大変革期のモビリティ業界を読む

トヨタが“街”をつくる…自動運転の電気自動車が走る近未来都市とは

楠田悦子

ホンダは自動運転レベル3の車を市販へ

 今年のモビリティ業界を象徴しているのは、自動車の最先端テクノロジーの発表の場となっているアメリカ・ラスベガスの家電見本市「CES」で、トヨタ自動車の豊田章男社長が実証都市「コネクティッド・シティ」を静岡県裾野市に作ると発表したことでした。網の目のように道が織り込まれた街の姿をイメージし、「Woven City」(ウーブン・シティ)と命名されました。

トヨタ自動車の実証都市での運行が計画されている「e-Palette」(同社提供)
トヨタ自動車の実証都市での運行が計画されている「e-Palette」(同社提供)
トヨタ自動車の実証都市での運行が計画されている「e-Palette」(同社提供)
トヨタ自動車の実証都市での運行が計画されている「e-Palette」(同社提供)

 2年前の「CES2018」でトヨタは、移動、物流、物販などが多目的に活用できるモビリティサービス(MaaS、マース)専用の次世代電気自動車「e-Pallet Concept(イー・パレット・コンセプト)」を発表しましたが、今月22日にはついに実用化に向け、そのサービス提供を支える運行管理システムが公開されました。

 自動車業界の大変革のポイントはConnected(つながる)、Autonomous(自動化)、Shared and Service(サービス)、Electric(電動化)。頭文字から取ったワードが「CASE」(ケース)です。e-Palletはこの大変革の4つのポイントを満たします。トヨタが独自に作る都市で街の移動や物流を担うというニュースは、国内外に非常に大きなインパクトを与えました。

 実はまだ、限られたエリアでドライバーが不要となる自動運転レベル4の国産電動バス車両はありません。現在の自動運転バスの実証実験は、既存のバスを改造したり、フランスなどの海外メーカーから輸入してきたりしたものでしたから、e-Palletの登場が待望視されていたのです。

 e-Palletが走るWoven Cityをトヨタが作るというビッグニュース以降、国内の注目は「都市」へと移りました。トヨタは、あらゆるモノやサービスがつながる都市の呼び方を、自動車を意識して「コネクティッド・シティ」と言っていますが、一般的には「スマートシティ」と呼ばれています。

 本田技研工業(ホンダ)は11月、自動運転レベル3の自動車が、国が定める保安基準に適合し(型式認定)、生産や販売ができるようになったと発表しました。これは自動車メーカーのみならず、国土交通省や警察などの関係機関が力を合わせて進めてきた世界に先駆けた成果で、日本にとって誇るべきことです。自動運転レベル3とは、高速道路の渋滞時など決められた条件の中で、自動車のシステムがドライバーに代わって運転操作を行うものです。レベル3の車両には、交通状況を監視したり、ドライバーが運転しないといけない状況を知らせたりする自動運行装置「トラフィックジャムパイロット」を付けることや自動車のシステムが運転操作を行っていることを示す「AUTOMATED DRIVE」のステッカーを車体後部に貼ることが求められています。

 ホンダの自動運転レベル3の自動車は「LEGEND」(レジェンド)で、今年度内の発売が予定されています。来年の春以降は「AUTOMATED DRIVE」のステッカーを目印に、LEGENDを探してみてはいかがでしょうか。

 11月26日からは茨城県の境町で国内で初めて自動運転バスの定期運行も始まっています。ソフトバンク子会社のBOLDLY(ボードリー)とマクニカの協力を得て、フランス製の自動運転バス「NAVYA ARMA」(ナビヤ・アルマ)を3台購入。生活の足を担う自動運転バスが誕生したのです。

電車“痛勤”は「3密」のビジネスモデル

 新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインを活用したテレワーク(在宅勤務)が推奨されるようになりました。これは、郊外から都市部に向けて、朝夕の同じ時間に通勤・通学する人を対象に、1車両にできるだけ多くの人に乗ってもらう、いわば「3密」となるビジネスモデルを作ってきた日本の公共交通事業者に大打撃を与えました。

 東京などの都市部の企業で働く会社員の出社頻度は、「週に2~3回」や「1カ月に1回」に減り、中には「8カ月ぶりに出社した」という人もいます。公共交通の通勤手当を見直し、それをテレワークの手当てに回す動きも出ており、公共交通機関を利用する人は、コロナ禍前の8割前後までしか戻らないと言われています。定期券収入で安定的な経営を行ってきた公共交通事業者は、「ニューノーマル」な生活様式に対応したビジネスモデルの構築が求められています。

 ただ、新型コロナウイルスの影響は移動手段や地域によって大きく異なる点を抑えておく必要があります。健康上の影響を鑑み、都市部に在住する人々が選択した移動手段は、徒歩や自転車でした。それまで都市部の企業は、通勤中の交通事故を心配するなど、自転車通勤を認めない傾向がありました。今年は自転車に乗る人が増えたようで、東京のある自転車販売店では「需要に対して供給が追い付いてない。来年は半年売る自転車がない」というほど自転車が不足しているようです。

 一方、公共交通が発達していない地域での主な移動手段は自動車です。地方ではコロナの感染者が都市部に比べて少なく、テレワークの導入もそれほど進んでいない印象があります。コロナの流行にあまり左右されなかった地域も多くあるのです。暮らしや移動の変化は地域ごとに読み解いていく必要があります。

 菅義偉首相は所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、カーボンニュートラル(中立)、脱炭素社会を目指すと宣言しました。海外ではガソリン車の販売を禁止する動きもあります。国内でもモビリティ業界の当面の注目キーワードになりそうです。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら