いま地球の周回軌道上には驚くべき数のスペースデブリ(宇宙ゴミ)があり、その数は急速に増えています。2021年1月の時点では、10cm以上の大きさのものだけでも3万4000個のデブリが軌道上にあり、追跡できない微小なものまで含めると、現在のデブリ総数は1億3000万個を超えると予想されています。
地球の低軌道にあるデブリは秒速7~8kmの超高速で飛翔しているため、宇宙機がそれと衝突すれば甚大なダメージを受けることになります。わずか数マイクロメートルの塗装片などが、かつてハッブル宇宙望遠鏡のソーラーパネルに穴を開け、スペースシャトルやISS(国際宇宙ステーション)の窓にひび割れを発生させました。
また、近年では人工衛星の数も急増しており、2009年には史上はじめて人工衛星どうしの衝突が発生しています。この事故によって米ロの人工衛星が破壊され、さらなるデブリを生みましたが、同様のニアミスは2020年にも数件発生しています。
現在、こうしたスペースデブリへの対策が急がれています。では、すでに拡散してしまったスペースデブリをどのように除去するのでしょう? ここではスペースデブリの現状と、その対処事例をご紹介していきます。
激増するスペースデブリ
まず実感していただきたいのはスペースデブリの数の多さです。米国防総省の宇宙監視ネットワーク(SSN)では、軌道上にある物体のうち2万2000個を追跡し、カタログ化していますが、そのデータをまとめたものが下のグラフです。これを見れば軌道上を航行する物体が、近年いかに急速に増えているかが理解できます。
【地球周回軌道上にある物体の数】
また、SSNのデータを利用して構成されているサイト「Celes Trak」では、これらの物体の位置を3D動画によってリアルタイムで追跡でき、特定の人工衛星やデブリを検索することもできます。
【軌道上の物体が追跡できるサイト「Celes Trak」】
- トップページにある「Launch Orbit Visualization」をクリック
- 地球を拡大すれば、軌道上の物体が動いていることが分かる
- 人工衛星のアイコン(画面左)をクリックするとカタログリストが表示される
スペースデブリは宇宙開発が開始されると同時に問題視され、宇宙開発におけるもっとも重要な課題とされてきましたが、半世紀以上経過したいま、もはや手が付けられないほどに増加しています。しかし、近年になって、やっとそれを排除する方法が実証化されてきています。
網で捕る、銛で刺す
イギリスのサリー大学が開発した「リムーブ・デブリ」(Remove Debri)は、網や銛(もり)などによってデブリを除去するというシステムです。一辺が70センチほどのこの小型実証機は、2018年4月、無人補給機に搭載されてISSに向けて打ち上げられ、同年6月、日本の実験棟「きぼう」のエアロックから放出されました。
その後、デブリに見立てたキューブサット(立方体の小型衛星)をみずから宇宙空間に放出すると、そのターゲット目掛けて網、または銛を発射して捕獲します。ターゲットを捕獲するとワイヤーによってそれを牽引し、本体に搭載された減速器を起動して高度を落とし、デブリとともにみずからも大気圏に再突入して燃えつきます。実証実験では網と銛、どちらの方法でもデブリ捕獲に成功しています。
【網によるデブリ除去の実動画】
燃料が枯渇した人工衛星にドッキングして延命
赤道上の高度3万6000kmに人工衛星を配置すると、機体が地球をまわる周期と地球の自転速度が同期するため、その機体は地上から見ると空の一点に留まって見えます。こうした効果が得られる軌道を「静止軌道」と呼び、そこに配置された衛星を「静止衛星」と言いますが、この静止軌道上には、気象観測衛星など数多くの機体がひしめき合っています。
静止衛星は軌道を修正するための燃料を搭載していますが、燃料が枯渇してくるとさらに200~300kmほど高い「墓場軌道」に移動され、そのまま投棄されるのが一般的です。3万6000kmという高軌道から高度100km以下の大気圏まで高度を落とすには大量の燃料が必要であり、コストが掛かるからです。
こうしたデブリ化した静止衛星に対処するため、ノースロップ・グラマン社が2019年10月に打ち上げた人工衛星が「MEV-1」です。MEVとは“Mission Extension Vehicle”の略であり、「ミッション延長衛星」を意味します。
燃料が枯渇したインテルサット901に接近したMEV-1は、2020年2月、そのデブリ化した静止衛星とドッキングすることに成功しました。そして以後5年間はその動力装置としての役割を果たします。
このようにMEV-1は退役した衛星を復活させ、その延命をはかります。燃料さえ残存していれば2機目、3機目の人工衛星にドッキングし、そのミッションを延命させることも可能です。
ノースロップ・グラマン社は発展型の「MRV」も現在開発中で、こちらは搭載したロボットアームで軌道上の人工衛星をメンテナンスすることが可能となっています。
日本の民間企業は磁力でデブリとドッキング
2021年3月22日(日本時間)、日本の民間企業によるデブリ除去衛星が、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。アストロスケール社の「ELSA-d」は、世界初の民間企業によるデブリ除去衛星であり、今回打ち上げられた機体はその技術実証機(テスト機)です。
このELSA-dは、サービサーと呼ばれる親機(約175kg)から、クライアントと呼ばれる子機(約17kg)を軌道上でリリースし、磁気を利用して再ドッキングするテストなどが行います。不規則に回転する子機に合わせて姿勢を変えながら再ドッキングしたり、故意に子機をロストさせてそれを追跡・捕捉するその技術は、過去に例がないほど高度なもので、とくに低軌道におけるデブリ除去が期待されています。
【デブリ除去衛星「ELSA-d」】
ESAはロボットアームでデブリを補足
スイスのスタートアップであるクリアスペース社とESA(欧州宇宙機関)が提携し、2025年に打ち上げが予定されているのが「クリアスペース1」です。このデブリ駆除衛星には4本のロボットアームが搭載されていて、それによってデブリを補足し、軌道から離脱させ、大気圏に再突入させます。
2025年に打ち上げられるのはテスト機ですが、そのターゲットとなるデブリ(質量112kg)はすでに決定していて、その除去によって技術検証を行います。
【クリアスペース1】
スカパーはレーザーで撃ち落とす
日本の民間企業としてはじめて放送用通信衛星を打ち上げた実績を持つスカパーJSATも、スペースデブリ除去衛星を開発していますが、そのシステムの最大の特徴は、レーザーを使用することにあります。
打ち上げられるスペースデブリ除去衛星は、デブリに対してレーザーを照射します。照射された物体は、その表面がプラズマ化、または気化し、デブリ自体の表層からそれを構成する物質自体が放出されます。この「レーザーアブレーション」と呼ばれる物理現象による物質の放出が推力を発生し、その力がデブリの軌道を変更し、結果、デブリは大気圏内に落ちて燃焼、除去されます。
レーザーの開発には名古屋大学や九州大学が加わっており、2026年にこの事業を開始する予定であることを、スカパーJSATは公表しています。
このシステムの最大の利点はふたつあり、ひとつはデブリに接触しないため機体の安全性が保てること、もうひとつはレーザー照射に必要な電力が太陽光パネルによって補えるため、重量がかさむ燃料を過分に搭載する必要なく、経済性が高いことにあります。
【スカパーJSATのデブリ除去衛星】
「抑制」から「除去」の時代へ
長年の課題であったスペースデブリの除去は、さまざまな方法が試行されている最中であり、どのシステムが有効であるかは未知的です。しかし、国際法の規制によってデブリの増加を抑えることしかできなかった過去と違い、いま世界はデブリ除去に対して積極的なアプローチを開始しはじめているのです。
【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら