火星植民へ前進 「必要なデータはすべて取得した」
イーロン・マスク氏率いる民間企業スペースX社が、12月10日の朝(日本時間)、超大型宇宙船「スターシップ」のプロト機「SN8」の無人打ち上げテストを行いました。着陸には失敗し爆発したものの、同社は大きな成果を残したと評価しています。
【打ち上げから着地までの映像】
今回のテストは、スターシップを高度12.5kmまで上昇させたあと、エンジンを停止して水平姿勢で降下させ、再度エンジンを点火して垂直着陸させるというものでした。降下速度が速すぎたため、地上に接地すると同時に爆発炎上。しかし、テスト後にイーロン・マスク氏は、「我々はこのテストで必要なデータをすべて取得した」とコメントしています。
全長50m、搭乗員100名の超大型宇宙船
本連載でも何度か取り上げてきましたが(関連記事)、このスターシップは全長が50mにもなる宇宙船で、完成すると搭乗員100名、または100トンのペイロード(荷物)の搭載が可能とされています。地上から打ち上げるための超大型ロケット「スーパーヘビー」が接続されると全高は120mにおよび、史上最大の打ち上げシステムとなります。
スーパーヘビーの推力によって地球周回軌道へ打ち上げられたスターシップは、軌道上でスーパーヘビーを切り離し、自ら搭載したロケットを噴射して他の天体へ航行します。そして、スターシップ本体から着陸機を切り離して降下させるのではなく、スターシップ自体がそのまま月や火星に離着陸するという、かつてない宇宙輸送システムとなります。
巨大イカのような形状の理由
スペースX社のウェブサイトには、火星の大気圏にスターシップが突入する際のシミュレーションCG動画がアップされています。これを見ると、大気圏突入から着陸までの間に、これまでの宇宙機にはない複雑なマニューバを行うことが理解でき、同社が水平姿勢での降下テストを行った理由がわかります。
CG動画では簡略化されていますが、この複雑なマニューバを行うために必須なのが、イカのような4つのフラップで、今回のテストでは、それがはじめて稼働し、有用性が実証されました。
【火星着陸のシミュレーション動画】
スペースX社が独自開発したラプター・エンジンによる上昇、予定高度でのエンジン停止、水平姿勢での降下、着地ポイントへの正確な誘導、そして、エンジン再点火に必要な燃料タンクの切り替えに成功したことにより、イーロン・マスク氏は「スペースXチーム、おめでとう!」ともコメントしています。
唯一の失敗は着陸ですが、その理由として、降下以後に切り替えた上部燃料タンクの圧力が十分ではなかったことが挙げられています。
宇宙船を火星へ飛ばすには、2年に一度訪れる打ち上げタイミング「打ち上げウィンドウ」を待つ必要がありますが、今回のテストに先立ってイーロン・マスク氏は「2024年から有人火星探査を開始し、火星への軌道投入を10回行えば、2050年までに火星に都市をつくることが可能だ」と言っています。
【スターシップの運用がわかるCG動画】
【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら