一般家庭の4日分を供給
東日本大震災から10年を迎える直前に福島県と宮城県を震度6強の地震が襲った。新型コロナウイルス流行で「3密」回避を強く求められる中、昨年9月に九州を襲った台風10号では、九州全域で約46万世帯が2日間停電し、避難所生活を送った人も多い。電気がなければ、スマートフォンの充電や照明を点けたり、料理を作ったりといった日常生活を送ることが全くできなくなる。各家庭で停電しても電気を確保する方法が求められている。
身近になってきているHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)が1500Wの家庭用の電気を確保できる“発電機”として使えることをご存じだろうか。EV(電気自動車)が家庭や避難所に給電できることは、普及目的に広報活動が大規模に行われたために知っている人も多いだろう。しかし、意外に知られていないのが最近市販されているHVやPHVも同様に家庭や避難所に給電できる機能(外部給電機能)がオプションで付けられたり、新しいモデルには標準装備されたりしていることだ。
今一度、自分のHV、PHV、EV、FCV(燃料電池車)の外部給電機能について調べたり、使う練習を行ったりする必要があるだろう。また新車を購入する際に、外部給電機能が付いているか確認し、付いていない場合は4万円程度のメーカーオプションを付けてほしい。
どれくらい持つのかというと、満充電、ガソリン満タン時には、一般家庭の約4日分の電力を供給できるのだそうだ。ガソリンを燃料にして発電し、電池に貯めながら出力ができる。ただし、各家電の消費電力は、携帯電話10W、照明60W、電気ポット1400W、炊飯器600W、暖房器具800W、テレビ500W、パソコン100Wなので、1500Wを超えないように組み合わせる必要がある。
震災契機に増えた外部給電機能
2011年の東日本大震災で、クルマの外部給電機能が注目され始めた。HVやPHVの外部給電機能については、特にトヨタが力を入れており、2012年にプリウスPHVにはじめて外部給電機能が搭載され、2015年のプリウスフルモデルチェンジに合わせて、他のHVにも外部給電機能が付いてくるようになってきている。
外部給電が付いているトヨタの車種は、カローラ、カローラスポーツ、カローラツーリング、RAV4、RAV4 PHV、ハリアー、C-HR、ヤリス、ヤリスクロス、アルファード、ヴェルファイア、エスクァイア、ノア、シエンタ、クラウン、カムリ、プリウス、プリウスPHV、プリウスα、MIRAI、C+podなどだ。詳しくはトヨタの「クルマ救電」のHPを見て欲しい。
トヨタのクルマだけではない。三菱自動車のアウトランダーPHVやi-MiEV、ホンダのオデッセイハイブリットやクラリティ、日産リーフなどにも外部給電機能がついている。
豊田市のSAKURAプロジェクト
災害時に役立つ外部給電機能が付いたクルマを普及させる取り組みを行っている自治体がある。愛知県豊田市だ。給電機能を持つクルマ1台をひとつの桜の花びらに見立てて、桜の花びらを全国に咲かせて満開にし、災害に強い国を目指す活動「SAKURAプロジェクト」を展開している。
市民に「防災」の視点でクルマを選んでもらったり、災害時に避難所となる体育館に外部給電機能がついたクルマから電気を供給できるコネクタを装備したり、万が一の時に備えている。
豊田市企画政策部未来都市推進課の中神泰次課長は「HVやPHVの外部電源の機能についてまだまだ知られていない。トヨタが国内で販売するハイブリッド車などの電動車は年間約64万台で、もしこの64万台すべてに外部給電機能がつけられると約100万kW(64万台かける1500W)が確保でき、原子力や火力などの発電所1基分に相当する。つまり毎年発電所1基分の非常用電源が全国に分散配置されることを意味する。外部給電機能が付いたクルマを1人でも多く保有し、使える状況にすれば、災害に強い日本ができる」と訴える。
2019年の台風15号による千葉を中心とした地域での停電被害を受けて、経済産業省と国土交通省「災害時における電動車(HV、PHV、EV、FCV)の活用推進マニュアル」(2020年7月)をまとめている。給電時の注意事項などの記載があるので参考にするとよい。
これからガソリン車が減りHVやPHV、そしてEV、FCVがますます普及するため、各家庭で非常用電源が確保できるようになる。しかし問題はこの機能についてまだまだ知られていないことだ。クルマの機能について改めてカーオーナーが把握するとともに、豊田市のように自治体や国でも積極的な活用を検討していく必要があると感じる。
【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら