乳がん術後に転移 複数の抗がん剤提示メリット・デメリットは
Q 50代の女性です。平成22年、乳がんと診断され、ホルモン受容体陽性のルミナール型でした。術前に抗がん剤治療(FEC療法+ドセタキセル)をした後に手術を受け、術後にタモキシフェンによるホルモン療法を受けました。30年、肺にしこりが見つかり、手術したところ、乳がんの転移と判明し、アナストロゾールによるホルモン療法を開始。令和2年7月、脳転移が見つかり、それも摘出しました。10月には肝臓への転移も確認。担当医から抗がん剤を複数提示されました。
A 遠隔転移が確認されているので、目に見えない病変も含め、がんは全身に広がっていると考えられます。今後は、見つかった病変だけをたたく「局所治療」ではなく、全身に薬を行き渡らせる全身治療(薬物療法)が中心となります。
Q 次は内服抗がん剤のS-1、カペシタビンなどを提案されています。
A 遠隔転移のある乳がんに対する抗がん剤としては、アントラサイクリン系とタキサン系がよく使われます。10年前にアントラサイクリン系のFEC療法と、タキサン系のドセタキセルによる治療を受けていることを考えると、主治医から提示された内服抗がん剤も標準的な選択肢となりますし、タキサン系のパクリタキセルと分子標的薬ベバシズマブの併用や、エリブリンなど、ほかにも選択肢はあります=イラスト。
Q 抗がん剤の副作用が心配です。
A 確かに、脱毛、吐き気、白血球減少、しびれなどの副作用がありますが、それらを上回るメリットが期待できるかどうかで判断することが重要です。そのためには何を目標に治療を行うか、自分が大切にしたいものが何なのかを意識し、担当医ときちんと話し合うことが大切です。
Q 抗がん剤以外はないのでしょうか。
A ホルモン受容体陽性ですので、ホルモン療法を続けるという選択肢もあります。病気が急速に進行している状況ではなく、全身状態も落ち着いているのであれば、抗がん剤に切り替えるよりも、ホルモン療法でもう少し粘ってみるのがよいかもしれません。最初の手術後にタモキシフェンを5年間、肺転移後にアナストロゾールを2年間使っていますが、ホルモン療法で次の候補になるのは、フルベストラントという筋肉注射のホルモン療法で、これに分子標的薬のパルボシクリブやアベマシクリブを併用するのがよいと思います。
Q ホルモン療法と抗がん剤のどちらがいいのでしょうか。
A ホルモン療法の方が副作用が比較的軽く、効いた場合には長く使える傾向がありますので、効果が期待できるのであれば、ホルモン療法から試すのが一般的です。これまでのホルモン療法がどれくらい効いたかによっても判断が違ってきますので、担当医とよく話し合ってみてください。
(構成 大家俊夫)
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回答は、がん研有明病院乳腺内科部長、高野利実医師が担当しました。
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高野医師「「薬は道具と考え、適切な選択を」
がん薬物療法の進歩により、薬物の選択肢は確実に増えてきている。高野医師は「特に乳がんの治療では、『使える薬がない』という状況はほとんどありません」としたうえで、次のようにアドバイスする。
「薬は単なる『道具』と考えるのがいいと思います。薬があるから使うというのではなく、目標に近づくために適切な道具を選んで使うことが重要です。薬を使うことが目標になってしまっている患者さんもいますが、薬を使うために生きているのではなく、生きるために活用する道具の一つが薬だということを忘れずにいたいものです」