齊藤義明氏『イノベーターはあなたの中にいる』
野村総合研究所 未来創発センター2030年研究室長・齊藤義明氏
『イノベーターはあなたの中にいる 創造的起業家に変わる体験のデザイン』
地域深耕に貢献 部分的人格を引き出す
私が所属する野村総合研究所「2030年研究室」は2012年9月の発足当初から、日本の未来を創る尖(とが)った切り口を持つ100人の革新者(イノベーター)を発掘しネットワーク化するプロジェクトを始めました。
このネットワークを地方創生に生かしたいと考え、15年に革新者たちと一緒に地方創生のための「イノベーション・プログラム」を開始、ローカル・イノベーターの覚醒と増殖に取り組んできました。
地方創生は「普通の人が創造的起業家に変わる」ことがカギを握るからです。イノベーターは特殊な人間ではなく、誰の中にも部分的人格として存在しています。その人格を引き出すために取り組んできました5年間の実践を本書に凝縮しました。
プログラム参加者は当初、心はもやもや、アイデアはふわふわ、やる気はあやふやでも、革新者と出会い、そのビジネスモデルだけでなく価値観や人間性に触れ、衝撃を受け、創造的起業家に変化していきます。眠っていた潜在的力が引き出されるのです。創業は難しくても、参加者が集まってつながり、地域にコミュニティーが生まれるのも地方創生につながります。
現在、イノベーション・プログラムは全国4圏域に拡大、各地にイノベーターのるつぼが形成され始め、地域に500人超の創造的起業家を輩出、20法人・100プロジェクトが活動中です。
サイズは小さく、拡大志向も弱い「ちっぽけな起業家」が圧倒的に多いのが実情です。成長とキャピタルゲインの原理で動くベンチャーというより「ディーパー」、つまり地域の魅力を深耕し自分らしく生きる原理によって動く起業家です。ディーパー同士が触発されたり、コラボしたりして新事業も生まれており、手応えを感じています。
ただ新型コロナウイルスの影響でイノベーション・プログラムはこれまでのリアル(対面・集合型)だけでなく、リモート(非対面・非接触)とのハイブリッドに切り替える必要があります。また5年間の成果として運営も地域で自立自走化できるようになりましたので、われわれが関与する部分とのハイブリッドで開催していきます。
この2つのハイブリッドを駆使し地方創生をもたらす創造的起業家集団を全国各地に創り、挑戦する価値を共有していきたいと考えています。(1800円+税、東洋経済新報社)
【プロフィル】齊藤義明
さいとう・よしあき 北海道大卒。1988年野村総合研究所入社。ワシントン支店長、コンサルティング本部戦略企画部長などを経て、2012年未来創発センター2030年研究室長。北海道出身。現在は地方創生のための「イノベーション・プログラム」の開発者として全国を飛び回る。100人以上の革新者(イノベーター)たちと親密なネットワークを持つ。著書に『日本の革新者たち』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『次世代経営者育成法』(日本経済新聞出版社)、『モチベーション企業の研究』(東洋経済新報社)など。