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レス時代の暮らし(下)~新しい仕事様式~ 始まった画面越しの名刺交換

 人との接触を減らすことを前提にしたウィズコロナの日常では、人に会うのが仕事とされる営業職でも出張や取引先と対面する機会が減った。代わりにオンライン上での商談が増え、同時に、名刺の交換で新しい様式が浸透を見せ始めた。

■画面越しに名刺を送る

 「はじめまして。お世話になります。私、USEN法人営業統括部の成伯(なりき)と申します。ごあいさつ代わりといってはなんですが、名刺をいったんオンラインでお送りさせていただければと思います」

 7月初旬、店舗向け総合支援サービス企業「USEN」(東京)の会議室。遠方の相手とオンライン会議システムでつないだ商談で、法人営業統括部の成伯真紀子統括部長はパソコン画面の「向こう側」にいる取引先に、自分の名刺をダウンロードできるURLを送った。取引先とは初の顔合わせだったが、オンライン名刺についての話題でしばし談笑。その後、和やかな空気感で商談に入った。

■オンライン会議で「一体誰?」

 営業のスタイルは、「名刺交換から始まる」と成伯さんは話す。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、USENでも4月以降、オンライン商談が増加。同時に、名刺交換がないために生じる不便さもあった。例えば、初対面の相手の名前や肩書の確認だ。

 「(対面では)お名前をうかがいながら横目でいただいた名刺を眺めて役職を確認できた。(オンライン商談では)それができないジレンマがあった」

 また、営業企画部シニアマネージャーの大田勇樹さんにもこんな経験があった。「オンライン会議で事前に予定されていなかった参加者が増えたけれど、マイクもオフ、カメラもオフ。一体誰だったのかと思うこともあった」

 そんな中、6月に名刺データ管理サービス会社「Sansan」が法人向けにオンラインの名刺交換サービスを開始。USENでも活用を開始した。

■新たなスタンダードに

 Sansanの法人向けオンライン名刺交換機能はサービス開始数カ月で約3000社以上が利用。名刺をスキャナーなどでシステムに取り込んでおくと、オンライン会議の際などに、相手に自分の名刺をダウンロードできるURLを送ることができる。相手が名刺を簡単に送り返せる仕組みもついている。「商談のアイスブレーク(話のきっかけ)になるツールが名刺」と広報担当者。今後利用場面が広がると見る。

 デジタル化はされても、名刺自体はなくならないだろう。USENの大田さんは、オンライン名刺を、新たな仕事様式に必要な道具だととらえてこう言った。「コロナ禍がおさまった後も、対面ではなく、そのままオンライン商談でいいよというお客さまも出てくると思う。新しい(働き方の)スタンダードにオンライン名刺が入ってくる」

 コロナ禍が進めた職場慣行の改革は、令和3年も続きそうだ。 (津川綾子)