まさかの法的トラブル処方箋

違和感を覚える養育費強制徴収の動き 結婚が破綻…そこに潜む法律の“罠”4

上野晃

 家庭裁判所の機能不全

 ここ最近、養育費にまつわる議論が活発に行われています。政府の男女共同参画推進本部というところが、「子どものための養育費の取決めの確保に関する法律案」というものを審議し、今後、法律化していこうと考えているそうです。その内容は概ね、養育費をきちんと徴収するための法律的な手立てを整備しようというものです。養育費を不当に払わない人物に対してきちんとその養育の義務を果たすべくお金を徴収するという考え自体に、私は反対しません。しかし、家庭裁判所の現場を嫌というほど目の当たりにしている私にとっては今のこの動き、すごく違和感を覚えるのです。その違和感の正体について、今回お話をしようと思います。

 離婚について話がまとまらない場合、家庭裁判所がその調整を行います。ところでこの家庭裁判所、現状、適切に機能しているとは、とてもではないですが言えない状況にあります。特に幼い子供がいるケースの離婚ではその機能不全ぶりは顕著です。

 日本では昨今、夫婦の別居離婚に伴う親子の離別が問題視され、メディアなどでもしばしば取り上げられています。夫婦の別れが親子の別れになるという日本の現状。これは海外では考えられないことです。なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。そこには、「継続性の原則」と呼ばれる家庭裁判所の運用の問題があります。

 「継続性の原則」とは、子供の親権者・監護権者を決定するにあたり、子供が今いる家庭環境を重視する原則を言います。つまり、先に子供を連れて家を出て行った者が親権者となることを約束されるのです。この原則がある限り、子供を連れて行った親が、連れて行かれた親よりも圧倒的に優越的立場に立つことになり、面会交流をする、しないも、この親次第ということになるのです。

 この日本の現状について、欧米先進国をはじめ各国から激しい非難が浴びせられていることは、前回までのコラムでもお話しした通りです。欧米先進国は、この日本の現状を子供の人権侵害とみています。

 いずれにせよ、養育費を語る上でこの親権監護権及び面会交流の悲劇的現状を無視するわけにはいきません。「養育費と面会交流は別の話だ」と言う人もいます。しかし、それは明らかに間違った考えです。養育費と面会交流は車の両輪のようなもので、片一方だけが機能していたのではまっすぐに進みません。両方が十分に機能して初めて子供の福祉を実現できるのです。

 養育費支払いを拒絶する男性たちの本音

 「養育費の支払いを拒絶する男性たち」と聞いて、皆さんはどんな男性をイメージするでしょう。妻子を捨てて他の女に走った男? ドメスティックバイオレンス(DV)を繰り返した結果、妻子に逃げられてしまった男? もちろん、そういう男もいるでしょう。しかし、実際のところはこういう許しがたい男ばかりではないのです。私の事務所に来て涙ながらにこんなことを訴えかけた男性がいます。

 妻が男を作って家を出て行きました。子供も連れて。妻は私と子供を会わせようとしません。おそらく子供が私に懐いていることを知っているから会わせたくないのでしょう。裁判所に面会交流を求めたら妻は私にDVを受けていたなどと言い始めました。

 もちろん、私はDVなどしていません。裁判所も妻の言い分を信じているわけではなさそうですが、妻が面会交流に激しく抵抗している現状では、どうすることもできないと言っています。

 そんな中で、妻は婚姻費用の支払いを求めてきました。私は大手の会社に勤めているので高収入です。裁判所の算定表に従って計算すると、婚姻費用は28万円にもなりました。このまま子供と会えずにただただ毎月28万円も支払い続けなければならないと思うと、悔しくて悔しくて…。あまりの不条理にこみ上げてくる怒りをどこにぶつけて良いかも分かりません。

 こんな状況で、それでも私は婚姻費用を支払わなければならないのでしょうか。もし支払わなければならないというなら、私はどんな手段を使ってでもそれを拒否したいと思っています。実際、会社を辞めることも考えています。会社を辞めて無職になりさえすれば婚姻費用を払わずに済むのですから。

 この方は、最終的に仕事を辞めてフリーランスになりました。果たして皆さんは、この人のことを「とんでもない男だ」と糾弾できるでしょうか。

 少なくとも、私にはできません。不条理に子供と引き離されたままお金だけ払えと言われることは、親として、人としての尊厳を踏みにじられることだとさえ思えます。

 考えてみてください。皆さん、ただただ生涯の義務を背負い込むためだけに子供を望み、子供を作ったのですか? 違いますよね。ご自身が幸せになるためでしょう。

 離婚した結果、親権を失った親だけが、「親としての義務だけ果たしなさい。子供との関わりを通じた自身の幸福はあきらめて」などと何故(なにゆえ)に言われなければならないのでしょうか。また、そのようなことを上から目線で言える人など、一体どこにいるのでしょうか。

 克服すべき親子の離別の問題

 先ほどもお話しした通り、私は養育費を確保するために様々な政策を講じることそれ自体、反対するものではなく、むしろ大賛成です。しかし、「養育費を支払わないのはけしからん」と言う前に、わが国にはやるべきことがあると思います。別居・離婚に伴う親子の離別の問題の解決です。

 この問題を解決することで、養育費をむしろ率先して支払うようになる人が、私の肌感覚ではかなりの数います。まず、彼らを救うべきです。そして、親子の離別の問題が克服されてなお、養育費の支払いを拒んでいる者がいたら、それは間違いなく不届き者でしょう。その時はあらゆる手段で彼らから養育費を徴収すべきです。

 かつて、南アフリカで「アパルトヘイト」という有色人種差別法がありました。この制度の下で生活する黒人たちの中には、バスの運賃の支払いを拒絶する人がいたそうです。その中には、アパルトヘイト制度に反対の意思表示として拒絶する人もいましたが、単なる無法者もいました。彼らを一緒くたにして罰して良いでしょうか。

 いや駄目でしょう。まずは、アパルトヘイトを廃止しなければ。廃止してなお、バスの運賃を支払わないのは無法者だけです。無法者をあぶりだすために、悪法を改める必要があるのです。それをしないままに違反者を罰することは、国が人権侵害に手を貸すことになってしまいます。絶対にやってはいけません。

 親子の関係を断ち切らせている今の制度のまま、養育費の強制徴収だけ推し進めていこうとする今の流れは、国が人権侵害に手を貸す結果となるということにも留意しなければなりません。

神奈川県出身。早稲田大学卒。2007年に弁護士登録。弁護士法人日本橋さくら法律事務所代表弁護士。夫婦の別れを親子の別れとさせてはならないとの思いから離別親子の交流促進に取り組む。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師を務めるほか、共著に「離婚と面会交流」(金剛出版)、「弁護士からの提言債権法改正を考える」(第一法規)、監修として「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)。那須塩原市子どもの権利委員会委員。

【まさかの法的トラブル処方箋】は急な遺産相続や不動産トラブル、片方の親がもう片方の親から子を引き離す子供の「連れ去り別居」など、誰の身にも起こり得る身近な問題を解決するにはどうしたらよいのか。法律のプロである弁護士が分かりやすく解説するコラムです。アーカイブはこちら