額される(例:5000万円の宅地の相続税評価額が1000万円として計算される)というものです。日本は持ち家志向も高く、資産に占める不動産の割合も高いため、その評価額が大幅に圧縮される可能性がある、メリットが大きい制度です。(国税庁HP「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

 ただし、それゆえに適用要件は非常に厳格です。(今回は被相続人が自宅として居住していたもの《特定居住用宅地等》についてのみ取り上げます)

【特定居住用宅地等の要件】

 今、この相談者(父)が亡くなった場合、配偶者(母)がいますから、配偶者が相続すれば当該特例は適用されます。しかし将来配偶者が亡くなった時はどうでしょう。その時点で別居している長男夫婦は取得者の要件(1)にも(2)にも該当せず(3)ということになるのですが、実は(3)の場合は細かい要件すべてを満たさないと適用されないのです。

 その一つに「相続開始前3年以内に取得者本人やその配偶者、取得者の3親等内の親族(おじ、おば等)が所有する家屋に居住したことがないこと」という要件があります。つまり長男夫婦がマイホームを所有し、母が亡くなった時にマイホームに居住していた場合には、小規模宅地等の特例は適用されず、宅地の評価額減額はありません。

 亡くなった方が自宅に使用していた宅地について、通常の評価額で相続税の計算をすると相続税は高額になります。その自宅に居住している家族が自宅を売却しないと相続税が払えないというのであれば生活基盤が維持できなくなってしまいますし、宅地を次世代に引き継ぐことが困難になります。

 そのため、「一定の要件を満たす宅地等については税の優遇措置を適用しよう。ただしすでにマイホームを持って暮らしているのであれば、そのような事情を汲む必要はないので適用なし」というのが、小規模宅地等の特例の趣旨です。上記要件のとおり、配偶者は同居、非同居にかかわらずこの特例の適用がありますが、それ以外の親族は同居しているかどうかが大きなポイントとなるのです。

 適用されない場合、宅地の評価額が高い、あるいは宅地のほか金融資産も多いなど相続財産評価額が基礎控除を超える可能性は大いにありますが、その際に相続税の負担が子どもにのしかかってくる可能性があるのです。

 もし、このケースで住宅資金贈与をするのではなく、その資金で自宅を二世帯で住めるようにリフォームし、長男夫婦と同居していたらどうなるでしょう。父の死亡で宅地を相続した母が亡くなっても、長男は取得者(2)に該当するので、特例の適用は認められるでしょう(引き続き住み続けるなどの要件はあります)。結果的に長男はマイホームも保有でき、かつ相続税評価額の軽減も可能となります。

 相続では、最初の相続(今回のケースでは父)を一次相続、次に配偶者(今回のケースでは母)が亡くなった時を二次相続といいますが、一般的に二次相続では一次相続より相続人が減るケースが多くなります。そもそも基礎控除が小さくなる上、配偶者という、相続においては非常に手厚い恩恵を受けられる人がいなくなるため、相続税がかかりやすくなるのです。

経済合理性とライフプランの二本立てで考えよう

 前述の「教育資金」しかり、「住宅資金」しかり、大きく取り沙汰された特例ばかりに目が向き、実はもっと使い勝手が良いかもしれない制度や、将来の相続をイメージする重要性に気づかないまま資産を移譲すると、贈与したい人の意図が実現できないとも限らないのです。

 もちろんマイホームを持たないことや同居することが良いというわけではありません。逆に小規模宅地等の特例を使いたいがために同居し、嫁姑問題でも起きようものなら本末転倒です。

 また、最大の悲劇は、親に十分な贈与をしてもらったものの、親が長生きして老後資金の心配をしなくてはならなくなった場合です。その際、もしあなたの家計がまだ支出の多い時期であったとしても親に経済的な援助ができますか?

 節税意識は重要です。その意味で一括贈与の非課税は大きなメリットになり得るでしょう。しかし金額の大きさだけに目を向けるのではなく、他の贈与、あるいは相続時に使える可能性のある制度まで選択肢を洗い出して検討したか、またその方法が親側子ども側双方のライフプランに合ったものか、二本立てで考えましょう。経済合理性を優先するあまり家族の仲が悪くなるくらいなら、税金を払って済むほうがよほど幸せです。

 贈与は親が提案してくれることが多いと思いますが、子ども側も「もらえればラッキー」で済ませるのではなく、今の贈与が将来の自分にどのようにかかわるのかも意識し、場合によっては親に必要な情報をアドバイスするなどできるようになってほしいものです。

鈴木暁子(すずき・あきこ) ファイナンシャル・プランナー CFP(R)認定者
FPオフィスNext Yourself 代表
多様化するライフスタイルに応じた生活設計や資産形成を重要視し、セミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・ウェブなどで記事・コラムを執筆。家計管理や資産形成相談を多数手がける。シニアマネー相談も得意とし、リタイアメントプラン、セカンドライフの生活設計アドバイス、高齢期の住み替え支援も行う。共著に「100歳まで安心して暮らす生活設計」(実業之日本社)がある。FPで構成する「高齢期のお金を考える会」のメンバー。

【新時代のマネー戦略】は、FPなどのお金プロが、変化の激しい時代の家計防衛術や資産形成を提案する連載コラムです。毎月第2・第4金曜日に掲載します。アーカイブはこちら