新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日常生活で不安やストレスを感じる人が増えている中、自分の感じていることを入力することで心の状態を“見える化”し、自分の感情やコンディションを客観的に見つめ直すことができるスマートフォンのアプリが登場した。外出自粛やテレワーク(在宅勤務)などライフスタイルの大きな変化により心身の疲れを感じる人も少なくなく、行動医学の専門家は「自分を知り、自分で感じる力を伸ばすことが大切だ」と指摘する。
通信教育大手のユーキャン(東京都新宿区)が今月3日に発表した調査結果によると、コロナ禍以降ストレスを感じる機会が増えたと感じる人は53.5%に上った。さらに39.1%の人がコロナ禍では「ストレスに負けない精神力」が重要だとも感じており、「ウィズコロナ」の時代、自身の「心の健康」について考える人は増加傾向にあることがうかがえる。
「ニューノーマル」な時代への移行を余儀なくされ、自分の心の健康を保つためにも、自分の感情の傾向を知り「自分と上手に付き合う」ことが求められる。自分の心の状態を“見える化”し、心の健康を保つために開発されたのが、スマホアプリ「Awarefy(アウェアファイ)」だ。人工知能(AI)を活用した自動会話プログラム「チャットボット」との対話を通じて、自分の感情を見つめる「セルフモニタリング」を促進する機能も備わる。今年5月にサービスが開始されると、約4ヶ月で登録ユーザーは2万人に達した。
「『心の健康』への注目が集まる中、テクノロジーと人文科学、心理学の知見を合わせることで、心にまつわるさまざまな課題解決が行えるのではないかと考えた」
アプリを開発した「Hakali」(ハカリ、東京都新宿区)の取締役CTO、池内孝啓さん(36)は、こう振り返る。「心の領域」の課題は「人生をかけて取り組むことのできる分野」(池内さん)と捉え、早稲田大学の熊野宏昭教授(行動医学)の協力を得て、メンタルケアに関する手法の共同研究を進めているという。
心を見える化する「感情メモ」
アプリには、チャットボットとの対話を通じて自分の気持ちや思考を“見える化”する「感情メモ」という機能があり、認知行動療法の知見を活かして作成されたチャットボットの質問にユーザーが回答。「喜び」「期待」「不安」などの自分の感情が心の何割を占め、それらはどのような出来事に起因して発生したのかをアプリ側が整理する仕組みという。さらに、ユーザーの「感情メモ」が蓄積されると、集計、分析した上で「感情レポート」が作成される。アプリのユーザーがそれまで抱いていた感情や思ったことを客観的に見つめ、自分自身への“気づき”を得ることができるとしている。
熊野教授は「モニタリングした内容が、自分にとって望ましい方向に変化していくことが知られている。例えば、体重や喫煙本数を毎日記録するといったことだけで効果がある」とセルフモニタリングの効果を解説する。
「感情メモ」の作成では、チャットボットから「できごと」「感情の種類と強さ」「考えたこと」「状況の整理」の4つの項目が提示される。対話をするように順番に回答していくと、最後に回答した内容に基づいてメモが作成される。週末にはユーザーに「週間レポート」が届き、それまで感情メモに記録した出来事や感情がグラフ化される。この1週間どのような経験をし、どのような気持ちだったか可視化されることでセルフモニタリングができるという。
アプリには瞑想を実践できるオーディオ機能もある。「すきま時間の3分瞑想」というオーディオコンテンツでは、リラクゼーションを促すような音楽が流れ、瞑想中に意識するべきことを説明するナレーションが再生される。そのまま音声に従い深呼吸などを繰り返すことで、短時間で脳疲労の解消を図ることもできるとしている。
熊野教授は「多くのユーザーの対処法の選択結果、改善の度合いなどのビッグデータを蓄積することで、いずれは、どのような状態の時に、どのプログラムを実行すればどのような効果が期待できるかといった提案ができるようになるだろう」と指摘。「今回のコロナ禍では(インフォメーションとパンデミックを合わせた)『インフォデミック』という言葉が使われるようになるほど、何が事実なのかが分からない状況に陥り、人々のメンタルヘルスも大きな影響を受けている。その中で、本当に頼りになるのは、自分を知り、自分で感じる力を伸ばすことではないか」との認識を示す。
アプリを開発した池内さんは「今後も科学的な根拠を重要視し、実証実験を通じてユーザーに合ったセルフケアを目指したい。心の痛みを和らげる一助となれば」と話した。