1966年以降、80機以上の宇宙望遠鏡や天文観測衛星が打ち上げられ、そのうちの20機以上が現在も軌道上で運用されています。そのなかでもっとも古いのは1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡で、2020年に30周年を迎えました。そして、今年2021年10月には、ハッブルの後継機である「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が打ち上げられる予定です。今回は、宇宙望遠鏡にまつわる話題をご紹介します。
0.002ミリの歪みが招く結果
ハッブル宇宙望遠鏡がスペースシャトルのディスカバリー号(STS-32)から初めてリリースされた当初は、レンズの製造時に生じたわずか0.002mmの歪みによって、想定されていた画像解像度が得られませんでした。
しかしその後、5回にわたるシャトル搭乗員の船外活動によってメンテナンス作業や搭載カメラの交換などが行われ、かつてない画像撮影が可能となり、現在に至るまで数多くの天文学的発見を続けています。
合成してはじめて見える天体の「真の姿」
ハッブルは、NASAが1990年から推し進めた4機の宇宙望遠鏡による「グレート・オブザバトリー計画」の最初の1機です。「コンプトンガンマ線観測衛星」(1991年)、「チャンドラ」(1999年)、「スピッツァー宇宙望遠鏡」(2003年)がそれに続きます。
これら4機は撮影する電磁波の波長がそれぞれ異なります。
ハッブルは可視光線と紫外線と赤外線、コンプトンはガンマ線、チャンドラはX線、スピッツァーは赤外線を撮像。それらデータを視認できるようにイメージング処理を施し、ときに合成することによって、人類がはじめて見る天体の姿を提供しています。
ハッブルが捉えた可視光線画像では恒星が発する「光」しか見えませんが、そこにチャンドラのX線やスピッツァーの赤外線のイメージング画像を加えることで、天体周辺の物質の流れや、光を発しない宇宙空間の塵なども撮像することができ、銀河や星雲、星団をより立体的に見ることができ、その構造がより理解できます。
グレート・オブザバトリー計画における4機の宇宙望遠鏡のうち、コンプトンガンマとスピッツァーはすでに運用が停止されていますが、全長13.2mのハッブル宇宙望遠鏡は平均高度約600kmの地球周回軌道上を航行し続けていて、「Space Station AR」など、人工衛星を追跡するスマホアプリを使用すれば地上からも肉眼で観察することができます。
なぜ宇宙空間へ望遠鏡を打ち上げるのか?
天体を地球から見た場合、星は大気の揺らぎによって瞬きますが、宇宙空間から観測した場合、星は瞬かず一定の光度を保つため、観測の精度が上がります。また、地上からでは主に夜、そして雲のない状況でしか観測できませんが、宇宙望遠鏡にその制約はありません。
また、可視光線はその波長のほぼ全域が地上まで届きますが、何光年も離れた天体から降り注ぐガンマ線、X線、多くの紫外線と赤外線は大気に吸収されてしまい、地上で観測するには限界があります。こうした制約から逃れ、天体を詳細に観測するには宇宙望遠鏡以外に手段はありません。人類は数千年にわたって星を観測してきましたが、宇宙望遠鏡によって近年やっとその真の姿を観ることができるようになったのです。
ちなみに、電波は大気に遮蔽されることなく地表に届くので、電波望遠鏡は地上に建設されます。そのため「電波観測衛星」は、ごく稀な存在です。
太陽光を地球で遮断 10月に打ち上がるハッブルの後継機
ハッブル宇宙望遠鏡は、姿勢を制御するためのフライホイールが故障するなどにより、一時は使用できない状況にも陥り、老朽化が進んでいます。そのためNASAはハッブルの後継機となる「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」を今年10月に打ち上げる予定です。
ノースロップ・グラマン社が開発製造するジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線観測用の宇宙望遠鏡で、ハッブルが地球周回軌道上にあるのに対し、ラグランジュ点(L2)という特殊な軌道ポイントに配置されます。この軌道は、太陽と地球の重力が釣り合った結果生まれるポイントで、太陽に対して地球の裏側に留まることができる空間であり、つまり地球と一緒に太陽を周回します。このラグランジュ点に宇宙望遠鏡を配置することで太陽光を地球で遮り、また、地球から150万km離れることによって、地球が発する赤外線の影響からも解放されるわけです。
主目的は、「宇宙に最初に生まれた星」
このジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、人類初の試みとなる「ファースト・スター」の観測を主な目的としています。
これまでに観測されたもっとも古い光は130臆年まえのものだと言われています。つまり、130億光年彼方の遠い宇宙で、130臆年前に発せられた光が、やっと地球に届き、それを観測したことになります。宇宙が誕生したビッグバンは138億年まえの出来事とされているので、その光はビッグバンの8臆年後に発せられたことになりますが、このジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はビッグバンの2臆年後、宇宙空間に最初に生まれた星「ファースト・スター」を観測しようとしているのです。
それ以前の宇宙はあまりに温度が高いため、原子の原子核と電子がバラバラになり、原子としてのカタチを保てません。そのため天体はまだ存在せず、光を発する物質もなく、バラバラの原子とダークマター(暗黒物質)しか存在していなかったと考えられています。
【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら