5時から作家塾

需要が急増中、コロナウイルスから子どもを守る注目のアプリ

吉田由紀子

 いまだ収束の見込みが立たない新型コロナウイルス。2度目の緊急事態宣言が発令されたが、今回は一斉休校を行わない方針だ。そうなると、保護者が子どもの感染を心配するのは当然だろう。

 現在、小中学校では毎日、生徒一人ひとりの検温を行い、体調に異常がないかを確認。その結果を手作業で紙に記録をしている。時間がかかる上に教師にとって大きな負担になっている状態だ。

 その負担を減らすために開発されたアプリが、いま全国で注目を集めている。医療相談アプリの『LEBER for School(リーバー・フォー・スクール)』だ。

 どういったアプリなのか、仕組みを説明しよう。まず毎朝、家庭で子どもの体温を計測してスマホアプリに入力する。結果は教師と保護者が共有できるようになっており、子どもの状況を随時把握することが可能だ。自動的にグラフ化される機能が搭載されており、日々の変化も一覧できる。

 このアプリを使えば、教師や保護者の作業を大幅に削減できるとあって導入する学校が急増している。

 昨年11月、茨城県かすみがうら市は、市内の小中学校に一斉に導入を決めた。その一つ、市立下稲吉小学校の松信登校長に現状を聞いてみた。

 「以前は、家庭で記入した健康観察表を児童が毎朝学校に持参していました。担任教師は朝早く出勤をしなければならず、児童も行列を作って提出するような状態でした。そのため教育委員会から紹介されたLEBER for Schoolの導入に踏み切ったのです。保護者の方からは、使い勝手が良い、もう紙に書く必要がないので助かった、と大変好評をいただいていますし、教職員の負担も減り、授業に集中できるようになりました。教育現場に非常に役立つアプリだと思います」と利便性を話してくれた。

 「当校はスクールバスで通学する生徒が多いのですが、コロナ感染を予防するため、1度の乗車人数を減らし、ピストン輸送を行っています。第1便が学校に到着するのが朝7時30分。校舎に入る前に検温しており、生徒も教職員の大変でした。アプリを使用するようになってからは余裕ができ、教職員の時間外勤務も解消されました。保護者の皆さんもきちんと入力していただいています。パソコンで生徒の体温や体調が把握できるようになり、大いに助かっています」と話してくれたのは、市立霞ヶ浦中学校の塚谷吉行校長。

 アプリ上で完結しコスト削減、6カ国語に対応

 教育現場で活躍するこのアプリ、開発したのは株式会社リーバーという医療ベンチャー企業である。代表取締役の伊藤俊一郎さんに開発の経緯をうかがった。伊藤さんは心臓外科の元専門医であり、現在は数多くのクリニックや老人ホームを運営している。

 「コロナウイルス感染対策として、老人ホームの入所者や職員に毎日体温を測るようにとの通達が厚生労働省からありました。その時、これは学校や幼稚園などの教育現場でも必要になると思い、開発に着手したのです。子どもの体温はどの学校でも紙に手書きをしている状況でしたので、もっと便利にできないかと考えてアプリという手段を選びました」(伊藤俊一郎さん、以下同)

 2020年6月から全国の小中学校への導入が始まり、現在約600校がLEBER for Schoolを利用している。

 「アプリには検温時刻を設定できる機能があり、毎朝通知が届く仕組みになっています。体温を入力するまで何度も通知が届きますので忘れずに計測できます。また、体温をグラフ化できるので、保護者にも担任の先生にも体調の変化が一目で分かりやすくなっています。さらに通学している学校の感染症の流行状況もリアルタイムで把握することが可能です」

 アプリ上で完結するため、紙に印刷する必要がなく、コスト削減にもつながっているという。

 使用料は、児童・生徒・先生1人あたり月額10円(税別)と格安になっている。また、オプションとして医師へ相談できる機能もある。万が一、子どもの体調が悪くなった場合は、チャットで相談すれば、最短3分で医師が適切な対処法や市販薬を教えてくれる。さらに外国籍の子どものために日本語に加え、英語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語、ヒンディー語の計6カ国語にも対応している。

 医師の過重労働を軽減したい

 株式会社リーバーは、学校用アプリだけでなく、2018年から一般向けや企業向けの医療相談アプリを開発・運営している。なぜアプリを開発したのか? その理由を伊藤さんはこう話す。

 「17年間医師として働いてきましたが、近年、医療現場は常に過重労働に苛まれ、当直を終えてそのまま次の日も働くことも常態化し過酷な現場が少なくありません。勤務中に突然死する医師も散見されます。こういった医師の負担を減らしたいと考え、2018年に遠隔医療アプリを開発したのです。いま体調不良が生じ病院を訪れる人のうち、本当に治療が必要なケースは10%程度だと感じています。市販薬で対処できる場合が多いのが現状です」

 来院の必要がない軽症者に対しては医療相談アプリで支援を行い、その一方で重篤な患者には早めの受診を促し適切な治療を行う。そういったバランス配分で医師の過重労働を軽減するのが目的である。

 図らずもコロナウイルスの蔓延により、同社の医療相談アプリを感染対策として使用する人が急増している。昨年1月時点では8000名だったユーザーが、現在は15万名にまで拡大しているのだ。

 「医療相談アプリによって医師の負担を減らし、学校や企業の業務を効率化することができました。今後は医師が不足している学校保健や産業保健領域にも遠隔医療を広めていきたいと考えています」

 誰もが健康管理に注意している昨今、感染症対策の一環として医療相談アプリを使ってみるのは、有効な手段ではないだろうか。(吉田由紀子/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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