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食文化の神髄 支え続け 香川県・小豆島 小林希

 瀬戸内海国立公園の中心地にあり、淡路島に次いで大きい香川県の小豆島(しょうどしま)。宿泊施設や観光名所などが充実しており、「瀬戸内海の都市」とも称される。

 日本三大渓谷美の一つである寒霞渓(かんかけい)をはじめ、山がちの島は山岳信仰の修行地で、弘法大師も立ち寄ったとされている。江戸時代には小豆島八十八カ所霊場が設けられ、多くの巡礼者が渡島するようになった。隠れキリシタンが潜伏していた時期もある。

 島中央部には、「日本の棚田百選」に選ばれた風情ある田園風景が広がり、そこで300年ほど前に始まった農村歌舞伎は今でも伝承されている。

 多彩な顔を持つ小豆島は、日本の食文化の礎も築いている。小豆島町内海(うちのみ)地区の「醤の郷(ひしおのさと)」は、しょうゆの蔵などが軒を連ね、香ばしい匂いが鼻に届く。400年以上前に、酵母菌培養に適した温暖な気候と、盛んだった製塩業や海運業などによってしょうゆづくりが始まった。

 「ヤマロク醤油(しょうゆ)」5代目の山本康夫さんに、仄(ほの)暗い蔵の中を案内してもらった。年季の入った巨大な木桶では、時間をかけて茶色いもろみが発酵している。現在、木桶仕込みで生産している蔵は全国でわずか1%。しかし、国内で巨大な木桶を作る職人はいなくなってしまった。山本さんは「最後の木桶職人に一時、弟子入りをした。自分は次世代のために木桶をつくるのが使命だ」と語る。

 失われゆく“本物”のしょうゆは、日本の食文化そのものだ。ユネスコ無形文化遺産となった和食の神髄は、こうした本物を守り継承していくことにある。

 温暖少雨で水はけのよい気候風土である小豆島は、日本のオリーブ発祥の地でもある。島内では、農園だけでなく、街路樹や民家の庭先でオリーブの木が見られる。「小学校に入学するとオリーブの苗をもらい、家の庭に植えます」と地元の人はいう。人生の節目を祝い、オリーブと子供がともに育つ。栽培出荷のためだけでなく、人の暮らしの中に溶け込んでいる。

 他にも約400年続く手延べそうめんと、原料となるごま油の生産も歴史が古い。そうめんの箸分け体験やオリーブの収穫体験などを通して、旅行者にも食文化の価値が伝えられている。

 栄枯盛衰を経て途絶えてしまう文化や伝統が多いなか、小豆島では先代の誇りと匠の技が、しっかりと息づいているようだ。

 ■アクセス 高松港(香川県)、新岡山港(岡山県)、神戸新港(兵庫県)など各地からフェリーや高速船が運航している。小豆島には土庄(とのしょう)港、福田港など複数の港がある。

 ■プロフィル 小林希(こばやし・のぞみ) 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。1年後に帰国して、『恋する旅女、世界をゆく-29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマに執筆およびフォトグラファーとして活動している。これまで世界60カ国、日本の離島は100島をめぐった。令和元年、日本旅客船協会の船旅アンバサダーに就任。新著は『今こそもっと自由に、気軽に行きたい! 海外テーマ旅』(幻冬舎)。