宇宙開発のボラティリティ

2021年は月探査ラッシュ 民間企業が大躍進

鈴木喜生

 人類がはじめて月面に降り立ってから半世紀が過ぎたいま、アポロ計画をはるかに超える規模で「月探査」がはじまろうとしています。月の極地に氷があることが判明した近年、各国は月に向かってかつてないほど探査機や宇宙船を打ち上げようとしていて、月面の長期滞在も現実味を帯びてきています。2021年はそうしたプロジェクトが一斉に開始される予定で、2020年代は史上もっとも月探査が進むタームとなるに違いありません。

 今回は2021年から2024年にかけて実行される月探査計画を紹介していきます。

ロシアが45年ぶりに「ルナ計画」を再開

2021年10~11月 打上予定

 ロシアの無人月面探査機「ルナ25号」の打ち上げが、今年の10月から11月の間に予定されています。この探査機は「ランダー」(着陸機)と呼ばれるタイプのもので質量は1750kg。氷が豊富にあるとされる月の南極へ着陸し、土壌をドリルで掘削して、月の組成を調べ、人類が月に長期滞在するための可能性を探ります。

 かつて旧ソ連は1950年代から「ルナ計画」を実行し、1959年には「ルナ1号」を史上はじめて月上空に到達させることに成功しています。その翌年には「ルナ2号」が月面に衝突し、これが月面に到達したはじめての人工物とされています。どちらもガガーリンの初飛行(1961年)以前のことです。

 その後、NASAの宇宙飛行士が月の土壌サンプルを手で採取している同時期に、旧ソ連の無人探査機「ルナ16号」は、月面サンプルを101kg採取して地球へ帰還しています。さらにその2ヵ月後には、「ルナ17号」が搭載した世界初の無人探査ローバー「ルノホート1号」は月面を10.5km走行し、世界を驚かせました。

ルナ計画は1976年の24号でいったん終了していましたが、今回のルナ25号によって45年ぶりに再開されることになります。月探査で多くの実績を残してきたロシアは近年、あらためて月探査に注力しており、現在ではルナ26号以降の打ち上げも予定。その最終目的を月面基地の建設としています。

米国が半世紀ぶりに月に着陸 「アルテミスEM-1」

2021年11月 打上予定

 人類を再び月へ送り込み、最終的には火星での有人探査を実現しようとしているのが、NASAが主導する「アルテミス計画」です。段階的に進められるこの計画では、まずは今年の11月に無人宇宙船を月周回軌道に乗せるミッション「EM-1(Exploration Mission 1)」が実行されます。NASAはこの計画に臨み、史上最大ともいえる超大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」と、宇宙船「オリオン」を新たに開発しています。

 オリオンは月面から約6万kmという高高度を、月の自転とは逆方向に周回する特殊な「DRO軌道」に投入されます。いまだかつて活用されたことがないこの軌道に投入されるオリオンは、25日ほどで地球へ帰還すると、太平洋に着水して回収される予定です。

 これに成功すれば翌2022年には、有人による月周回軌道ミッション「EM-2」が実行され、さらに2024年には「EM-3」によって、男女からなる2名の宇宙飛行士が半世紀ぶりに月面に降り立ちます。このとき人類ははじめて、地下に氷が眠る月の南極に降り立つことになります。

月軌道プラットフォーム「ゲートウェイ」

2024年5月 打上予定

 ヒトを月面に送り込む「EM-3」では、宇宙船オリオンはまず月周回軌道に投入されますが、そこには月軌道プラットフォーム「ゲートウェイ」が待ち受けています。オリオンがゲートウェイにドッキングすると搭乗員はそこへ乗り移り、すでにゲートウェイに接続されている着陸船に乗り込んで月面に降下します。この月面探査の中継基地となるゲートウェイの建設が、2024年5月以降に開始される予定です。

 ISS(国際宇宙ステーション)の6分の1ほどの大きさのゲートウェイは、モジュールを数回に分けて打ち上げ建設しますが、その第一段として、電気推進エンジンと太陽光パドルを搭載した「PPE」と、与圧される居住モジュール「HALO」が打ち上げられます。当初、これらは別々に打ち上げる予定でしたが、開発スケジュールの遅れを取り戻すため、スペースX社の大型ロケット「ファルコン・ヘビー」によって同時に打ち上げられることが今年2月に発表されています。

 また、NASAは2020年5月に月着陸船の開発メーカーとして米国企業3社を選出しており、ブルー・オリジン社、スペースX社、ダイネティクス社が現在その開発に当たっています。

 スペースXは現在、月着陸船としても使用できる「スターシップ」の打ち上げテストを繰り返しており、その様子が話題となっています。また、ロッキード・マーチン社などと提携して開発を進めるブルー・オリジン社は、月着陸船のモックアップを、すでに昨年8月にNASAに納入しています。

 月着陸船のテストフライトなどの詳細は不明ですが、2024年のEM-3までに再度選考が行われ、3社のうちから最初の着陸機1機が選定される予定です。

かつてなく大量の探査機が月を目指す

商業月輸送サービス「CLPS」とは?

 2021年以降に月探査機が急激に増えることを冒頭で紹介しましたが、それをもたらす最大の要因がNASAの商業月輸送サービス「CLPS」(Commercial Lunar Payload Services)です。

 アルテミス計画の一環としてNASAが展開するこのプロジェクトは、月への輸送手段となるロケット、宇宙船、探査機、着陸機、探査ローバーなどの宇宙機の提案・開発を、在米の民間企業に託すもので、2020年4月時点で14社がNASAと提携。先述した月着陸船の開発メーカー3社もここに含まれます。これら宇宙輸送機を活用して、NASAは月探査・開発を、多角的に、円滑に、低コストで進めようとしています。

 当面は年に2度打ち上げられる予定ですが、すでに2021年から23年の輸送機と、そこに載せるペイロード(荷物)は、ほぼ固まっており、2021年の第一段はULA社のヴァルカン・ケンタウルス・ロケットによって、アストロボティック社の月着陸機が打ち上げられ、ここに探査・研究機器や技術実証機など、NASAの各部署が開発する11個のペイロードが搭載されます。

 スペースシャトルの運用停止以降、NASAは宇宙開発事業における民間委託を進めてきましたが、地球周回軌道上だけでなく、月探査においてもそれが実行されたのがこのプロジェクトです。近年ではスペースX社がロケットの打ち上げコストを大幅に低減してきましたが、このCLPSによって、さらに月と宇宙が身近なものになるに違いありません。

日本のJAXAと民間企業も 2022年に打ち上げ予定

 こうした月探査を目指す世界的な流れのなか、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)も2022年度に「SLIM」の打ち上げを予定しています。これは小型月着陸実証機とよばれ、月や惑星の探査で必要となるピンポイント着陸技術を小型探査機で実証するための探査機です。日本の新型ロケット「H3」によって、当初は2021年度中に打ち上げられる予定でしたが、相乗り機として開発されているX線天文衛星「XRISM」の開発が遅れているため、2022年度中の打ち上げに変更されました。

 また、日本の民間企業ispacによる月面探査プロジェクト「HAKUTO-R」も予定されています。こちらは2022年のMission 1で月面着陸機を打ち上げ、さらに2023年のMission 2では、無人探査ローバーを着陸させる予定であり、これに成功すれば、月面に探査機を到達させた日本初の民間企業となります。

出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら