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歩行者優先の街づくりを目指す三重県四日市市 クルマ中心の都市からの脱却

楠田悦子

 街の主要駅を下車し改札を出て街へ出る。びゅんびゅんと猛スピードで過ぎ去っていくクルマが目に飛び込んでくる。バスやタクシーの乗り場はあちこちに散らばっていて探すのも一苦労だ。中にはつぎはぎの建物の間を、安全な通路を探しながら歩かないといけない所もある。メイン通りは幅広い立派な道路だがどこか閑散としていて、この街の将来がどこか心配になる。そんな街が全国にたくさんあるのではないだろうか。

JR新宿駅に直結する「バスタ新宿」のような交通結節点を増やし、住民や観光客の利便向上につなげる動きが広がりつつある(GettyImages)
四日市港は日本有数の「工場夜景」で知られ、国際貿易港の一つでもある(GettyImages)

 しかし中には大きく変わろうとしている街がある。その中の1つが三重県の四日市市だ。壮大な整備計画を描いており、国土交通省も大きく注目している。

 居心地の良い場所へ変わる道路

 今年3月19日に四日市市は近鉄四日市駅周辺などの整備基本計画中間とりまとめを発表した。近鉄四日市駅からJR四日市駅と、両駅を結ぶ中央通りのエリア一帯を「居心地が良く歩きたくなるまちなか」にしようというもの。バスターミナルの整備と中央通りのエリアデザインがポイントとなっている。

 四日市市は名古屋から電車で30分。三重県で最大の人口を有する都市だ(約31万人)。海に面しており、四日市港は日本有数の「工場夜景」で知られ、国際貿易港の一つでもある。

 市の悩みは、JRと近鉄のちょうど真ん中あたりにある市役所から港側が今は閑散としてしまっていることだ。1970年代は港側のJR四日市駅周辺が栄えていたが、JRと近鉄の駅の距離は約1.2kmと歩ける距離にあるものの少し距離があり、近鉄四日市の駅前に飲食店などが集中してしまっている。またJRと近鉄の間には幅の広い立派な中央通りが通っており、片側3~4車線、中央には大きなクスノキの並木があるのだが、駅周辺に用事はなくスピードを出して通過するだけになっている自動車交通が多いことだ。さらに路線バスの乗り場も点在しており「信号待ちが長く乗り継ぎしにくい」「バスを待つところがない」など通学で使う学生などの公共交通利用者は使いづらさを日々感じている。

 バスターミナルを平屋構造に

 この問題を解決するために市が独自に、路線バスを中心としたバスターミナルの整備を通して、中央通りの人のにぎわいを作ろうとしている。四日市市のバスターミナルの特徴は、JR新宿駅に直結する立体的なバスターミナル(バスタ新宿)と異なり、平屋でつくられる点だ。商店が少なく、人の回遊が少ない地方都市で、大都市と同様に上に積み上げる建物を建ててしまうと、人の動きが駅の商業施設の中に集約されてしまうからだ。バスターミナルを単なるバス乗り場にするのではなく、そこににぎわいや市民の憩いのスペースも作ろうとしている点が、他の地域のバスターミナルと異なる。

 優先順位をつけて「歩く人」中心に

 バスターミナルの整備は中央通りの整備へと話が発展していったのだそうだ。中央通りのエリアデザインの方針には、居心地が良く歩きたくなる空間づくり、歩行者を中心とした交通施設の配置、使いやすく可変性を持った空間の設えなどの目標が掲げられている。欧州では、移動手段の優先順位をしっかりと定めている国は多い。日本ではまだまだ少ないのが現状であるが、歩行者、自転車、公共交通、一般車の順番に優先順位もしっかり定めている。

 この優先順位を原則に、北側の車線は、歩行者に開放し、「通過交通」が多くなっていた自動車の車線を大きく減らす。そしてクスノキの並木を活かしながら、道路を市民がつどう大きな公園に道路を見立てていき、自転車やパーソナルモビリティなどのスローモビリティの専用道も設け、自動運転やドローンなどの次世代技術も積極的に活用していく。

 四日市市の取組みは、多様な交通手段を一体的に提供する「MaaS(マース)」や自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる次世代技術などを背景に集約型公共交通ターミナル「バスタ」を全国展開しようとする国交省に全国で先駆けた事例として高く評価され、同省の「バスタプロジェクト」の候補地に選ばれた。今後、全国の模範的な事例として扱われることになるだろう。森智広市長の肝いりでもある。

 道路の自動車車線を減らして、歩行者中心の街に作り替えたり、集約型の公共交通ターミナル「バスタ」をつくったりしようとする都市は他にも出てきている。阪神・淡路大震災の復興期からようやく新たな開発へと動き出した神戸市などで、日本の街もクルマ中心の都市から徐々に脱却しつつある。

 次世代モビリティの活用

 今年3月19日から3日間、四日市市で「まちなかの次世代モビリティを考える3Days」が開催され、自動運転やグリーンスローモビリティなどの次世代モビリティの試乗会が行われた。基調講演で同市の駅周辺等整備基本構想検討委員会の委員を務める名城大学の松本幸正教授は、公共交通や自動運転などの次世代モビリティを活用していくためにもクルマ中心の街から脱却していく必要があると強調した。

 日本で行われている自動運転や次世代モビリティの活用の検討は、移動手段のみに着目しがちだと感じる。しかし、中心市街地においては四日市市のように、クルマ中心から歩く人中心に優先順位をつけて、街全体をトータル的にデザインすることが重要ではないだろうか。

心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化・多様化と環境を考える活動に取り組む。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て、2013年に独立。国土交通省のMaaS関連データ検討会、自転車の活用推進に向けた有識者会議、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を歴任。編著に「移動貧困社会からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット」。

【大変革期のモビリティ業界を読む】はモビリティジャーナリストの楠田悦子さんがグローバルな視点で取材し、心豊かな暮らしと社会の実現を軸に価値観の変遷や生活者の潜在ニーズを発掘するコラムです。ビジネス戦略やサービス・技術、制度・政策などに役立つ情報を発信します。更新は原則第4月曜日。アーカイブはこちら